a short piece

2006年02月13日(月) sweet cool day 0214【28 仁王編】





まるでお菓子の工場のまわしもんばっかだ。



うんざりしながら、天を仰ぐ。

いつもどおり制服から着替えて、普段通りにテニスコートにいく校庭をみれば、

まるで普通じゃない光景に校庭中が浮かれとる。

まあ、そりゃ予測はしちょったけどのぅ。

部活にならない、連中があちこちで女の話にうつつをぬかしとる。

テニス部は、やたらとある多面コート自体が基本関係者以外立ち入り禁止になってるから、そんなこともないんだろうが…。

なんせ管理も根性も硬い副部長がおるから、女子はコートに近づきたくても近づけん状況だろうさ。そう思ってたが…これがまたまた。

今年はなかなかの強者がいたらしい。

たったい、どこから入り込んできたのか。

制服のスカートから覗く膝がちょいピンク。かなり早くからここに的を絞ってポジション取りしていたらしい。

よくみつからなかったもんだ。

2月の空はまだひんやりしてて、すっぴんな足に冷えが堪えるだろうに。

よくがんばるねぇ。



俺がラケットまわしながら、気づかないふりして、ぷらぷら歩いていく。

うーん、やっぱ、こっちにくるんかのぅ。

じっとみている。チョコ色にサーモンピンクのタイをかけたようなBOX持ちが、ひとり。

つい目が逢ってしまった。

やば。

目を見れば、わかる。これはちょっとマジなんかのぅ。



こっちにくるなよ、めんどくさい〜と思いつつ、近づいていくと案の定だった。

学級章は1年か。顔もちーっとも知らん女だった。



「仁王先輩、貰ってください」



手のひらにきちんと納まってる小さな箱を差し出してくる。

真田にみつかっても隠せるくらいの大きさに、考えてたのだろう。

サイズ的にはちっさめ、高値って感じがする。



「すまんが今年は遠慮しとるんよ」



2月14日。

あーもー何回同じ台詞をいったことか。



そういった途端、じわぁ…となんともいえない潤みが瞳を満たす。

ああ、参った。うざいのう。

あっさり駄目もとだからと、退いてくれるやつはまだいい。

こういう真面目な人が正直一番扱いづらいんじゃ。



「やっぱり…やっぱり駄目ですか?」

「すまん」



差し出した掌に包まれ、隠れる箱に、痛ましげに謝罪するしかない。金も気持ちもいっぱい

かけてもらったうえに申し訳ないのう。

貰う必要もなくなった俺にとっては、ただめんどくさいイベントになってしまっただけ。

この俺が、なんで今日ほどこんなに謝り続けにゃーならんのよ。



「そうなんですか…やっぱり彼女とかいるんですか?」



「そうだなぁ…くれる理由が『付き合って』っていうことならやっぱり貰えんな。好いた相手は他におるんよ」



彼女、じゃないけど、まさか彼氏というわけにもいかんし。

相手も巻き込んで、でんじゃらすな賭けをするほど俺はアホじゃない。



「やっぱり誰かいるんですね…先輩、あまり彼女みたいな人とか一緒に歩いていたりしなかったから

ウワサかなーなんて思ってたんですけど…」



「マジすまんね」

「…はい」



今年断り続けてわかったが、ぶっちゃけ本当のことをいってしまうと、9割がたの相手はあっさり引いてくれるもんだ。



「あの、感謝チョコとでも、やっぱ駄目ですか?」



あちゃー。これは案外相当真剣なんだねぇ。オレにねぇ。

食い下がる物好きな彼女の必死さに、俺はついラケットをまわした。

ありがたいんだがー



「んー感謝されるイワレもないしのぅ…ほんと勘弁な」

「そうですか…」



華奢な肩が項垂れるのを見るのは俺なりに辛いもんもあるが、こればっかしは貰う訳にはいかんのよ。

ひとつもらえばもう後がめんどくさくて。

別にひとつもふたつも、いくつ受け取っても、はっきりいってあいつは何ともいわんだろうさ。これは俺の勝手な理由だ。



「先輩の好きな人って、どんな人なんですか?」



風より小さな、微かな声で、意外なことを聞かれて、足がとまる。



オレの好きな相手。



「そうだのう…温厚そうで誰にでも公平でジェントリィな外見とまーったく違っててなぁ、警戒心が薄くて…情が厚くて、

めちゃめちゃお堅くて厳しくて…隙がなくてのう。でもやっぱりどこかぽっかり抜けてて、そこがめっちゃかわゆいな


「……なんだか判りにくいです」



「そうだな。オレもそう思う」



こんな日でも、きっとオレの心配なんぞ、まったくしとらんだろう、あいつが待つコートにむかう。


「でも、あいつでなきゃダメなんだ…」



笑うしかないね。

多分、いつもずっとどっかですれ違ってそうじゃねぇ?

オレは一生、あいつをだまし続ける。それをあいつが由としてくれる限り。

ずっと、オレにだまされようとしてくれるつもりなんだろ?

なにより公平な天秤で物事を量るくせに、自分のことはわからんままに。

そのきれいな目がどんどんオレのせいでみえなくなってしまえばいいさ。オレが手を引かなきゃ何処にもいけないくらいにみえなくなってしまえばいい。

そうしたら、盲導犬よろしく一生、オレが歩ける限りどこまでも、その手を引いて好きなところに連れて行ってやる。



誠実で優しい、残酷なまでに誰にでも公命正大なやつ。

俺に出来ることはただ我儘なこと。

この思いが消えない限り、いつまでだって傲慢なまでに奪ってやる。

どんな日も。

おまえを奪い尽くそうとしてやる。

可能な限り、そりゃあ、もう永遠にそうしていくさ。

柳生。だから諦めなって。

それを望んでいるのは自分だって早く気が付けばいい。

そうしたら、オレたちは対等になる。



そのときが楽しみだ。

イライラするほど、オレをみてくれればいい。

そうさ。

こうしてお前しか見てない、オレみたいに。



こんなふうに。









p.s


「はい、仁王くん」

「なんじゃ、このチョコは ? !」

「妹からです。rすばらしい出来の手作りですよ。感謝していただくように」

「・・・・・・・・散々断ってきたっつーのに、オチがお前かい…」



やっぱり愛を伝えんのは難しいもんだね。



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