徒然なるままに、雑食。 





2005年06月05日(日) 結人お誕生日おめでとうss


抱きしめてやったらキモイって言われた。
笑いながらぐいぐいと体を押し返しながら少しだけ寂しそうな声で。


指きりげんまん、違えるときは君の傍で。




空は快晴絶好の旅立ち日和。お、また一機飛び立った。何でこんなに近いのに音が聞こえないんだろうな。
このガラス窓はどれだけ厚いんだ?
そんなこと考えながらボケっとしていると視界の端に両手一杯のジュースやら軽食やらを携えて慎重に歩いてくる影。
あのね、そういう時は一人分をそれぞれの手に持つんじゃなくて、サンドイッチのパックは重ねて左手、右手にジュース二本抱えればいい話でしょう、君。
こいつこんなんでホントにプロやっていけんのかなって一瞬本気で心配になった。
でも俺はのろのろと近付いてくる一馬に近寄って「持ってやるよ」なんてことは言わない、しない。
いつも通りに椅子に座ったまま、遅かったじゃんか、って笑ってやる。
そうすると一馬は、きっと眉間に皺を寄せてむっとした顔で言うんだ、だったらお前が買いにいけよ。
俺は返す。
だってじゃんけん負けたの一馬くんじゃーん。そして心の中でいつも最初にチョキを出すあいつをせせら笑うんだ。まったく可愛げの無いのに可愛いやつめ。って。
いつも通りに。


一馬は俺の隣の席まで寄ってきて、ストンと腰を下ろした。

「遅かったなー」

サンドイッチとジュースを礼も言わずに取り上げて笑いかける、返事は、ああ、うん、それだけだった。
肩透かしを食らったような気がして続く言葉が出てこなかった。
キンキンに冷えた缶のタブを開ける。何でペットボトルじゃなくて缶なんだよ。機内で飲めねーじゃねーか。
まぁカッペだから仕方ないか。
文句は言わずに一口飲んで言葉の出てこない喉を潤す。
一番前の席に座ったので発着する機体が一番間近で見える。
着いては飛び、着いては飛び。単調な流れだ。
乗っているとあんなにも興奮するのに外から見るとこんなもんなのな。

しばらくボーッとして、会話も無かった。
不意に、どういう脈絡か一馬が口を開く。

「そういや俺、U16の選考んとき、落ちたよなぁ」
「は?」
「そんとき結人は受かって、次の選考では俺と英士は受かってお前は怪我で落ちた」

もしかして目の前にいるこの世のものじゃ無いやつに話しかけてでもいるんだろうかと思ったけれど俺のこと呼んでるからやっぱりこれは俺に向けて、だろう。
アナウンスが途切れる事無く流れる中でその声は紛れて消えてなくなってしまいそうに静かだった。
じぃ、とその横顔を見つめると、見られていることには最初から気付いていたのか、ゆっくりと首が回されて視線が合う。

「あんときはお前と離れてサッカーやってる、って本気で思って、仕方の無いことだけど、やっぱり少し寂しかったんだ」
「・・・ユースの練習で会ってたけどな」
「だから本当は離れてなんかいなかったのにそれでも違う舞台でボール追って、それだけで離れてるって思ってたんだよ」
「ガキだなー」
「ガキだったよ、ホント」

笑って背けられた目が俺のシューズの辺りを這って、真っ直ぐ前に向けられる。
見慣れた横顔なんて見たって全然楽しくなかったから、俺も前を向いた。

嘘だ。

本当はずっと見ていたかった目に焼き付けたかった視線の先で今しがた着陸したピカチュウの絵が描かれた飛行機なんかよりずっと毎日毎日会って話して笑って喧嘩してそんで一番長くサッカーしてた、親友であり戦友の顔を見つめ続けたかった。
忘れないように、覚えていられるように。

