もうちゃ箱主人の日記
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2010年06月15日(火) ボッコちゃん




頂いたチケット(←またかよ! (^^;))で
家内と一緒に世田谷文学館 星 新一展へ ^^

とってもなつかしい。

高校生のころ
リアルタイムで読んでました。(^ω^)



今回の展示で驚いたのは
細いエンピツの文字で書かれた下書き、、、
 とても読めんぜよ  (^ω^)



星 新一を知らない世代の方のために
初期の代表作『ボッコちゃん』の一部を、、、




ボッコちゃん

そのロボットは、うまくできていた。
女のロボットだった。
人工的なものだから、いくらでも美人につくれた。
あらゆる美人の要素をとり入れたので、完全な美人ができあがった。
もっとも、少しつんとしていた。
だが、つんとしていることは、美人の条件なのだった。

ほかにはロボットを作ろうなんて、だれも考えなかった。
人間と同じに働くロボットを作るのは、むだな話だ。
そんなものを作る費用があれば、もっと能率のいい機械ができたし、
やとわれたがっている人間は、いくらもいたのだから。
それは道楽で作られた。
作ったのは、バーのマスターだった。
     《中略》
金は酔っぱらいたちがもうけさせてくれるし、時間もあるし、
それでロボットを作ったのだ。
まったくの趣味だった。
趣味だったからこそ、精巧な美人ができたのだ。
本物そっくりの肌さわりで、見わけがつかなかった。
むしろ、見たところでは、そのへんの本物以上にちがいない。
しかし、頭はからっばに近かった。
彼もそこまでは、手がまわらない。
簡単なうけ答えができるだけだし、動作のほうも、酒を飲むことだけだった

彼は、それが出来あがると、パーにおいた。
そのバーにはテーブルの席もあったけれど、
ロボットはカウンターのなかにおかれた。
ぼろを出しては困るからだった
お客は新しい女の子が入ったので、いちおう声をかけた。
名前と年を聞かれた時だけはちゃんと答えたが、あとはだめだった。
それでも、ロボットと気がつくものはいなかった。

「名前は」
「ボッコちゃん」
「としは」
「まだ若いのよ」
「いくつなんだい」
「まだ若いのよ」
「だからさ・・」
「まだ若いのよ」

この店のお客は上品なのが多いのでだれも、これ以上は聞かなかった。

「きれいな服だね」
「きれいな服でしょ」
「なにが好きなんだい」
「なにが好きかしら」
「ジンフィーズ飲むかい」
「ジンフィーズ飲むわ」

酒はいくらでも飲んだ。
そのうえ、酔わなかった。
美人で若くて、つんとしていて、答えがそっけない。
お客は聞き伝えてこの店に集った。
ボッコちゃんを相手に話をし、酒を飲み、ボッコちゃんにも飲ませた。

「お客のなかで、だれが好きだい」
「だれが好きかしら」
「ぼくを好きかい」
「あなたが好きだわ」
「こんど映画へでも行こう」
「映画へでも行きましょうか」
「いつにしよう」

答えられない時には信号が伝わって、マスターがとんでくる。
「お客さん、あんまりからかっちゃあ、いけませんよ」
と言えば、たいていつじつまがあって、お客はにが笑いして話をやめる。

マスターは時どきしやがんで、足の方のプラスチック管から酒を回収し、
お客に飲ませた。
だが、お客は気がつかなかった。
若いのにしっかりした子だ。
べたべたおせじを言わないし、
飲んでも乱れない。
そんなわけで、ますます人気が出て、立ち寄る者がふえていった。

そのなかに、ひとりの青年がいた。
ボッコちゃんに熟をあげ、通いつめていたが、いつも、もう少しという感じで、
恋心はかえって高まっていった。    《後略》




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