チフネの日記
DiaryINDEXpastwill


2008年05月10日(土) 君がいる空に届きますように(跡部)

「もう持っている理由が無いから、返す」

好きな奴が旅立つ寸前、送った指輪を目の前に出された。
クリスマスプレゼントに送ったものだった。
指輪一つで縛れる。そんな性格じゃないってわかっているが、何か恋人同士らしいことがしたかった。
それだけだ。
こいういうのは嫌がって受け取ってくれない可能性も勿論考えた。
実際最初に箱を見た時「指輪ー?」と反応しやがった。
だが最後には「こういうデザイン好き」と受け取ってくれた。
それだけじゃなくチェーンに通してリョーマはいつも身につけてた。
嬉しかった。それだけのことなのに、本当に嬉しかった。

なのに今、リョーマは指輪を返そうとしている。
『別れたい』と、暗に言われているのがわかって、目の前が真っ暗になった。
かろうじて持ち応えたのは、こちらを見ている彼の目がまるで泣き出しそうな位悲しいものだったからだ。

(嘘、かよ)

渡米するから、めったに会えなくなるから。
自分から別れようとしているのか。
馬鹿、だな。
距離が空くからって、心まで離れなきゃいけないことなんて無いだろ。

リョーマがこれ以上何か言う前に、跡部は指輪を持つ左手を両手で包み込んだ。

「持ってろ。これはお前のものだろ」
「でも俺は今からアメリカに…」
「バーカ。「どうせお前のことだから、離れたら終わりとか、
俺が他に心を移すんじゃないか、縛りたくないとかくだらねえこと考えているんだろ?」
「……」
「放すつもりなんて無いからな。今までも、この先もだ。
同じ地球にいるんだ。望めば会うことは出来るだろうが。
あんまり俺のこと見くびるなよ」


説得が通じたらしく、リョーマは指輪を再び受け取って飛行機に乗って行った。
さよなら、じゃなく「行って来ます」と言ってくれたことにほっとしたけれど。


(俺が無理矢理引きとめたから、承諾しただけじゃねえのか?)

リョーマが渡米して五日。
じわじわと跡部の心に不安が広がっていく。

急な別れを言い渡されたショックは、まだ消えてない。
アメリカに行くと聞かされた時も驚いたが、別れる訳じゃないんだからとまだ平気でいられた。
その裏側でリョーマは色々考えて、別れようと選択したに違いない。

簡単に決めたんじゃないと思いたい。でもその前に俺へ一言何か相談出来たはずじゃないか
どうして一人で結論を出す?
よりによって搭乗する前に、そんなこと言わなくてもいいじゃないか。

今、アメリカにいて…自分のことでちらっと考えてくれるのかと女々しい考えが浮かぶ。
忙しくてちらっとも思い出さないかもな。

(まずい、余計なことを考えて余計落ち込みそうだ)

空を見上げて、跡部は大きく深呼吸をする。

高等部に入ったらまた今いる部長を負かして、自分がトップを取るつもりだ。
遠くにいるリョーマに負けないように。
ここで精一杯、頑張ってやろうと決めたのだ。

(けど、連絡くらい取ってもいいよな)

リョーマが思っている程、自分は強くない。
別れを切り出されたら傷付くし、側にいなかったら寂しいと思う。
負担になりたくないから、絶対に表には出さないが。

だからメール位、と跡部は自宅のコートから出て自室へと向った。
テニスに集中する時は携帯は持たないからだ。

返事は期待しない。
でも、会いたいと伝えるくらい良いだろう。

机に置かれたリョーマ専用の携帯を手にして、跡部は気付く。

(メールが、入ってる…?)

急いで内容を確認する。
彼の方から送ってくれるとは期待していなかったので、
何かあったのかと焦りながら文字を追う。


『こっちでの生活にはもう慣れた。
でも景吾がいないとつまんない。そう思う瞬間が多くて困ってる。
だから、次いつ会えるのかはっきりしてよ。
見くびるなって言うのなら、示してみせてよ。
でなきゃ俺の方が先に行動するかね。覚悟しとけよ』


読んだ後、跡部はしばらく放心した。
そして、大声え笑い出す。

(お前って奴は、どこまで俺の想像超えたら気が済むんだ。
ったく、これだからタチ悪い)

返信せずに、いきなり訪ねて行ってやろうか。
それともきちんと何日だって返すべきか。

(さあ、どうするか)

リョーマはここにはいない。
けれど、彼を想うことがこんなに幸せだと思う。
だから、きっと大丈夫。

遠くでこのメールを打つリョーマを思い浮かべて、跡部は幸せそうに笑った。


チフネ