日常のかけら
◇十六夜◇
帰りの遅い三蔵を待ちわびて、三門の石段の一番下に座っていた。 境内に植えられた松の木が晴れた夜空に黒々とした姿を伸ばして。 そして、夜空に浮かぶ十六夜の月。 柔らかな光は、大地の愛し子を包み、抱きしめる。
「うん…遅いよな」
聴こえる声音に返事を返せば、抱きしめる腕に力が入る。
「ダメだって。還らないって…」
もぞりと身動いで、悟空は抱きしめる腕の拘束に抗った。 と、夜風が、悟空の待ち人が総門を潜ったと知らせてきてくれた。
「…そっか…無事だったんだ」
夜風の報告にほうっと、安堵のため息を吐いて、悟空は立ち上がった。 回廊の向こう、松の木々の隙間に微かに光る金色を見つけて、悟空の顔が綻んでゆく。
「傍にいてくれて、ありがと…」
空を仰いで、十六夜の月に笑いかけた悟空は、待ちわびた人の元へ駆け出した。
(悟空)
2008年09月15日(月)
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