書泉シランデの日記

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『最後の物たちの国で』
2004年09月26日(日)

『最後の物たちの国で』 P.オースター

★★★


どこの国とも、大昔ではないにせよ、いつの時代とも知れぬ、崩壊しつつある街へ
新聞記者である兄を捜してやってきた妹が
誰かに向けて、まさに<誰か>に向けてつづる手紙。
街へ来てからの凄まじい日々。
行政は死体処理とゴミの始末を行うだけ。
生産は当の昔に止まり、
公共施設、公共サービス、警察、病院といった機能は停止状態。
他の地域との交通もマヒし、
街がこの先、どうなるのか誰も知らない。
そこでわずかに助け合うことの出来た老女との日々、
兄の後任で来た男との偶然の出会い、
わかれ、再会、
慈善事業の手伝いと休止、
慈善事業のリーダーである娘との関係
・・・徹底的にモノローグで語られる暗い状況での物語。

この先何がどうなっていくのか、まるで不確かな状況で
それでも「もの」が「者」でなく「物」であることの意味が
次第に明らかになる読書の快感。
このタイトルは日本語表記になったほうが
原題より含むところが大きいかも。
(原題は"In the country of last things")

もともとは息子が買ってきていた本。
親がほめると必ず冷ややかな反応を示し、
親が読まないと、読め読めとうるさい。

大体、柴田元幸の訳する類の本をあまり嫌だと思ったことはない。
これもいかにも彼が取り上げそうな作品だと思う。

(白水社 Uブックス)






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