ひとりごと
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足の痛みはおさまってきたけれど、まだ風邪っぽくて気分がよくなくて、 パン教室を休んでしまった。 うとうとして目覚めた夕方、庭に出た。 むっとした湿気と、濃い緑の香りが包み込んできた。 夏の匂いがした。
盛りを迎え始めた薔薇が強く香った。 手入れをしていない草だらけの庭に花びらが散っていた。 ジギタリスと寄り添いあって咲いている ニコチアナのぱっちりとした白が目に痛かった。 蚊がまとわりついてきた。
いつもの庭の点検。 メアリーローズの枝に作られたコアシナガバチの巣を見るのはお楽しみ。 むちむちと太った白い幼虫たちが見えるようになってきていた。 母蜂は、その世話に大忙しだ。 刺激しないように、遠くから見守りながら、そっと巣に近づいていった。
すぐに異変に気がついた。 きっちりと作られた美しい巣がゆがんでいる。 胸がざわざわした。 近づいて覗き込んでみると、巣は壊れていた。
なに? どうして? 昨日の雨のせい?
頭が混乱したまま、しゃがみこんでかわいい幼虫たちを探した。 どこにもいなかった。 六角形の巣穴いっぱいに太っていた幼虫たちは 1匹も残っていなかった。
写真を撮りながら、胸が痛くなった。 あのきれいな巣がぼろぼろになっている。 母も子もいなくなってしまった。
気持ちを落ちつかせながら考えた。 コアシナガバチの巣は襲われたのだろう。 あの幼虫たちは連れ去られてしまったのだろう。 一体誰に? 棘だらけの枝に何重にも守られた小さな巣を襲えるのは、猫や鳥ではない。 たぶん同じ昆虫だ。
すぐに思い至った。 玄関の軒下に、キアシナガバチが巣を作っていた。 あのキアシナガバチではないだろうか? コアシナガバチが薔薇の枝に巣を作り始めるのと同じころ、 キアシナガバチも巣を作り始めた。 コアシナガバチの幼虫が孵ったのと同じように、 キアシナガバチの卵も孵化したのだろう。 同じように、母蜂は、子どもたちのために狩りをしなくてはならない。
食欲旺盛な幼虫たちに、せっせとほかの虫を運ぶアシナガバチ。 私の庭の花々も、その恩恵にあずかってきた。 コアシナガバチもキアシナガバチも、差別することはできない。 どちらも子育てに一生懸命なのだから。
それでもショックだった。 母蜂がたった1匹で、メアリーローズの枝に巣を作り始めたところから見ていたのだ。 丁寧に真剣にひと部屋ずつ、子ども部屋を作っていた。 どんな強い風の日も、雨の日も、しっかりと巣と卵を守っていた。 目が合って、威嚇されたこともあった。 大事な大事な子どもたちだったのだ。 卵が孵化して、母蜂は忙しくなっていた。 薔薇の芋虫たちをせっせと捕ってくれていた。 その活躍も頼もしかったし、なにより幼虫たちの成長が楽しみだったのに。
本当に残念だった。 悲しかった。 でも誰も責められない。 こんな小さな庭でも、こんなドラマがあったことを不思議に思うだけだ。
せめて、母蜂だけは逃げられたことを祈ろう。 彼女がまた、どこかで新しい巣を作り、 今度こそ新しい家族を育てていけることを心から祈ろう。
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