日常のかけら
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◇お帰り◇

「今回はずいぶんと来ないと思ったら、こんなに稼いでたんだ」

そう言って、目の前に広げられたアタッシュケースの札束に軽く瞳を見開き、ふわりと柔らかな笑顔を目の前に立つ三蔵に向ける。
その笑顔に三蔵は口角を上げて応えると、くわえていた煙草に火をつけた。

「じゃあ、預かっとくな」
「ああ、頼む」
「うん」

いつものように頷いた俺はトランクのフタを締めた。
それを待っていたかのように三蔵が俺の顔を覗き込んできた。

「てめぇ、今夜は?」

訊かれて一瞬、何のことかと目の前にある三蔵の顔を見やれば、綺麗な紫色の瞳が傍に居ろと言っている気がして、何のことかわかった。

「…えっと…そっちに帰る。だって今夜はいるんでしょ?」

笑えば、

「ああ」

と、満足そうな返事が、触れるだけの口付けと一緒に返った。

「出来るだけ早く帰るからさ、待っててな」

踵を返す三蔵の背中にそう言えば、片手が上がってすぐにその姿はドアの向こうに消えた。

(悟空/parallel)

2007年05月03日(木)