チフネの日記
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2010年02月20日(土) 手塚さんちの気まぐれな猫達 (不二リョ?) 1 手塚

派手に散らかった部屋を見て、手塚は溜息をついた。
誰がやったかなんて、わかっている。
だから部屋を出る時にはきちんとドアを閉めて出たのに。

奴は最近ドアノブにジャンプして重みで開けるという技を会得した。
この目で目撃したのだから、間違いない。
きっとここにも自由に出入りしているのだろう。
真剣に、鍵をつけてもらおうかと考えてしまう。
びりびりに破られた山のポスターの切れ端を片付けながら、
手塚は(困ったものだ)と呟いた。

階下へ降りると、母は食事の準備中だった。
手塚の足音に気付き、
「国光、ちょっと待っててね」と振り返る。
「はい」
そう言って、いつも座っている椅子を引こうとして気付く。
気持ち良さそうに目を閉じて、猫が眠っている。

ここでもかと思い、手塚は部屋を散らかしたお返しを込めて椅子を動かすと、
「ニャーオ」と抗議の声が上がる。

「あらあら、周助。どうしたの?」
母がまた振り返る。
そして手塚を見て、「そこで寛いじゃったのね。国光、悪いけど他の椅子に座ってくれる」と言った。

猫優先ですか……、と手塚はがっくりと肩を落とす。
勝ち誇ったように周助と呼ばれた猫は、また椅子の上で丸くなった。

この周助と呼ばれる猫と、手塚の相性はあまり良くない。

母が友人から周助を譲り受けた時、手塚は最初は目一杯可愛がるつもりでいた。
動物は好きだし、周助はとても可愛らしい姿をしていたから。

しかしどういうわけか、周助は手塚にだけ懐こうとしない。
母や父、そして祖父にはとても懐いているというのに、
手塚だけが無視され、存在しないかのように振舞っている。
足を踏まれるなんて、しょっちゅうだ。
かと思えば、自室に入ってやりたい放題、いたずらのし放題。
なんだかとても理不尽な扱いを受けている。

もっと自分に懐いてくれていれば多めに見るのだが、
やられっぱなしのままで、さすがの手塚もストレスが溜まる一方だ。

(俺にも懐いてくれる可愛い猫が欲しい……)

日増しにそんな願望が膨らんでいく。
周助は触れようとすると逃げていくし、引っ掛かれることもある。
そうじゃなく、一緒に遊ぶとか、布団の上に寝ていて重くて目が覚めたとか、
微笑ましい日常を送りたいだけなのに。

どこかに自分と合う猫はいないかと、
そんなことばかり考えていた。


或る日、ストレス解消にと手塚はよく行く川へと釣りに出掛けた。
祖父は将棋仲間の家へと出掛けたので、一人での行動だ。
たまにはそんなのもいいと、釣り道具を持って馴染みのポイントへと出向く。

早速、釣り糸を垂らす。
そして本でも読もうと文庫本を取り出したところで、
糸が引いたのを確認する。
ゴミでも引いたかと思ったが、魚だった。

その後も、手塚は次々と魚を釣り上げた。
今日は調子が良いようだ。

バケツがいっぱいになるな、と次の魚を釣り終えた所で、
何か小さな動物が動いているのが見えた。

それはバケツの中を覗きこんで、今にも中に落ちそうな様子だ。

(猫、か……)

真っ黒な小さな黒猫だ。
お腹を空かせているのか、とうとうバケツの中に手を入れる。
が、届かない。手足が短いから当たり前かもしれないが、
バケツにしがみ付いているのがやっと、という感じだ。

こんな山の中に猫?と思ったが、心無い人間が置いていった可能性もある。
なんて酷いことを、と憤りつつ手塚は口を開いた。

「おい、そのままだとバケツに落ちるぞ」
猫に言葉が通じるかはわからないが、手塚はまず注意をした。
すると子猫がぱっと顔を上げる。
全身真っ黒で、金色の瞳が手塚を見て「ミャア」と鳴く。
やはり腹が減っているのだろうか?
手塚が今釣ったばかりの魚に視線を移し、「ミャア、ミャア」と鳴き始める。
「いや、これは生のままだから、食べたら腹を壊すかもしれないぞ」
「ミャア!」

猫にそんなことを言っても通じないか、と手塚は口を閉じた。
それにこんな小さな猫だから、それ用のミルクを飲ませた方がいいかもしれない。
家に連れて帰ってやろうと、手塚は思い始める。
ここで出会ったのも、何かの縁だ。
子猫を放って帰ることも出来ない。
見たところ、民家は無いのだから、この子の飼い主もいないようだ。
連れ帰って、飼おうと手塚は決意する。
家族は反対することは無いだろう。
こんなに可愛い子猫なのだから、きっと賛成してくれる。


(問題があるとしたら……奴か)

手塚は家にいる周助のことを思い浮かべる。
気位の高い周助のことだ。
縄張りに新入りが来ることを良いと思わない可能性はある。
まず、この子は俺の部屋だけで飼うか、と手塚はひょいっと、小さな体を抱き上げた。
「ミャア」
抵抗することなく大人しく手の中にいる猫を見て、微笑む。

周助から無視され続けている自分へ、神様がこの子をプレゼンをしてくれたのトかもしれない。

だとしたら、最後まで責任持って飼わなければならない。

「俺と一緒に来るか?」
子猫にそう尋ねると、「ミャア」と鳴いたので、
手塚は付いて来る気があるんだな、と勝手な解釈をした。


チフネ