ひとりごと
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パン教室のあと、途中下車して手芸屋さんに寄った。 甥にカレーパンマンのマントを頼まれているので、その生地を買いに。 それから私のワンピースの生地を見に。
マントの生地はすぐに決まった。 鮮やかな黄色のナイロンサテン。 これで甥は憧れのカレーパンマンになれる。
ワンピースの生地も、大体のイメージは決めてあった。 レトロなデザインに合う、落ち着いた色と柄の木綿地がいい。 それでもいざ反物の山を目の前にすると悩んでしまうのだった。
あれもいい。 これも素敵。 この花柄じゃかわいすぎるかしら。 その幾何学模様は地味かしら。 ピンクっぽいのと青っぽいの、どちらがいいかしら。
迷っている何種類かの生地のアップや、私がそれを顔に当ててみたところなどを、 携帯電話のカメラで撮って、何回も妹に送っては意見をもらい、また悩んでは見てもらった。 さんざん考え、迷い、やっとひとつの生地に決めた。 着物の小紋にも似た渋い色の花模様のリバティープリント。
リバティーのタナローンで作った服は軽くて肌ざわりがよく、 何回洗濯しても張りを失わずしわにもなりにくくてお気に入りだ。 だけど、この生地は高価なのだった。 いつも手作りの服にそんな高い布を使うわけではないけれど、 着心地がいいリバティの服は出番も多いので、何年かに1度は奮発する。
マントとワンピース、ふたつの反物を抱えてカット台に運び、係の人に頼んだ。 「黄色い方は70センチ。それから、こちらは3メートルお願いします。」 お店の人はうなずいて、ザザッと手際よくマントの布を裁ってたたんだ。 次にリバティーの布をタンタンタンとほどいて長い竹の物差しで3回測った。 よく切れそうな大きな鋏を生地に当てながら値札を見て、そして手を止めた。
「この生地、高いのですが。」 と、お店の女性が言った。 「はい、そうなんですよね。だからずいぶん迷っちゃいました。」 と、私、にこにこして。 すると彼女は鋏を持った手をまだ止めたまま、注意深く尋ねてきた。 「あの、洋裁の経験はおありですか?」
「え?」 一瞬何のことかわからず、聞き返してしまった。 「以前にも洋服を作られたことがある?」 と、もう一度、彼女は聞いてきた。 「あの…はい。一応…。」 私はなんとなく自信がないまま、小さな声で答えた。 どんなものでも服を作ったことがあるのだから、経験があるって言っていいのよね。 それとも、この生地を買うのに何か資格がいるのかな。 私でもいいのかな…。
どうやらお店の人は心配してくれているらしい。 そうね、高い布だもの。 裁ってしまったら返品することもできないし、作ってみて失敗したらがっかりするのは私だ。 でも、なんとか顔と手足が出るくらいには縫えるはず。 それで十分。
「この生地、軽くて着心地がいいので好きなのです。」 と、言うと、 「そりゃ、着心地はいいですよ。いい布ですからね。」 彼女はあきらめて、やっと布をカットしてくれた。 「友の会のカードを持っていらっしゃるの?だったら1割引になりますからね。」 と、言い添えて、丁寧にたたんだ布を渡してくれた。
ちょっとドキドキしてきてしまった。 いい生地を使って服作りをするのには、それなりの心構えも必要なのかもしれない。 かごの中の薄い軽い生地を、あらたまった目で見つめた。
そのあと、縁取りにするグログランリボンと、布地に合った糸、 くるみボタンのセットと、夏物用の接着芯ををかごに入れた。 そしてお会計。 計算どおり、1万円でおつりがきた。
布地としては高いけれど、できあがっているワンピースを買うよりずっと安い。 作る楽しみつきだ。 それに、自分が気に入った生地で、自分サイズに作った服は、着易くて出番が多い。 最新流行のデザインではないけれど、それだけに何年も着られる。 そう、だから丁寧に作らなくては。
今、この気持ちがあるうちに、一気に作ってしまおう。 明日は型紙をとろう。 できあがった渋い布地の軽いワンピースを着て、梅雨明けの街を歩くのが楽しみだ。
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