もうちゃ箱主人の日記
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2005年03月02日(水) 西脇順三郎詩集『第三の神話』から

比較的わかりやすいものを1つ。

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   六月の朝  

ひじり坂と反対な山に
暗い庭が一つ残つている
誰かが何時種を播いたのか
コスモスかダリヤが咲く。
ヴェロッキオの背景に傾く。
イボタの繁みから女のせゝら笑いが
きこえてくる。
      よくみると
ニワトコにもムクの木にも実が
出てもう秋の日が悲しめる。
キリコ キリコ クレー クレー

枯れたモチの大木の上にあがつて
群馬から来た木樵が白いズボンをはいて
黄色い上着を着て上から下へと
切つているところだ キリコ
アーチの投影がうつる。 キリコ
バットを吸いながら首を動かして
切りつヾけている。
        おりてもらつて
二人は樹から樹へと皮の模様
をつたつて永遠のアーキタイプをさがした。

会話に終りたくない。
彼はまた四十五度にまがつている
古木へのぼつていつた。
手をかざして野ばらの実のようなペンキを塗つた
ガスタンクの向うにコーバルト色の
鯨をみたのか
      アナバースの中のように
海 海 海
群馬のアテネ人は叫んだ
彼のためにランチを用意した
ヤマメのてんぷらにマスカテルに
イチジクにコーヒーに
この朽ちた木とノコギリのために――。


もうちゃ箱主人