けろよんの日記
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2012年07月21日(土) エリザベス女王のお針子 裏切りの麗しきマント

エリザベス女王のお針子 裏切りの麗しきマント
(原題:Tread Softly)
  ケイト・ペニントン作 徳間書店

近所の図書館の「おもしろい本みつけた!」特集で
紹介されていた本。

「仕立て職人の娘、13歳のメアリーは刺繍が得意なお針子。
 父が使えるシドニー卿のもとにウォルター・ローリーが訪れた。
 シドニー卿の妻子がエリザベス女王を訪問するのに同行しようというのだ。
 そして、その際に身につけるマントを作るのはメアリーと父の仕事になっ  た。そんなとき、メアリーはカトリック派の女王暗殺計画を偶然耳にして
 しまった、、、来合せた父は殺されてしまい、、。」

原題はアイルランドの国民的詩人イェーツの詩集
「葦間の風」の一篇から取られているようだ。
冒頭に引用あり、とても美しい詩。
「あなたの足もとにぼくの夢をひろげました。
 そっと歩んで下さい、夢の上なんだから」

そんなに分厚い本ではないのに、
夢、野望、愛、冒険、歴史、政争、ファッションの流行、
サスペンスがぎゅっ!
と詰まっている。格調高い上質の一冊。

13歳のメアリーは既に職人の誇りを持つ娘。
と同時に自然の中にある美しいものを布の上に刺繍でとどめたい
というのが彼女の最上の夢で、図案を工夫している時が一番楽しそうだ。

「雪の結晶の模様を銀糸で刺繍してもいいんじゃない?
 胸の赤いコマドリ、赤い実をつけたヒイラギの小枝、
 それぞれの図柄のまわりは金色のアラベスク模様と銀色の
 スパンコールで作る渦巻き模様で囲むの。(一部略)」

 メアリーに美しいマントを作らせ、そのマントによって
女王の寵愛を再び取り戻そうというウォルター・ローリー
夢や憧れ、世の中にある美しいものあれこれは、
ウォルター・ローリーや宮廷人に取っては
出世の鍵や一時のなぐさみでしかなく、
政治のために踏みにじってもよいものである。
古今東西ここのところは変わってないんだなあ。

 ウォルター・ローリーの野心を利用し、
女王を暗殺しようとするカトリック信者の男たち。

 圧倒的な権力と存在感を持ち、同じ位の孤独感の中にいる
女王エリザベス。

書きたいことは沢山あるのだが、
何よりも羨ましいのはメアリー、
美しいものを作るというシンプルで
力強い喜びに生きている。

女王のメアリーへの言葉
「刺繍で夢をあまた生み出すがよい。
 金のフクロウ、白バラ、立派な牡ジカやライオン
 ワシやグリフィン…そういった夢のあれこれを!」

作る人も、作られたものを楽しむ人も。
一読必須です。


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