プープーの罠
2006年06月24日(土)

カルティエが教えてくれたこと

カルティエ展が見たい

ずっと前から言っていたけれど
休みの度に先延ばしにしてばかりだったので、
土曜日にオシャレして待ち合わせして行こうよ。
ということになっていたが、
金曜の夕方に
 『早く会いたいから一応着替え持ってきたんだけど
  泊まりに行ってもいい?』

とメールがきていつもの通り
早稲田君は金曜日にうちに来る。

 『どうせうちに来るなら仕事終わりにどっかで待ち
  合わせて飲んでから一緒に帰ろうか』

 『俺は仕事遅いから待たせるのも悪いし家でのんびり飲もうよ』

そして23時過ぎの会社帰りに牛丼をかき込み、
自分の分だけのビールとコンドームを忘れずに買ってくる、
彼はそういう人だ。

土曜日、また寝ているだけで一日が終わらないように
早い時間に起こして目が覚めるように朝ごはんをつくり
ふと見るとまた横になっている彼をもう
一度起こして一緒にゴハンを食べさせてから
PCを立ち上げ電車のアクセスを調べる。

乗り換えありでちょっと早いのと
時間がかかるけど1本で行けるのどっちがいい?


と振り返ったら彼はぐっすりと寝ていた。
私はカチンときてイヤミったらしく掃除をはじめ、
ふとん干すから起きて
と起こしたら、そのままソファに移ってまた寝そべる。
掃除機を掛けても手伝おうとするどころか起きることすらしない。

なんだこの休日の親父みたいな生き物は。

私は大きな音を立てながらがちゃがちゃと着替えを済ませ、
まだ寝ている早稲田君をひっぱたくように揺り起こす。

出かけるけど君どうするの?帰る?
付き合うよ、何とか展行くんでしょ。
行くのやめた。買い物してくる。
何だよ、用意して待っててやったのに。

用意して待ってた?
起き抜けの裸にジャージを羽織りそのまま
寝 て い た
のが用意?

服はしわくちゃになり
頭は寝癖でぐちゃぐちゃ
目ヤニで目の回りをカピカピさせて
昨日の晩ご飯のたべかすが歯に挟まっているのが?

顔洗って歯くらい磨いてよ
待ってるうちに寝ちゃったんだから仕方がないだろ。

ほぼスッピンでいるような私が
1時間半も準備をしていたと思うか?


きまずいまんま一緒に出かける。
並んで歩いても間に大きな距離があり
彼はあてつけのように歩きタバコを始める。
何度言ってもやめない。
普段でもイライラするしけた顔をして
ますます覇気のない態度で話しかけられない
くらいの一定距離を開けてついてくる早稲田君は
私の神経をただただ逆撫でるだけで
口を開いたら刺々しい言葉しか出て
来なそうでただ黙って歩き回る。
何だか泣きたくなってくる。

どうして一緒にいるのだろうか。
これは一緒にいるのだろうか。


もう帰るんですけど

振り返って声を掛けたら早稲田君はそばに来て
そんな顔しないで。
とやさしい顔をして手をぎゅうとしてくれる。

君も家に帰れば?
という言葉を私は飲み込んでその手を握り返す。
一緒に晩ゴハンつくろうか。
うん。

にわかに仲直りをしてスーパーで
あれやこれやと食材を買い込んで家に帰り
まずは買ったものを冷蔵庫につめこんで
鍋や食器を用意しさぁゴハンをつくろうか
と、彼を見やればベッドに横たわり口を開けて寝ていた。


会社に時間通りに来ないの同様、
言い訳はたくさん聞いた。

寝付きが悪いし眠りが浅いから不眠症?
ゲームしたままソファで寝るのをやめればいい。
うちに来たら常に寝てるじゃないか。

君が横にいるとリラックスするから
なんて口ではのうのうと言ったりするが
眠る時に私が何か関知している感じはまるでなく
むしろ横にいるとジャマ的、
押し退けるように蹴られたり、
この前はいきなり殴られびっくりして起き
たら彼は鼾をかいて寝ていた。

横になれば3秒で寝る。
シングルベッドで大の字で寝はじめたら
揺り起こしたくらいじゃもう起きないし
鉛のように固く重くずらすこともできず、
私の寝るスペースはないのだ。

腕枕だよ、なんて言っていたこともあったが、
シングルベッドで大の字になる口実に過ぎず、
私はスペースがないのでその腕を首の下に通すようにして
枕に頭をのせるが、急に腕を曲げられ、
羽交い締めのように首を絞められたこともあるので気が抜けない。

俺が病気で辛くて寝ててもお前はそうやって叩き起こすのか
などと筋違いな論点で責め立てられたこともある。

寝ているこの人はどこまでも憎たらしく、
そしてこの人はいつも寝ている。


私はイライラがキャパシティを越え
鍋をシンクに叩き付けて思わず泣き出してしまう。
彼はさすがにギョッとした様子で飛び起きた
が、すぐにまたかというようなうんざりした顔をした。

寝てるのが気に食わないのか
全部一緒に何かしないと気が済まないのか
息苦しい
居心地が悪い

じゃあ帰れば?
帰って欲しいなら帰るよ
帰って
は?普通止めるだろ

止めたら止めたで
「帰らないでって言ったから泊まってあげたのに」
とでも言うのだろう。

せっかく仕事終わりの疲れた体で来てやってるのに

猛烈な逆ギレで悪態をつきながら帰り
の支度を始める彼の様子を眺めて
私はごめんねと言う。

 口ではごめんとか言ってるけど、
 本当は全然反省なんかしてないんだろ。
 合う合わないなんて初めから付き合わなくても判るだろ
 合わないとかは逃げの理由でしかない
 合わせる努力もしないで。


とにかく早く帰ってくれないかと思った。
何を言われようがどうでもよかった。
話して理解し合えるレベルじゃない。
話にならないんだから。
これを合わないという以外何と言う?

週末ごとに図体のでかい生理的欲求に支配された猿を飼っている。
うちに来るのは実家に帰るより近くて楽で
セックスつきのベッドがあるからだろう。
私はきっと一人晩酌のつまみみたいなものなのだ。


玄関で私はもう一度言った。
「ごめんね」
彼はそれを聞いて少し優しい顔をして微笑み
私はそれを見ないようにドアをバタンと閉めガチャリと施錠した。

前の彼女もその前の彼女も
早稲田君とは4年付き合っていたそうだ。
よほど彼女達の器が大きかったのか、
だから彼はケンカしても仲直りして続いて行く
ものだと思っているのだろう。
でも私はいらない。

折り合いをつけて付き合い続ける
そこに何の意味がある?

私はいらない。
私はいらない。
私はいらない。

ごめんね
男見る目なくってさ。

索引
「プープーの罠」 written by 浅田

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