もうちゃ箱主人の日記
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| 2006年12月12日(火) |
ergebenか? gegebenか? |
あるモーツァルト・ファンから下記のような お問い合わせを頂いた。
>魔笛の、僧侶の合唱のbald ist er unserm Dienste ganzの 次の語が > 新モーツァルト全集では、gegeben になっていますが、 手許にあるアーノンクール版CDなどのように gegebenではなくergebenとなっている例が少なからず 見受けられます。(ベームやビーチャム のCDも"ergeben") > 言葉の意味からすると、ergebenの方がむしろぴったりするような 感じもします。決定版とされるNMAを上回る根拠があるとも思えない のですが、両説が生じた経緯についてご存知ありませんか。 > 場合によってはモーツァルテウムのアンガーミュラーさんに問い合わせ > てみようかと思っていますが、メールアドレスがわかりませんか。
こういう質問について調べるのは結構大変です。 一次資料を調べなけりゃなりませんから。 でも、ご質問頂くのは、多少でも信頼して頂いてるから? かもしれませんので、むげにはできません。 以下、数日かけて調べたお返事です。
/////// 《魔笛》(No 18 --T16)の er-geben ge-gebenについて、 これまでにわかりましたことをお知らせします。
1)各版スコアについて ・Dover(原版は、 Peters , Leipzig) → er-geben ・NMA (1969) → ge-geben
2)日本版対訳集での扱い ・小学館モーツァルト全集 14巻 237頁 海老澤 敏訳 → er-geben (使用リブレットの表示なし) ・音楽之友社版 オペラ対訳ライブラリー 荒井秀直訳 100頁 → er-geben (使用リブレットは、 Eurenburg , B&H との表示)
3)NMA新モーツァルト全集のKB(Kritischer Bericht) 現時点では、未刊のもよう。 ベーレンライター社のWeb↓によれば、2006年発行となっているが erscheint の表示がないので、現時点では、未発行と思われる。
Band 19 (Die Zauberflote) Gernot Gruber und Alfred Orel 1970, 2/1985, 3/1993; KB (Rudolf Faber) 2006. http://www.nma.at/german/Stand_der_Edition.htm
4)自筆譜ファクシミリ 閲覧しましたが、当該箇所の台詞部分では、モーツァルトの筆が 極端な「はしょり書き」で、明確に書かれておりません。 (これがそもそもの混乱の原因か?)
5)現時点での結論 一次資料には、上記のほかに、初演時、劇場内で販売されたリブレット の復刻版が刊行されていたはずですが、未確認です。 (以下は、それをふまえての結論) NMA以外の諸版では、いづれも er-geben であり、 ge-gebenとしているのはNMAのみと思われます。 したがって、近年の楽譜でge-gebenとしている根拠は、NMAでしょう。
ところが 変更の根拠については、公刊されている新全集内 Vorwortには、 (ざっと、流し読みしただけですが…) 記載が見当たりません。
NMAでは、既存版との差異については、原則として Kritischer Bericht (批判的校訂報告)で説明することになって いますが 《魔笛》の Kritischer Berichtは、上記3)の通り、現時点では 未刊と思われるため、確認は困難です。
つまり、結論は 「現時点では詳細不明。当面 Kritischer Berichtの刊行を 待つしかないと思われます。」
因みに、上記事情なので たとえAngermuller氏にお聞きになっても、解明は難しいと思います。 (どうしてもということなら、ベーレンライター社経由で 校訂者Gernot Gruberに質問する、ことが考えられます)
もうちゃ箱主人
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