小泉すみれの ツケツケジャーナル

2012年12月31日(月) 2012秋ドラマレビュー☆

はい。今年最後の<ツケツケジャーナル>は秋のドラマ評でございます。

地上波の連続ドラマってなんなんだろう。
大河ドラマ『平清盛』や是枝監督の『ゴーイング マイ ホーム』、
キムタクはん主演の『PRICELESS』などなど、
あらためて考える機会になった2012年秋のドラマシーンでありました。


☆大河ドラマ『平清盛』
マツケンってこんなに演技ヘタだったっけ? と首を傾げてしまったドラマの滑り出し。脚本担当の藤本さんのひとつの特徴である<スノッブな作風>が悪いほうに出ちゃうだろうなって懸念も早くから見えていたけれど、シンプルに言えば、「大河の主演に向いてなかった人がキャスティングされちゃった」だけなんじゃないかと、最終回を見終わってまず思った。意義が感じられない不自然な顔のアップも見苦しかった。日曜日の深夜にNHK総合を見ていると「5分でわかる今週の大河ドラマダイジェスト」が流れるんだけど、これが笑えるくらいに毎週毎週、清盛の上下見切れた顔のドアップまつりで、「これほど、存在感を疑問視されているがごとく、カメラのほうからすすんで寄ってもらってる感あふれる大河の主役がいままでにいただろうか」と自然に思うにいたり、最後にはマツケンが気の毒になった。結果的に視聴率が悪かったのは「それ向きじゃなかった俳優をキャスティングしちゃった誰にとっても不幸なこと」から始まり、話だとか主役の存在感だとかをまとめきれなかった制作陣にあると思うが、一部報道では「悪しざまにけなし、悪いイメージを植え付けつづけたマスコミのせい」などと逆恨みしているスタッフのようすが伝えられ、もうちょっと謙虚になってはいかがかと、最後までやっぱり傾げた首が戻らなかったわたしの大河視聴であった。

ちなみにいまの朝ドラはほとんど見ていない。内容以前に夏菜がシンプルに苦手なんで。


☆月9『PRICELESS』
鈴木雅之演出のギミックな部分がキムタクにまったく合わないんだなあ、と思いながら見た初回。しかしこれはみるみるうちにナリをひそめていった。修正きかせたのだろうか。正解だ。わたしはキムタクのドラマは、ふつうに熱〜く汗をかき続ける若造のお話で、見る者にストレートな感動を与えてくれさえすればいいと思っている。今回も中井貴一というオッサンをキムさまの身近に置くことにより「永遠の若造感」を出すのに成功していたが、もうそろそろ<若造時代><青二才フィーリングの時代>を終えてもいいんじゃないかと思うのである。いつまでも若作りして、ちょこちょこ小ぎれいな恋なんかもドラマ内でしちゃったりしてるうちに<第二の田村正和>なんかになってほしくないのよね。まあ刑事モノもいつかはやるんでしょうけど。


☆『ゴーイング マイ ホーム』
山口智子の復帰作で、是枝監督の全編登板っつーことでシンプルに見たいという気持ちになったし、初回はなかば正座するような気持ちで視聴したのであるが、見ているうちに胃が痛くなった。ちょっと見には、人気料理研究家役の山口智子とCMプランナー役の阿部ちゃんの<小金もってる都会暮らしの夫婦>がつくりだした<ザ・おしゃれマンション生活>的な日常のヒトコマが映し出されているのだけれど、そこに映っているものの複雑さがじわじわと見ているわたしの脳を痛めつけた。まず、ダイニングに置いてあるテーブルの上は、山口智子の仕事道具で占拠され、家族はそこで食事ができない。よって、リビングにある低めのテーブル上に食事は用意され、ごはんを食べるには高さが合わないソファに座って阿部ちゃんと娘さんは食事している。そのあいだも山口智子はせわしなく仕事の仕込みなどをキッチンでしつづけており、ちょい上の空で、かつちょいイラついてる口調でリビングにいる家族の会話に加わっている。また山口智子がこういった<ちょいイラ感の漂う主婦>をやらせたら相変わらずうまいので、その声を聞いてるほうはハラハラして、いつのまにかリビングにいる娘さんの視点にさせられている。阿部ちゃんもまた、声だけで<ちょいイラついてる男>の感じを漂わせることにかけてはロバート・ダウニー・Jrにも負けてないので、ようはこの家族、おしゃれ感を超えてイライラがそこかしこに漂う、なんだかちぐはぐな暮しをしていることが画面にたっぷりと提示されている。あの娘さんは一見恵まれているようでいてほんとうは微妙なイライラにつねにさらされているという気の毒さをたたえている存在で、学校でのやさぐれ方があの程度で済んでよかったと思うのである。あのマンション、家族は1階に住んでいるという設定なので、ちょっとした庭のスペースがある。が、それもまた外用のウッディなおしゃれテーブルセットと洗濯物干しのスタンドがいやーなかんじで配置されていて、この家族のもつ<ちぐはぐ感>をかもしだす意味での是枝監督の思惑としては成功している。さりげなく成功しているがゆえに見ていてイヤな気持ちのままさりげなく初回が終わり、正直、次の回を見るのに勇気が必要だった。ドラマの終盤ではダイニングテーブルの上の仕事道具は片付けられ、家族は適正な高さのテーブルで揃って食事ができるようになり、会話のトーンもおだやかなものになっていった。だからといって「テーブルに戻れてよかったね」などといったわかりやすいセリフなどはなく、ただ、ストーリーのなかでさりげなくダイニングテーブルの存在が機能していただけである。なんだろう。物語としては巧みな流れのはずなのに、この解せない感じ。考えすぎて失敗してる感じ。わたしはホームドラマが大好きなので、ドラマが家族の問題の諸相に迫っていればいるほど、連続モノのテレビドラマとしての<次回も見たくなる感>を逸する危険性も大きくなるという皮肉さを承知している。結果として、このドラマは視聴率が初回から半減するという大惨敗を喫し、なぜか復帰した山口智子に主演作でもないのにその責が押し付けられていたが、果たして「シンプルに連ドラに向いてなかった」というだけのことじゃないかと思う。1話完結で、3時間スペシャルという態でやっていたら、そこそこいいんじゃない?って程度のホームドラマだったんじゃないかと。


以上、つらつら書き連ねたが、ようするに、その場所にふさわしい主演俳優、その内容にふさわしい形態ということをシンプルに追求していくことの困難さを見た思いである。困難だったからといってそれを失敗と断じるのはたやすいが、いまの地上波の連ドラという存在じたいをかんがえると、「そうはいってもいつまでたってもまた次の作品が作られる枠はあるのだろう」などという楽観はできないかもしれないと思った今年の締めくくりだった。


小泉すみれ  


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