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2004年07月14日(水) サドル事件

もう、十年ほど昔の話になる。

中学生時代、学校で、ある事件が起こった。
名付けて「サドル事件」。
たった今名付けたのだが、その妙な名前以上に事件は珍妙だった。

その日も授業が終わり、ホームルームで
僕と友達はいそいそと下校の準備をしていた。
帰りに本屋へ行き、みんなで立ち読みするのが日課だった。
その時だった。担任が、ざわつく教室を静めた。

「最近、校内の自転車のサドルが盗難されることがある。
みんなはそんなことせんと思うけど、目撃者は先生に言うように」

何のことか、一瞬分からなかった。
自転車のサドルが、盗まれる…?
誰が?なぜ?何のために?

いまいち事の子細を掴みかねていたぼくらは
早々と帰る支度を済ませ、かばんを背負い駐輪所に向かった。
事件の現場である。そこに僕の愛チャリがある。

案の定、僕の自転車のサドルはまんまと抜けていた。
なんてことは一切無くて、いつもと変わらず無事だった。
さっき担任が言った話など忘れつつあった。
ただ、正面にある女子のチャリが、座ると痛々しい状態になっていた。

サドルが、無い。銀色のパイプがぽかんと口を開けている。
整然と並んだ自転車の中で、そこだけが明らかに異様な光景だった。

さっきの話は本当だったんだ…と思って見ていたら、
持ち主の女の子が茫然と突っ立っていた。「無いわ」。

何か、面白いことが始まっている気がしてきた。
ぼくは抑えることの出来ない好奇心で鼻息が荒くなっていた。
って書くとこれから事件を暴く展開になりそうだけど、そうではない。

地道に、ぼくらは盗まれたチャリの洗い出しを開始した。
どんな自転車が狙われるのか。それが分かれば、犯行目的が見える。
目的が分かれば、犯人も突き止められるはず。

そして、分かった。あっけなく。
狙われた自転車は、どれも女の子の自転車だったのだ!
しかも、校内でかわいいと目される美人ばかり。

ぼくと友達は、思わず犯人に感心してしまった。
好きな子の縦笛に口をつけたり、体操着を盗むのなら知っている。
そういうシチュエーションは、屈折した思春期男児の物語として
定番とすらいえるから。やったことはないけど。

しかし、サドルとは、渋いなぁ。
エロが分かってると言うよりも、もはや師匠クラスだねぇ
なんて笑い合った。「フェチとの遭遇」を、ぼくらは
知らず知らずに体験していたのである。犯人には、
サドルじゃなくて座布団一枚あげたい気分だった。


本体と一体化しているから見過ごしがちだが、
自転車のサドルというのは意外とエロティックだ。
形のみならず、そこに乗るというのは言わずもがなである。
そいつを取り外して持って帰るとは、よほどの変態だと思う。

結局、サドル事件は迷宮入りと化した。
ぼくらはその半年後、卒業して別々の高校に進んだ。

(BGM:スタンド・バイ・ミー)




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