王様の耳はロバの耳

2005年05月28日(土) ある日の風景

サンジはもう何度目かになる料理に挑戦中でした。
天才コックと自他共に認める
サンジの作った料理はそれはもう本当に美味しいのですが
サンジにも作れない料理がありました。

理想の朝食ってやつです。

ただの理想の朝食ではありません。
理想の朝食のさらに上を行く超理想の朝食です!
とにかくものすごい朝飯なんです!!

この船のクルーが全員起きてきて一番最初に食べるご飯です。
朝食だけはサンジは全員の好みを出来る限り叶えようと思っていました。

みんな美味しそうに食べてくれます。
蜂蜜をたっぷりとかけた甘いふかふかしたパンケーキを少し渋めに入れたアールグレーとごいっしょに。食欲のない朝のレディには野菜をベースに3日間コトコトコトコトと煮込んだコンソメスープとライ麦パンのチーズとレタスのサンドウィッチを。二日酔いでちょっぴり弱ったお腹にはミルク粥をちゃんとぬるめの温度で。甘いフルーツとちょっぴり酸味の強い自家製ヨーグルトなんて取り合わせも。朝から肉を欲しがるやつのタメには分厚く切ったベーコンと卵を焼いて。
食後にはコーヒーや紅茶などお好みと気分に合わせて♪

でも理想の朝食には少し足りませんでした。

サンジが朝食を作るようになってずいぶん時間がたってから
ナニが好きなのかではなく、ナニをよく食っていたのかを聞いてみました。
今までそんな会話もした事ありませんでしたが
ふと思い立って。
「お前の小さい時ってナニ食ってたの?」
とってもさりげなくポロポロっと。出来心で聞いてしまいました。
まるで理解できない食生活だったと聞かされた瞬間のあの脱力感ったらありませんでした……。

イマサラそんなこと言うなんて…と少し恨めしい気分になりました。

だってそれは多分サンジがいままで
作ったことどころか食べて事のない食べ物が含まれるからです。
正確にはどの食材でどんな味付けをしたらいいのかすら分かりません。
本はあります。
レシピはなんとか取り寄せて
今ではソラで作れる出あろうってくらい読み込みました。
でもレシピがあったって
足りない食材と足りない経験と足りない時間は
いくらサンジが天才コックさんでも
どうしようもありません。
サンジはただ理想の朝食を創りたいだけなのに。

そして今まで美味しいって顔がこいつだけは
ちょっと足りない気がしたのは気のせいでなく。
コックとして怠慢だったことも認めざるを得ませんでした。


「……ふふふふふふふふふふふふふ創りゃーいーんだろー!創りゃー!ふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふこの海の天才一流コック様に創れねーもんなんか古今東西存在しねーよ…ふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ」


サンジにとっての理想の食卓は
あたたか過ぎたり冷た過ぎたりもしない。
コッテリもどっさりもしていない。

そぽくでシンプルでいながら
一口食べたらホッとする。
食べ終わったときにはホッコリニンマリと元気が沸いてくるような
全員が今日もがんばるぞーって思えるような
そんな食卓でした。

でもどうしても作ったことも食べたこともなくて
手入れにもコツがあってって物に。
しかも作っている最中に味見すら出来なくて。
正直食物なのかも疑問に思う物に悪戦苦闘していました。

「だって知らねーよ………なんでこれ卵の殻入れるんだよ…。こっちはぜったい違う菌一緒に繁殖してるよな……いやいや失敗は成功の母だ…つーか失敗なんてしてねーぜ!!………………たぶん。」

もう考えると嫌な気分になります。
臭いのです。
これはもう移動させるしかないと思いつつ
湿度と気温の問題で
移動させるタイミングもわかりません。

「………冷蔵庫に入れたら菌の繁殖とまっちまうかな…つかこれを冷蔵庫に入れたりしたら他のものに匂いうっっちまうんじゃねーかな………。」

この料理は気が抜けず
昨日まで順調に運んでいたかと思えば
その次の日には取り返しの付かないことなっていたりもします。
船の上でつくるのにはスペース的にも時間的にも向かない代物だと気がついたのはすっかり仕込みもすんで1週間もたったころでした。

うるわしのナミさんがキッチンに入ってくるなり
「くさっ!!」
と顔をゆがませて全部の窓と言う窓を開けられて換気されてしまったときには
もう本気でどうしたらいいのかとグル眉をハチの字に寄せて
モジモジと悩んでしまったくらいでした。
「おーサンジーなんだー!!この匂い!!ゲーーェェ」
鼻の意見は黙殺です…。
「うぉぉぉなんかすげー匂いだなー!!でもこれ食べ物だろ!!」
「食い物かーなんかすっげーーー匂いだなー!!食えんのかそれ!」
青っ鼻の非常食とわが船の食欲魔人は匂いにも何のその。
「あらあら懐かしい匂いね…」
ロビンちゃんが優しくニッコリと微笑んでくれて
その微笑に救われる気持ちでハニャっと笑ったら
そのニッコリの顔はそのままで
目の前でバタリと扉は閉じられました…。


