チフネの日記
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| 2008年05月09日(金) |
君がいる空に届きますように(リョーマ) |
「もう持っている理由が無いから、返す」 指輪を差し出すと、跡部が目を見開いた。
クリスマスプレゼントに贈られた指輪だった。 誕生日プレゼントはリョーマのリクエスト通りのもの。 でもクリスマスは自分の好きにさせてもらったと、跡部は小さな箱を取り出した。 こんなの女子じゃないんだから、いらない。リョーマは本気で思った。 だが跡部に押し切られたのと、形が気に入ったのとで結局受け取ってしまった。
『よく、似合っている』 指に嵌めた時、彼はそれはそれは嬉しそうに笑った。 今まで見た中で、一番幸せそうだった。 大事にしよう。 リョーマはそう思って、普段嵌めたり出来ない時はチェーンを通して身に付けていた。
それを今、返そうとしている。 理由は単純だ。
もう数分でリョーマはアメリカ行きの飛行機に乗る。 旅行じゃない。 向こうの学校に通ってプロを目指す。いつ戻るかもわからない。 二人は離れ離れになるのだ。
側にいなければ続くはずが無い。 跡部がもてるのも知っている。付き合う相手は跡部が望めばいくらでもいるだろう。 側にいない自分よりも、ずっと楽な付き合いが出来る。 だから今、ここで決別した方がいい。
これはケジメ。彼を縛ったりしない為に、自分から言うのだ。
顔を上げて、跡部の顔を見る。 途端、指輪を差し出したを両手で包まれる。
「持ってろ。これはお前のものだろ」 「でも俺は今からアメリカに…」 「バーカ。「どうせお前のことだから、離れたら終わりとか、 俺が他に心を移すんじゃないか、縛りたくないとかくだらねえこと考えているんだろ?」 「……」 「放すつもりなんて無いからな。今までも、この先もだ。 同じ地球にいるんだ。望めば会うことは出来るだろうが。 あんまり俺のこと見くびるなよ」
たしかに跡部の財力ならアメリカの往復くらいどうってこと無いかもしれない。 頼めば日本への往復チケットも送ってくれるだろう。
でも本当にわかっているのだろうか。 会いたいときにすぐに合えない。 諸々の日常が邪魔して、連絡を取ることすら億劫になるかもしれない。 そんな小さな積み重ねに押し潰されて、駄目になっていく。 今は大丈夫だと笑ってても、未来も同じとは限らない。
だからこのまま笑顔でお別れしようと、指輪を返そうとしたのに。
「うん、わかった…」 一度決めたことを引っ込めるなんて、我ながら馬鹿みたいだと思った。 けれど左手を包む跡部の手が震えているのに気付いたのと、 余りある彼への愛情が最後の最後に素直な言葉を吐かせてしまった。
「もう返すなんていわない」 「ああ。当然だな。それはお前のものだ。だから大事にしろよ」 「うん」
跡部が指輪を嵌めてくれるのを、リョーマは黙って見ていた。
「行って来いリョーマ。どうせまたすぐ会えるけどな」 「はい……行って来ます」
あれから五日経過した。 日本よりも馴染みのある土地だから、特に戸惑うことは無い。
(なのに、どうして…)
何度目かの寝返りを打ってから、リョーマは目を開けた。 今夜もすぐに眠れない。 睡眠を愛するリョーマにしては異常な事態だ。
無意識に視線が机の上へ向く。 カーテンの隙間から零れる月明かりに、指輪が反射して小さく光っていた。 それを見ると跡部を思い出して、余計眠れなくなってしまう。
運動量は日本に居た時よりも多い位なのに。 今日だってストリートに挑んでくる連中相手に何時間もボールを打ち込んでいた。 疲労してるのは間違いないのに、眠れないなて。
(問題は体じゃなく、心ってこと?)
認めたくないが、それしか思いつかない。 たった5日。それだけなのに、もう寂しくなっている。 こんなんじゃ先が思いやられる。 よく別れようなんて考えたなと、リョーマは苦笑した。
とにかく眠ろうと、布団を頭まで被る。
まだたったの5日。 我慢しろと、自分に言い聞かす。 彼の顔も温もりもしっかり覚えている。薄れてなんかない。 だから弱音を漏らすなんて、早過ぎる……。
そこまで考えて、リョーマは起き上がった。 急いで机に向う。電気をつくことすら忘れて、携帯を探す。
(メール、くらいならいいよね)
いつかは駄目になるかもしれない。長いこと離れていて、結局お互いしんどくなって止める可能性は十分ある。 でも、それは今じゃない。
だったらちゃんと本音をぶつけてもいいんじゃないか。
取り出した携帯を持って、急いで文字を打つ。
『こっちでの生活にはもう慣れた。 でも景吾がいないとつまんない。そう思う瞬間が多くて困ってる。 だから、次いつ会えるのかはっきりしてよ。 見くびるなって言うのなら、示してみせてよ。 でなきゃ俺の方が先に行動するかね。覚悟しとけよ』
送信して、リョーマは携帯を置いた。 そして指輪をそっと嵌めて、ベッドへ潜る。
今度は多分、眠れるはずだ。
チフネ

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