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2004年07月09日(金) 愛を乞う

夫に私の浮気が発覚する前、
夫は私のことをよくこう言っていた

「弱虫の泣き虫」

人に対して強い態度をとれない。
何か無理を言われてもニコニコして「いいよー」と言ってしまう。
断ることができない。

大声を出されると、口をきくことができない。
机をバン、とたたくとか、ドアをバン、とされると
とたんにすくんでしまう。

人がどう考えているか、気になって仕方がない。
人が、大変だろうなとか、面倒だろうな、とか
思うと、ああ、いいから、私がやるよ、と言ってしまう。
やって欲しいなと思うことも
いやな顔されるかな?と思うと、言うことができない。

そして全部抱えてしまって、あっぷあっぷしてしまう。

***********

子どもの頃、私は

大人になると、みんな、子どもの気持ちとか、子どもが考えていることが
わからなくなってしまうんだ、って思ってた。

赤ちゃんの時の記憶をなくすように、
大人になると、子どもに感情があるということを忘れちゃうんだって。

ずっと、ずっと、本気でそう思ってた。

でも、違った。
私が親になって、子どもといっしょに過ごして
初めてわかったのは、そのことだった。

なんだ、子どもの気持ち、わかるよ、って。

本当にびっくりした。

母はなぜ、あんなに殴る、蹴るができたんだろう。
泣いて泣いて、しゃくりあげて、
それでもしゃっくりが止まらなくて苦しい子どもを
なぜ、殴り続けることができたんだろう。
なぜ、あざができるほど
目が腫れ上がるほど、続けることができたんだろう。
ごめんなさい、ごめんなさい、と泣いて叫ぶ子どもを。

叩かれるのが痛くて自分の腕で自分をかばうと
「反省してないのかッ」と、もっと叩かれる。
だから、腕はだらんと下げたままでいなければならなかった。
抵抗しては、いけなかった。

わからない。どうしてそんなことができたの?

高校生の時、掃除が悪いといってぞうきんを口につっこまれた。
げえげえと吐く私を、母はせせら笑った。

なぜ?

でも、それが普通なんだと思ってた。

でも、違う。
そんなこと、普通の人はしないし、できない。

************

高校生のとき、苦しくて苦しくて
一度、母を刺して、自分も刺して死んでしまおうと思ったことがある。
それくらいすれば、私がどんなに苦しかったか
わかってもらえると思った。

でもその時、私を思いとどまらせたのは、幼い時の母のひと言だった。

小学校上がったばかりくらいの時。
私は、母と台所に立ち、夕食の支度を手伝っていた。
TVのニュースで、踏切に進入して轢かれて死んだ女児のニュースが流れ
私は、ふと、おずおずと聞いてみた
「私がこうなったら、どうする?」って。

母は「私も生きていけないかもしれない」と。

私は、びっくりして。
まさか、そんな言葉が返ってくるとは思わなかったから、
とにかく、びっくりして。

そして、感動した。うれしくてふるえた。泣きそうになった。

ずっと覚えていたその言葉が、
何度殴られても、口の中に血の味が広がっても
泣きすぎてしゃっくりで苦しくても
翌朝、目が腫れ上がって、そのまま学校に行くことになっても

それでも、そのひと言があったから、生きていた。
本当は、愛されているのだと思っていたから。

**************

結婚して家を出てから、「愛を乞うひと」という本を読んだ。

虐待されて育った女性が、母を捜す話。

その中で、
「私は愛を乞うていた。愛乞食だ」
というようなセリフがあった。

その言葉にはっとして、深く深く、つきささったその言葉に
涙がとまらなくなった。

そうだ、私は、愛乞食だ。

求めても求めても、満たされない、愛を欲する、乞食だ。

認めて欲しい、見て欲しい、愛してほしい。
そのためなら、なんでもする。
いい子にもなる。とことん頑張る。

だから、愛をください、私を愛してください。

ほら、こんなにいい子だから、愛してください。

でも、私が尽くせば尽くすほど、夫は私に依存するようになり
仕事が気にいらないと、すぐに断り、
クライアントと気まずくなり、
バカばっかの奴らと、こんな安い仕事できるか、と言い、
どんどん、仕事が減っていった。
私に送られてきた明細を先に開封してその金額に一喜一憂し、
やがて、「ヒモって最高」とまで言うようになった。
君がやったほうがうまくできるから、と
家事も育児も、仕事も、すべて一人で私がすることになっていった。
いっしょにやってよ、と言っても
僕にはできない、とか、僕じゃわからない、とか。
ちょっとした封筒の宛名書きさえ、
私のほうが字がうまいから、と全部私が書いていた。

苦しくて苦しくて、他に愛を求めた。
偽りでもよかった。誰かの腕の中に包まれたかった。

浮気が発覚したとき夫は私を殴り
「愛していたのに」と言った。
その直後、自分の女友達にメールをしていた
「殴ってやった!やった!」

愛じゃない。これは、愛じゃない。

母は、私を思い通りにしようとする。
思い通りにならないと、とたんに攻撃をしてくる。

愛じゃない。愛じゃない、よね?

そして、ヒロは、いつか、遠くない将来に
私のもとを去っていくだろう。
愛している家族を守るために。躊躇なく。


愛して欲しい。私は、乾いて、乾いて、どうにかなってしまいそうだ。

私は、最低だ。何もきちんとできない中途半端の自分。
すべてが、からまわりしている。
どうしてきちんと、生きることすらできないんだろう?

私は、自分からすら、愛してなんかもらえない。


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