けれどそれはいつも通りじゃ無い。
俺は今日は最後までいつも通り、のポーズを取らなければならない。このサンドイッチの最後の一切れ、忌々しいトマトの入った部分を取り出して残りを咀嚼して、少し生温くなったりんごジュースを無理にでも全部流し込んで、チケットに載った番号のアナウンスがあったらスポーツバッグ片手によっこらしょと少しじじむさく立ち上がって座ったままの一馬にじゃあなと一言笑って言葉を残す、とても自然に、だ。
そしてきっと俺の背中を見つめているだろう一馬の視線を感じながらゆっくりとゲートに向かって歩き出す。

完璧だ。

そうでもしなければ、うっかり泣いてしまいそうだった。

そうだよ俺は意外と涙もろいよ、実は一馬なんかよりずっと。
だけど一馬は自分の感情にありえないぐらいに素直で、俺はちょっとばかしひねくれてたから、そう気付かれなかっただけで。
(先に広島に旅立ってしまった聡い親友あたりは気付いていたかもしれないけれど)

だからさ、一馬、お前もいつも通りにしてくれよな。
困るんだよそうしてくんないと。俺泣いちゃうよ?カッコ悪いじゃんか。
解ってるよ、さっきの話、遠まわしに言いたいんだけど上手く言えなくて結局直接的に言ってしまうかそれか相手に伝わらないかの極端なお前の言い回し。
長い付き合いだもんな。

「まー、向こう行ったらケータイでメルして「今からそっち行くなー」なんて言えないけどさ」

ちらりと隣を窺う、反応は無かった。

「センバツの練習とかで会うだろ。あと年末年始とか帰ってくるから遊ぼうぜ」

ああそっか年末年始ぐらいしか帰ってこれないのか。自分の言葉で何だか寂しくなった。
馬鹿みたいだ。

一馬は決意したように一つ大きく息を吐いてこちらを見た。と思う。俺が目を合わせなかったから雰囲気だけで察する。

「結人はサッカー続けるよな」

これからプロになる人間に何言ってんだこいつ馬鹿にしてるのか、それとも冗談?と怪訝な目でちらっと見遣っても瞳の色は真剣そのものだった。

「別にあえなくなるのが寂しいとかそんな小学生みたいなことは言わないけどさ」

うわ、なんかちょっとショック。俺って小学生並だったわけ?ちょっと、いや結構本気で寂しいとか思った
んですけど。一馬から小学生呼ばわりかよ何か癪に障る。

「でも、結人がサッカー辞めたら、イヤだ」
「・・・どういう意味」

解るように話せと促した。こいつは俺がサッカー無くて生きていけるとでも思ってるんだろうか。
仕事にまでしちまったぐらい大好きだってのに。
一馬は逡巡するように正面いっぱいの窓の上あたりに視線を彷徨わせた。

「お前、前に怪我してサッカー辞めるとか言ってたことあっただろ」
「あー・・・・うん、前、な」

高校に入りたての頃の話だ。初めての大きな怪我で長いリハビリ周囲の慰め、一向に思い通りに動かない体にぶち切れてもう止める、そう言った覚えがある。
止めるわけが無かったけど。

「あん時初めて思ったんだよ、ずっとサッカー続けるって言ってて、勿論今でもその気だけど、何かのきっかけでサッカー捨てちゃうような場面があるのかもしんない、って」

細心の注意を払ってか、言葉の隙間がえらく長く空いた。

「俺は続けるって」
「ん、解ってるけど。だけど、何ていうか。お前が迷ったりしてる時に、もしかしたらサッカー
人生諦めてしまうことがあるかもしれないときに、俺が傍に居れないのは、」

そこまで言ってはたと止まる。

「寂しい?」

続きを口にしてやればプライドからか戸惑う顔。



ピンポーン。
ANA683便にご搭乗の方は搭乗ゲートまでお越し下さいー




あ、と一馬が口を開きかけたので先に釘を刺しとく。

「俺はこの次」

ほっと安心したように息を吐いて、さっきの顔に戻る。

「・・・寂しい、のかなぁ」

本当なら死んでも止めるなと言いたいんだろうこいつは。
別に俺が止めたってこいつはサッカー続けるだろうしこいつのプレイには何の影響もないだろう。
だけど、
なぜか解らないけど、いやなんだ。

