ひとりごと
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妹から、何通めかの「スズムシメール」が届いた。 「ついに最後のスズムシさんも死んでしまいました。」と書いてあった。 8月のお祭りの夜、姪がほしがったので、オスメス2匹ずつ分けてやったあのスズムシだった。
妹は小さいころから虫が苦手だった。 まるで理科室のようにいろいろな虫をたくさん飼っている私の部屋に入るのを恐がっていた。 触るのはもちろん、見るのだって絶対にイヤ!と言う子だった。 姉妹でこうまで違うものか、と感心してしまうほどだった。 まさかこの妹が虫を飼うようになるだなんて。 子どもの力は偉大である。
8月のあの日に飼い方を説明してスズムシを持たせてやってから、 時々メールや電話で質問があった。 実家の母からも「ひーひー悲鳴あげながらも餌を換えていたわよ。」と報告があった。 本当に恐いのにがんばっているようだった。 その後、叔父の家でのバーベキューパーティーで会った時には 輪切りにされて焼くのを待っている野菜を見て、 「スズムシの餌を思い出すよね。」と言うほどになっていた。 「うるさいくらいにリンリン鳴いているよ。」と嬉しそうに困ったように言っていた。
「大変です!」とタイトルがついたメールが来たのは9月5日のこと。 ついにオスの1匹が食べられてしまったらしい。 とうとうこの日が来たか…。 「女性軍恐るべし。かわいそうなことしました。(T_T)」 と顔文字がついていた。 自然のこととは言え、妹も姪たちもショックだったことだろう。 残されたもう1匹のオスの命も時間の問題だと思っていた。
次のメールはその10日後。 今度死んでしまったのはメスのほうらしかった。 「たまごらしきものがたくさん土にささってるけど、 これっていつごろ孵るんですか?」 ささっているって…妹らしい表現だ。 「このまま冬を越すの?親が死んじゃっても?」 そう、スズムシの世界では、親が子どもの顔を見ることはないのよ。 そして、次の文を読んで笑ってしまった。 「一度に孵られたら・・・想像すると鳥肌ものです。」 がんばっているけれど、やっぱり恐いのだろうな。 申し訳ないけれど、孵るときは小さいのが一度に出てくるかもよ、と予言しておいた。
2日前の9月20日、またメールが来た。 「とうとうスズムシ君が力尽き、 あとは、スズムシさん1匹だけになってしまいました。 声が聞こえなくてさびしくなりました。 秋本番なのに・・・」 最後のオスは今まで生きていたんだ! たくさんいたうちのスズムシは、もうとっくにメスだけになっていたのに。 「長いことがんばってくれたのね。 たった1匹になってさびしいでしょうけれど(スズムシさんも人間も)どうぞお元気で。」 とメールに書いた。
そして今日、最後のメスも死んでしまったと言うメールが来たのだった。 妹と姪の「スズムシの日々」は一段落した。 妹はがんばってスズムシの世話をしていた。 見るのもイヤだったのに、きちんと餌を換え、観察し、報告してくれた。 本当のことを言うと、面倒を見られるかどうか心配だったのだ。 でも妹はよくがんばって、最後まで見届けた。 「この1ヶ月、お疲れさまでした。 スズムシさんもそうだけれど、○子さんもがんばったね。えらかったね。」 と返信した。
そのメールを送ったしばらくあと、妹から電話がかかってきた。 スズムシのことをふたりで話した。 「外では虫がよく鳴いているのにスズムシは早いのよね。 秋の虫、って言うけれど、スズムシは夏の虫なのよね。」 「残された死体がメスだけって切ないよね。」 「オスはあとかたもなくなっちゃうものね。」 「2匹のメスはティッシュに包んで子どもたちと埋めたよ。」 「うちのメスたちはまだいるけれど、もうそろそろなのかな。」 「もう寝られない〜って言うくらいよく鳴いていてうるさいと思ったけれど 声が聞こえなくなっちゃうとやっぱり寂しいね。」 「ほんと。でも大丈夫。うまくしたら、来年は子どもたちが鳴いてくれるから。」 「きゃ〜、どうしよう!鳥肌もの!」 妹はまた笑わせてくれた。 でも実際は、卵を孵化させることはむずかしいことだった。 越冬中の土の湿度や温度の調節がなかなかうまくいかないのだ。 「あまり乾燥させないように、時々見て霧を吹いてやってね。」 とアドバイスした。
妹を強くしてくれた4匹のスズムシたちの子どもが、来春元気に土の中から出てきますように。 そうしたらまた「スズムシの日々」が始まる。 鳥肌、たてられるといいね!
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