せらび
c'est la vie
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みぃ


2004年12月02日(木) 歯が痛い・・・;

歯並びの悪さがどうにも気になるようになってから、彼是何年経ったろう。

この国へやって来てから、まともな月給取りになった暁には何としても歯列矯正を、と密かに目論んでいた。しかし「まともな」レベルというのの程度が良く分からないまま数年が過ぎても、ワタシの歯並びは相変わらず恥ずかしいままであった。これではいざという時、人様にぱっかりとお見せする事も出来ない。ここは思い切ってさっさと手を着けてしまわねば、何時になっても汚らしい八重歯のまま。少なくともニ三年は堅苦しい器具を口に入れっ放しにするのだから、早く始めたが良いに越した事は無い。

そうじりじりとしているある冬の日、それはつまり去年の今頃、ワタシは同僚の誕生日会というのに招かれた。興味深い事に彼女と旦那は、二周りほど違うとはいえ、誕生日が同じ日だという。お陰で双方の同僚や友人らが大量にやって来て、貸し切りレストランアンドバアは満員御礼であった。


話が長くなるので端折るが、音楽に合わせて人々と一緒に踊っているうち、近頃とんと目が遠くなったワタシは気が付くと、何と暗闇で壁に正面衝突を挑んでいた。

酔っ払っていたからその時は気付かなかったけれど、翌日起きてみたら、ワタシの前歯の様子が何だか変。あらら。一体どうしたのかしら。何だか前歯がぐらぐらするヮ。

ワタシはそれまで入ったきりだった歯科保険の存在を思い出した。今こそ使わなければ!

それはとある大学病院の付属歯科クリニックだったので、予約を取るのに一苦労だったが、それでも何とか「半年後」にはクリーニングの予約に漕ぎ着けた。

歯医者は以前の街で行ったきりご無沙汰していたので、虫歯の存在にも気付かず何年も経っていた。それで口がすっかり綺麗になったところで治療もして貰っているうち、途中でまんまと保険が切れた。仕方が無い、更新手続きを取って、更に治療を続けて、それも済んだところでいよいよ矯正歯科部を紹介して貰った。

そして彼是の検査で数回足を運んだ後、漸く実際の矯正作業に突入と相成った。

それが昨日。

今、ワタシの口内には、青いゴム製のリングが奥歯の間に二箇所ずつ、計八個入っている。いや、その筈だったのだが、そのうち二箇所はきつ過ぎてこれ以上の流血を見るに忍びないという事で、針金がきりきりと詰め込まれている。

針金などと言うと、随分乱暴なものを口の中へ入れたなと思われるかも知れないが、これが貴方、意外と悪くないのです。上手い人が遣ったものならば。下手なのが遣ると、口の中を切ったりして、途端に血豆が出来てしまうけれど。

それよりこのゴムの方が、物を噛む度に歯茎と歯を押し広げるので、なにやら痛い。

とても痛い。

こんなに痛いとは聞いてない。

あれ程痛いのかと聞いたのに、いやただちょっと変な感覚がするだけだ、と言ってのけた見習いの「学生ドクター」とやらを余程怒鳴り付けてやろうかと思ったが、ウェブサイトで先人の書き付けたのを読んでいると、どうやらこの段階が一番痛いらしいと知る。

彼を怒鳴りつけるのは止める事にする。

しかしもう一度どういった手順で今後やっていくのかを、よくよく話し合う必要があるだろう。

何しろコイツは、これまでの数回に渡る検査を通して、ワタシの歯がきつきつに詰まっている事は充分承知していた筈である。それなのに、このゴムの「スペイサー」なるものを突っ込むのに随分と無茶をして、中々入らないからと言って、これにフロスを二本通して輪ゴムを両側に引っ張りながら歯の間に押し込めるという「問答無用作戦」を取ったのだ。

そう力任せにやるものだから、お陰でワタシの上の歯に詰めた銀色の塊は引き剥がされてすっ飛んでしまった。また可哀想にワタシの小さなお口の中には、そして何も知らずに痛みに堪えながら寝かされているこのワタシの純粋無垢なお顔の上には、無残に荒らされた歯茎からの血飛沫が撒き散らされた。

そして言うに事欠いてコイツは、


きっと君には「歯槽膿漏」があるに違いない、


とほざいたのだ。ワタシは(痛いので口が動かなかったが)、眉を歪めた。

ちなみにワタシの歯茎は、随分綺麗で健康的だと、前の歯医者でもお墨付きを貰っているくらいなのだ。しかし流石のワタシも、フロスを二本重ねたのや輪ゴムを使って歯の間を掃除した経験などというのは生まれて初めての事なので、幾ら健康な歯茎を持ってしてもそんな強引な事をやれば、当然血ぐらいは出る。

そういう流血騒ぎを見て、気が付くと他の見習いドクターらもわさわさとやって来て、ワタシの寝かされた椅子の辺りを取り囲んでいた。

そのうち免許を持った監督者である本物の「ドクター」がやって来た。余りの惨事に見かねたのだろう。彼もこれはきついとは言ったが、しかし流石はプロのジェントルタッチでもって、軽々と二つ三つスペイサーを押し込んでいく。そしてどうにも入らない箇所は無理せず針金をこのように捻ってこう通して、とちょちょいとやると、痛みも無く事は済んだ。

そうやって最初から助けに来てくれていれば、ワタシの身の安全も保たれたろうに、随分遅いお出ましじゃないの、じれったい。

恐らく例の見習い「学生ドクター」を他のに変えるか、または矯正手段を当初予定してた銀のワイヤーとプラスチックのブレイスから、透明のマウスピース的「インビザライン」というやつにするか、どちらかを変更した方がワタシの身の為だろう。

この「インビザライン」というのだと、「学生ドクター」との付き合いがそれ程頻繁に要らないし、奴の腕を当てにしないでも治療が出来る。ブレイスを奴にやらせるとなると、こうやって無茶を平気でやって適当な事を言ったりするような輩だから、とんでもない間違いを遣らかさないとも限らない。

しかし、ああも荒っぽい事を平気でワタシの口にやるのだから、奴がベッドでどう振舞っているのかも、想像に難くないというものだ。わざわざ寝ないでもその粗末さが良く分かるヮ、全く。ああ、嫌だ。


昨日翌日
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