雑記目録
高良真常



 ひとめあなたに… (本)

ひとめあなたに…
    新井素子
   角川文庫


地球が、あと一週間でなくなってしまう。
付き合っていた恋人にフラれてしまったあたしがヤケ酒をして、目覚めた翌日。
そんなニュースが飛び交っていた。
何でも、とにかくでっかい隕石がやって来て……地球、それに衝突するとひとたまりもないそうなのだ。防ぐ手は皆無。地球、あと一週間で消える。
絶望に狂う街。あと一週間。
そう、あと一週間なのだ。
なら。それなら。
せめてひとめ、あなたに会いたい――……。



「隕石が降ってきて、地球の運命はあと一週間」。SFでは多分、使い古された手だろう。SFならば、その隕石をどうにかしようとして、そこにドラマが生まれる。

が、本作は違う。

手立てはなく、地球はただ滅ぶに身を任せている。人々は狂気に己を委ねている。
そんな狂乱の中で、ただひとりに会いにいくために歩く主人公と、彼女が出会う人間の狂気とを描く小説。
その狂気が、本当に一人一人書き込まれていて、恐ろしいほどに切ない。
全て自分の夢だと言い切り、ただ眠る少女。
世界の破滅が理解できず、夫の帰りを待って料理する女性。
受験勉強を続ける少女。
それらに翻弄されながらも、ただひとりを目指して歩き続ける主人公。
やっとで辿りついたとき、もう地球の運命は数えるほどしかなくて……。

終わりが切なく、どこまでも破滅の幸福に満ちた、そんな小説。











2004年09月27日(月)
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