ずっと一緒にやってきたやつが自分の知らないところである日突然ぱたりと共有してきたものを捨ててしまうかもしれない不安。
目の前にいるならまだしも自分はその状況を欠片すら知らない、耳に入るのは事実だけ。
揺らぐ一馬の気持ちはよく解る。

俺もそうだからだ。

寂しいといえば、寂しい。会えなくなるのは単純に悲しいし、不安。
けれどそれよりも、置いてきたものを思い出すよりも、近いところを歩けない相手の先の道を想像するほうがよっぽど怖い。
俺はこいつのサッカーが好きだし、こいつも俺のプレイが好きだ(って言ってた)。
だから止めて欲しくない、っていうサッカー馬鹿な気持ちの中に友情っていうややこしいものが入り込んで複雑にするんだ。
競って比べて、お互い切磋琢磨して上手くなってく。
目指しているところが、漠然とだけど同じだということを知っていたから出来たことだ。
隣を走っていたから出来たことだ。

それが無くなるというのだから。

少しぐらい揺らぐだろう。

これぐらいは、許される。
そう、自分のプライドに言い訳をして。

「一馬、指出せ」
「は?」

怪訝な顔をした一馬の手を引っ手繰る。サンドイッチのパックが反転して一馬の膝の上に落ちる。
ああ悪いなお前の好きな卵サンドが引っ繰り返った、でも好きなもん最後に残してるお前が悪いんだ。
つか落ちたのは膝の上だから後で拾って食べろ。

思いっきり顔を顰めた一馬に心の中で言い訳をして小指を取った。
自分の小指に絡める。

「指きりげんまん。俺はサッカー止めません」
「・・・・恥ずかしい・・・」
「黙ってろ」

そういえば最初もこんなんだった。
俺サッカー選手なるぜ、もちろん英士と一馬もだろ!
そう言って三人で小指をあわせた気がする。

ゆーびきーりげーんまーんうーそついたらはりせんぼんのーます、ゆーびきった!

あの時と、きっと同じような調子で歌う。
恥ずかしいとか気にすんな。
どうせその辺に座ってるやつらなんて他人だ他人、俺たちがどれだけサッカーやってきたのかなんて
微塵も知らないような人間だ。

止めないなんて保証は何処にも無い、一馬だって分かってるからああやって口に出した、
不安が形に出来るっていうのなら、
約束だって形にしたほうが守れる気がする。
気休め程度だけど、何も言わないより、ずっといい。

超原始的な小指と小指の約束を終えて、羞恥なのか安心なのかはたまたただの照れくささなのか、下を向いた一馬を不意打ちで抱きしめた。
がしっと。
恋人の抱擁かチームメイトとの抱擁か、と言われれば絶対に後者。
手加減だとか姿勢だとか気にしない。

一馬の肩に顎を乗せて、ぎゅうぎゅうと背中を抱いた。



少し経ってから、決して回されはしなかった一馬の手が俺の腹を押し返してきた。


「・・・離せって、キモイから」

笑いながら零される声はまだ寂しそうだったけれど。
大丈夫だ。
指先の温もりは、まだ残っていた。

これが消えることなんて、きっと無いんだろうから。

自分の便の番号がアナウンスされるのを一馬の肩の上で聞いて、
ちょっとだけ、

ほんのちょっとだけ、泣きそうになった。









結人お誕生日おめでとう!
(祝ってないよ!!なんか暗いよ!)
結人は三人の中で、実は一番二人のことが好きならいいなと思います。

テキストにしてあげろよって長さですね・・・・・!
でもページを作る余力が無いので・・・!時間が出来たら直してアップします〜。



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