「ど………どこがベストなんだ?湿度とか考えたら倉庫なんかベストなんだけど、あんなとこに置いたらレディたちが心地よく出入りできねぇし…。共有スペースはダメか、でも格納庫はダメだあそこは雨とか振り込むし温度が保てねぇ…」

もとより狭いメリーの中です。
キッチンに置いたのだって他に手がなかったからだし。
つかもとよりこんな匂いがするとはサンジだって思いもしなかったんです。
ただサンジは理想の朝食のためにも。
ナニよりも創りかけの料理をここで投げ出すなんて。コックのプライドにかけてもしたくはありませんでした。最後の手段として考えられる場所はひとつしか思いつきませんでした。
湿度温度共に安定していて、それでいてレディの出入りのない空間。



そう男部屋でした…。


言うまでもなく
キッチンよりも機密性の高い男部屋です。燦燦たる匂いは、まるで殺虫剤をまかれた害虫のように男共を追い払います。でもサンジはめげません。
あとちょっとな気がします…なぜ気がするかというと完成系を見たことがないからです。レシピと必死に見比べながらそろそろ出来上がりなはずの現物を見つめます
「写真だともう少し乾燥してて艶があるよな…コッチは…なんか水が出てきた……」
気分は魔女鍋…。
ここまでやって失敗だなんてなったらどうしようかと匂いも気になりません。
かたっぽなんてもはや絶対に腐ってきています…。
これが食べられる物なのか…。
「いやいや珍味なんてものはナニが美味くてナニが不味いのか本人たちにしかわからないのが珍味なんだ!!…でも腹………壊さねーのかなこれ食っても…あ………味見………」

多少の腐ってるものは食う自信があります。
腐ってても食える範囲内ならもったいないので食べます。
贅沢は敵です。
でも………多少じゃなく腐っているものを食べる場合は勇気が必要です。
スプーンに少しだけすくってみます。
糸をひきました……。

ひぎゃーーーーーーーーーーーーーー
匂いも見た目もこれ以上はなく強烈です。

しかしコックが作ると決めたものです。コックが作ったものはどんなものでもすばらしく美味しく大変身するはずです。
たとえ見た目がアレでもこれもコックの作った料理です。たとえ匂いが涙目物でもきっと美味しいはずです。
てくまくまやこん……。

覚悟を決めると男らしく口の中にズボっと突っ込みました。
口の中に広がる苦味と鼻に抜ける独特の香りと……このねばねばした感じは…やっぱり腐ってるんじゃ…でも腐敗した食物に感じられる独自の刺激がない……。
もう一度もぐもぐとゆっくりと下の上で転がして念入りに味を確かめます。

「これに味つけるならソイ………ソース?いやそれだとこの匂い消えねぇんじゃないのか…?ハーブソルトとかのがいいか?ピラフとか焼き飯とかと一緒でも美味いかもしんねぇな…」
口の中でゆっくりと確認していると上から声がかかりました。

「醤油かタレだ。カラシと葱つけてくれ。生卵も美味いし場所によっては砂糖入れるとこもあるらしいがなオレはあんま好きじゃねーな。焼くとこもあるがオレはそのまんまがいい!」

「………!」

「そっちのはぬかづけか。美味そうだな多分それは食べごろだな、もう出して切っといてくれ。オレは別に丸まんまでも構わねえが。なすにもカラシつけて食うとうめえな。蕪もそんくらいの方が歯ごたえ残ってて好きだな。古漬けで茶漬けにしてもうめえけどな」

「………」

「しっかしすげー匂いだなー密封容器に入れたんだったら納豆はそんなに開けなくてもいいんだぜ。たしか。まあ納豆は腐んねーからなほっときゃいいんだ」

「………うそだ。腐ってる…つかこれどうやって保存すりゃいいんだ………」

「ウチじゃコタツからだしたら一食分ずつ小分けにして涼しいとこにおいてたぜ。つーかいいんだよ納豆は。ちゃんとできてりゃいつまででも食えるんだよ。」


こたつ??
ゾロの口からでたウチって単語にもるなんだか物知りブリッコなゾロにも。ちょっとうらみがましく上目遣いになってしまったものの。知らない事は悪いことではないりで。とりあえず視線はそらさずにちゃんと睨み返しました。
基本です。

「これはそんな頻繁に作ってやれねーからな。大事に食えよ」

「おうっ!」

ニカッと嬉しそうに笑った顔がサンジの大好きな顔だったので
思わず見ほれてしまいました。
そしていつのまにやら隣にやってきたゾロにその場でキスされてしまいました。
思いっきり納豆臭いキスにもなんか嬉しくなったので。思いっきり応えてしまったら、はずした口が糸を引いてなんともエロいような……そうでもないような…情けないような温かいような………。



胸が理想の朝食の事を考えた時のようにホカホカしました。












納豆作ったんですよ………すげーー強烈な匂いと強烈な味だったのできっとしっぱいしているなと判断のもと少し食って廃棄しました………○| ̄|_
納豆菌植え付けて腐らせるにしてもなんかコツがあるらしいですよ。
ぬかずけもしっぱいした事があります………。

さあジャンプ読もうっと。









うおっソゲキング………イカス………














 < 過去  INDEX  未来 >


遠山宙

My追加