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ムシトリ日記
加藤夏来
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2005年12月13日(火)
ナルニア予習(復習?)

泥足にがえもんの台詞:


ひとこと申しまさ。あなたがおっしゃったことは全部、正しいでしょう。このあたしは、いつもいちばん悪いことを知りたがり、その上でせいぜいそれをがまんしようという男です。ですからあたしは、あなたのおっしゃることがらを、一つとしてうそだとは思いませんさ。けれどもそれにしても、どうしてもひとこと、いいたいことがありますとも。

よろしいか、あたしらがみな夢をみているだけで、ああいうものがみな――(中略)頭の中につくりだされたものにすぎないと、いたしましょう。たしかにそうかもしれませんよ。だとしても、その場合ただあたしに言えることは、心につくりだしたものこそ、じっさいにあるものよりも、はるかに大切なものに思えるということでさ。

あなたの王国のこんなまっくらな穴が、この世でただ一つじっさいにある世界だ、ということになれば、やれやれ、あたしにはそれではまったくなさけない世界だと、やりきれなくてなりませんのさ。(中略)

あたしらは、おっしゃるとおり、遊びをこしらえてよろこんでる赤んぼ、なのかもしれません。けれども、夢中で一つの遊びごとにふけっている四人の赤んぼは、あなたのほんとうの世界なんかをうちまかして、うつろなものにしてしまうような、頭の中の楽しい世界を、こしらえあげることができるのですとも。そこが、あたしの、その楽しい世界にしがみついてはなれない理由ですよ。

あたしは、アスランの味方でさ。たとえいまみちびいてくれるアスランという方が存在しなくても、それでもあたしは、アスランを信じますとも。あたしは、ナルニアがどこにもないということになっても、やっぱりナルニア人として生きていくつもりでさ。(中略)

さっそくにあなたの御殿をさがり、この先長く地上の国を求めてさすらおうとも、暗闇の中に出かけてまいりましょう。どうせあたしらの一生は、さほど長くはありますまい。しかし、あなたのおっしゃる世界がこんなつまらない場所でしたら、それは、わずかな損失に過ぎませんから。





ナルニア王国物語の四冊目、「銀のいす」より、ちょっと長いですが引用です。これは物語中で、地下の国の幻覚の中で登場人物の故郷である地上の国を否定されたときに言い返した台詞ですが、考えてみるまでもなく、現実にはルイスの創造していたナルニア王国はまさしく存在しない、まぼろしの国でしかなかったわけです。そう考えるとまことに暗示的ではないでしょうか。

物語を作り上げることには、常に現実との乖離という危険がつきまといます。何をどうとりつくろっても、夢に溺れ、あっちの世界へ迷い込んでしまうことは、みてくれのいいものではありません。

どこまでも絵空事でしかない、物語という存在のむなしさを究極に弁護する方法として、にがえもんの用いた論理があります。「私は夢を見ている。その夢は、現実よりも素晴らしい」。お気をつけください。これを真の意味で成立させることができるのは、ごく一握りの選ばれた人間だけです。

ただ、そうは言っても、その選ばれた人間が成立させた夢を楽しむことは、どんな人にもできることです。文末に書いても意味ないだろと思いますが、「ライオンと魔女」日本語版は来年の公開です。普通に楽しみにしてます。