チフネの日記
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2010年02月15日(月) 遅れて来たバレンタイン 不二リョ

壁に背を預けて、リョーマは小さく欠伸をした。

不二はまだ戻らない。
まだ3分も経過していないから仕方無いのだろうけど、
早くして欲しいなあ、と眉を寄せる。

折角、一緒に帰ろうと不二が待っていてくれたのに、
そのタイミングで呼び止められるなんて、ついていない。
どうせなら、部活が終わるまでに済ましておけよ、とリョーマは内心で悪態をついた。

不二を呼び止めた女の子。
すごく必死な表情だった。声も震えていた。
何の用事かは、リョーマでさえ聞かなくてもわかる。

不二への告白だ。

2月14日のバレンタインは昨日で終わったというのに、今更かよ、とリョーマはぷいっと横を向いた。
不二は少し困った顔をしつつも、
勇気を振り絞った女の子の気持ちを無視するわけにはいかない、と判断したのだろう。
リョーマの方を見て、
「ちょっとだけ、待っててもらってもいい?」と聞いた。

ここで「嫌だ」と言えば、不二はオロオロとしつつも、リョーマの後を追って来てくれるだろう。
そうなることはわかっている。
不二が自分を大切に思ってくれてるなんて、知ってる。

だからリョーマは「いいよ。待ってる」と答えた。
不二の困った顔は、出来ればあまり見たくない。
嫌だけど、本当は告白を聞きに行く不二を見送ることなんてしたくないけど、
ここは我慢するしかない。
不二がどんな返事をするか、それはわかっているんだから、とリョーマは自分に言い聞かせる。

(しかしバレンタイン終わったタイミングでの告白って、遅刻っていうか……。
わざとずらして印象付けようってこと?
それとも昨日、渡す為のチョコを作っていて今日になったとか?)

だとしても、よりによってこのタイミングで来ることは無いだろう。
不二が女の子にモテるのは知っているが、わざわざその場面を見たくなんかないのに。

先週の金曜日も、沢山チョコレートを貰っていたのを知っている。
直接、渡そうとした女子には丁寧に断ったらしいが、
勝手に机の中に入れられていたチョコはどうにもならなかったらしい。
まさかゴミ箱に捨てるわけにもいかず、仕方なく適当な袋に詰め込んで家に持って帰っていた。
山盛りのそれを見た時、面白くなかったのは事実だ。

リョーマ自身は、不二にチョコレートは渡していない。
14日は二人でデートして、それだけで満足した。
付き合っているんだから、こんな日までも何かを贈り合う必要は無い。
先にそう提案したリョーマに、不二も「そうだね」と頷いてくれた。

けれど……。
こんな風に一生懸命な女の子達を見てると、不意に不安になる。

皆、全力で好きだと不二に気持ちをぶつけて来る。

好きだという気持ちに、負けてるつもりはない。
ないのだけれど、いつも恥ずかしさの方が先に立って、
伝えることはほとんどしない。
バレンタインだって、それが何、とスルーした。
改めて気持ちを伝えるのは、照れくさいものだ。
でも、不二が喜ぶのなら……たまにはこんなイベントに合わせて、素直な言葉を口にしても良いのかもしれない。


「越前っ」
名前を呼ばれて、リョーマは顔を上げた。
不二が走ってこっちに来るのが見える。

「もう終わったの?」
「うん、待たせてごめんね」
「そんなに待ってないよ……」
言いながら、リョーマは不二の手を確認する。
何も持っていない。
さっきの女子は綺麗にラッピングされた箱を隠しながら持っていた。
不二に渡そうと意気込んでいたに違いない。
断られた時、悲しかっただろう。

けど、自分だって譲るわけにはいかない。
リョーマだってこの恋はとってもとっても大切なのだから。

「チョコ、貰えなかったんだ?」
「えっ、ああ、うん……」
受け取らなかった、が正しい。不二は曖昧に頷く。

リョーマはバッグに手を突っ込んで、入れてあったものを出した。
あげるつもりで買ったのではないけど、今渡したい。そう思ったから、行動することにした。
ちょうど買っておいた板チョコ。色気も何も無いけど、しょうがない。

「じゃあ、俺からチョコあげるよ。
おやつに食べようと思って買っておいた板チョコで悪いけど」
「え?」
「遅くなったけど……バレンタインのチョコ。
不二先輩のことが好きだから、なんだかあげたくなった。
こんなんで良かったら、受け取って下さい」

はい、と両手でその板チョコを差し出すと、
不二は一瞬、驚いたように目を開いた後、恐る恐るというように両手を伸ばして来た。


「越前から、チョコレートもらえるとは思っていなかったな……驚いた」
「俺もこんなイベント馬鹿にしてたんだけど、
たまには気持ちを伝えるのもいいかと思って。
もっと早くに気付けば良かった。
そしたらこんなただの板チョコとかじゃなく、ちゃんと買っておいたのに」
「ううん。十分だよ。嬉しい」

そう言って、笑顔を見せる不二を見て、
リョーマは何故かほっとしてしまう。

不二の笑顔を見るのが、好きだ。
出会った時から、ずっと。

だから、笑顔を向けられると安心する。
何よりも幸福な瞬間だ。


「そう、良かった。先輩、甘いもの苦手だから、食べられるかどうか少し考えたんだけど」
「食べる?とんでもないよ」
「えっ」
「越前がくれたチョコレートなんだよ。
これは大事に大事に取っておく。初・バレンタインの記念としてね。
枕元に飾っておこうかなあ」

真顔で言う不二に、リョーマは「えーっと……」と額に手を当てた。
たかが板チョコで記念とは。
嬉しいが、ちょっと大袈裟じゃないだろうか。

「そんなことしたら、いつか溶けるっすよ。
記念になんか取っておかずに、ちゃんと食べてよ」
「えー、でも勿体無いのに」
「じゃあ、俺が食べさせてあげようか?」
「……」
「今から先輩の家に行こ?そのチョコレート、俺の手から食べさせてあげる」

にこっと笑い掛けるリョーマに、不二は数秒固まった後、
「是非!」と声を上げた。


更に嬉しそうな顔をする不二を見て、
やっぱりリョーマの心はほわっと幸せに包まれるのだった。


終わり


チフネ