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----------2005年01月26日(水) 叫んだって何も来ない。
「ねえアネモネ、あなたは欲望ってものがないんでしょ? スーパーマーケットの中で生まれたものだから、何が欲しくて何が食べたいのかわからないのよ、何かが欲しいって大声で叫ぶのは恥ずかしいって思ってるんじゃないの?」 「よくわからないけどあたしは待ってるのよ」 「何を? 何を待ってるって言うのよ、待ってたって何も来ないわよ、あなたが待ってるっていうのは弁解よ、錯覚、乾きに乾いた砂漠の迷子が水と間違えて砂を飲んでるんだわ。」 (村上龍「コインロッカー・ベイビーズ(上)」/講談社文庫)
砂を飲み込みすぎていつの間にか動きが取れなくなった。見渡せば右も左も前も後ろも砂、砂、砂。何も生えない、何も育たない。皆から水分を奪い潤いを奪い、軋ませる。あの部屋には砂が詰まっている。
だからこんな本を読み返したくなる、キクとハシがコインロッカーで生まれたのは1972年、その2年後に私はコインロッカーで生まれたわけではないけれど、長じて今とてつもなく大きなコインロッカーのような箱の中に詰め込まれている。
叫べ、って?
いったい何を。
叫んだって何も来ない。
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