A君が通院している病院はとても混んでいる上に検査の関係もあって朝から行っても診察が午後になることもしばしばです。 一応予約制なのですが予約なんてちっともあてになりません。 いつ呼ばれるか見当もつかないのでトイレに行くのも気をつかいます。 当然お昼なんて食べにいけません。 A君のように若くて元気な?患者さんはそれでも平気ですが体調が悪い人や高齢の人にはこたえます。
A君の隣にいた何も食べられなくて点滴をしてもらっていた車椅子のおばあさんもとてもしんどそうでした。 冷たい点滴をすると寒くなります。 「寒い。」というおばあさんのために付き添いのおじいさんが毛布を借りにいきました。 看護婦さんは毛布をひざにかけてあげたついでに無造作にコートを肩にかけるとさっさと行ってしまいました。 とても忙しそうなので仕方ないのかもしれません。 「きちんと着たほうがあたたかいよね。」と言いながらおじいさんが片手ずつ袖をとおしてあげました。
お2人とも80は超えていると思います。 おじいさんはおばあさんの隣に座ってポケットからメモ帳を取り出してなにやら熱心に書いています。 ときおりおばあさんが何かいうと書く手をとめて優しく返答しています。 そんななんてことない光景にA君は心惹かれました。 おじいさんのおばあさんを大切に思う気持ちがA君にも伝わってくるからかもしれません。
時間は午後の2時頃でした。 点滴は終わったらすぐ帰れるようお会計だけ先にすませたほうがいいと看護婦さんが特別に会計書をもってやってきました。 おじいさんはおばあさんを看護婦さんにお願いして急いで会計に向かいました。 看護婦さんとおばあさんの会話を聞くともなしに聞いていたA君です。 ウィダーやカロリーメイトやエンシュアリキッドなど食べられない時の食事について看護婦さんが説明しています。 カロリーメイトを今日病院の売店で買ってためしに飲んでみたおばあさんはとても気に入ったみたいでそれがどこに売っているのかとかいろいろ質問していました。 ちょうどそこへおじいさんが会計を終えて帰ってきました。 看護婦さんがふっと気がついて「おじいさんはお昼は召し上がったのですか?」と聞きました。 おじいさんは「いやわしは・・・」と言葉を濁していました。
ここからはA君の想像です。 おじいさんはおばあさんの車椅子を押して売店まで行って教えてもらったカロリーメイトを買っておばあさんに飲ませたんだろうなぁと。 おじいさんはお腹すかなかったのかなぁと。 おだやかなおじいさんの笑顔を思い浮かべながらなんだか悲しい気がするA君でした。
今A君は思います。 このおばあさんは体調が悪くて辛いでしょうが優しいおじいさんが隣にいるという意味では幸せです。 おじいさんがこんなふうにおばあさんを大切に思うのはきっとおばあさんとおじいさんのこれまでの関係がよかったからなのでしょう。 おじいさんもこんなに大切に思える人がいるという意味では幸せなのかもしれません。 年をとった時こういう関係でいられる夫婦が何組いるのでしょうか? どんなところでもどんな場合でも一番大切なのは心なのかもしれません。
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