はじめてのヨーロッパ その11 〜ミュンヘン3 - 2003年04月30日(水) 昨日のG・W初日は暑い暑い! 大快晴だった。 この季節って最高ですね。 若葉の緑はまぶしいし。 (あ、でも地域によって違うか。) 数日さぼってしまいましたが、旅行記の続きです。 ミュンヘンの朝は快適。 そんなに高いホテルではないけど、パンもソーセージも美味しいし、ブルーベリー入りのヨーグルトやマイルドなコーヒー。 とても気分が良いです。 どこに旅行しても朝は爽やか気分なものですが、外国の朝ってのは格別ですね。 それまでフランクフルトとかプラハではまだ何となく落ち着かなかったんだけれど、ようやくここへきてゆったりしてきた、という感じ。 散歩にでました。 ここには大きな美術館が2つある、と「地球の歩き方」で読んでいたのでそれを目指す。 「アルテ・ピナテコーク」と「ノイエ・ピナテコーク」 ピナテコークっていうのが美術館のことだか未だにちゃんと調べてないのだけど、「アルテ」は「昔」、「ノイエ」は「新しい」なので、そういう区分けだということはわかります。 ホテルから20分くらい、そこまでの道のりには住宅地や大学なんかがあるのですが、緑と街の調和がすっきりしててさわやかな雰囲気。 住みやすそう〜。 「外国で住むならココだな。」 とか思ってしまいました。 まずはアルテ・ピナテコークから入りました。 レンブラントとかルーベンスのような重厚なものや色彩豊かなものが、ポツンポツンと展示してある。 その合間にドイツの、私の知らない画家の絵があったりするのですが、例えば女の子の絵だとみんな申し合わせたように頬がピンクで塗った陶器の人形のような可愛らしい絵で、(昔の?)ドイツ人ってやっぱりロマンティックなんだなー、と思わず微笑ましかったりして。 ちなみに私が仕事で会うドイツ人のアーティスト達、みんな仕事には厳しいけど日常は朗らか。 でも「ロマンティック」という言葉は彼らにとってはあまり良い言葉ではないらしいですね。 ここはとてもすいていたし、絵もゆっくり見れる。 時間がゆっくり流れてる。 ひとつの絵をゆ〜っくり見て、疲れたらベンチに座る。 また次の絵を見る。 また思いついたら、さっきの絵に戻る。 東京の何かの有名どころの美術展なんて、人がいっぱいで押し流されるように見ていかなきゃならないことを考えたら、こんなゆとりは夢のようでした。 てか、これが美術館での時間の過ごし方なんだな〜と初めて知りました。 「ノイエ・ピナテコーク」の方は建物からして近代的でカンディンスキーとかクレーの絵なんかもあったけど、ポップアートみたいなのが多くて、それもあまり面白くなくて私にはピンと来なかったのですぐ出てきてしまいました。 さて、今晩はいよいよ待ちに待ったオペラ。 今日はリヒャルト・シュトラウスの喜劇「ばらの騎士」。 R.シュトラウスはウィーンと並んでドレスデン、ミュンヘンで20世紀前半に自分のオペラを次々と上演してきた人なので、ミュンヘンのこのオペラハウスで「ばらの騎士」を見るのは格別な経験になるはず。 いわゆる本場もの、というやつ。 楽しみで楽しみで。 江戸の歌舞伎座で歌舞伎を見るような感じ? いったんホテルに帰ってシャワーを浴びて(そんなことは日本ではしたことがないのですが)、身も心も清める(?) ちょっと昼寝してから、スーツに着替えて出かけました。 劇場は目の前。 18時開演で、私は1時間前に入る。 劇場は人、人、人。 いやー!さすがに超一級のオペラハウスとなるとみなさん素晴らしい着飾り方。 ワイワイガヤガヤ劇場の外、中では既にワイン片手に紳士淑女が語らっている。 男は蝶ネクにタキシード、女性はドレス。(すみません、こういうボキャブラリーがなくて何々ドレスとか言葉を知らない。) 私なんぞ、濃紺のダークスーツを着ているものの、それでもカッコ悪い。 外人はやっぱりこういうの着てるとカッコいいよなー。 これだからオペラはハイソで敷居が高くて…なんて言ってる方。 やっぱりこういう所でオペラ見ようと思ったら、自然にそういうカッコしなきゃ、とか思いますよ。 カッコつけ、じゃなくてそういうのが楽しい、と思うようになりますよ。行き慣れたら。 本当に楽しいですから。 中に入ると、日本と違って席の場所がわかりにくいんだよな。 ドアのところに立っているお姉さんに案内してもらう。 あ、ふと視線を横にむけると女性ヴァイオリニストでは世界トップのアンネ・ゾフィー・ムターが!(カラヤンが可愛がっていた15歳でベルリン・フィルにデビューした天才。ちなみに私と同い年。) そういえば彼女はミュンヘンに住んでいると聞いていました。 やっぱりすごい人たち来てるなぁ〜。 席につこうとして面白かったのは、席の前後間隔がせまいのですが、列に入ろうとするとそこに座ってる皆さんが一斉に立ってくれるんですね。 いつ、どこにいってもそう。 もうこういうのは暗黙のお約束。 伝統の一部なんでしょうね。 こういう場所でのお約束はもはや文化の一部かも。 楽しいお約束です。 それにしても開演まではお客さんたち超ウルサイ。 これで始まって大丈夫なのかな、というくらいウルサイ。 おしゃべりは続く。 でも指揮者がでてきて拍手がひとしきり終わったら、サッと静かになりました。 さあ、開演! いやー素晴らしかったですね。 初めてナマで聴いた「ばらの騎士」。 外国、それも本場中の本場で聴いた!という高揚感もあっただろうけど、実際歌手陣も元帥夫人マルシャリンにアンナ=トモワ・シントゥ、貴族オクタヴィアンにアンネ・ソフィー・フォン・オッター(男装の役です)、オックス男爵にヤン=ヘンドリック・ローターリング。当たり役として日本でも評判の高い人たちだし、演技ももう何回もやってすべて手の内にはいってますよ、という余裕しゃくしゃくの歌。 (ただマルシャリンがあまりにも演技が板につきすぎていて、例えば「驚く」ところで驚いていないのに驚いてる「演技」をしてる、みたいのがちょっと気になったけど。長くやりすぎたマンネリってやつ?) 超感激、感動!! 陶酔の極でした。 ホテルに戻ってもまだ夢の中、って感じでした。 《続く》 ... ちょっと休憩 〜現代音楽のガラ・コンサート - 2003年04月25日(金) すいません。 今日はミュンヘンの続きを書くはずだったのですが、旅行記は1回休みにさせていただいて、急遽別のことを書かせて下さい。 いや、今日(昨日か)行ったコンサートがあまりに素晴らしいコンサートで、色んな意味で強烈に感動したんです。 これを書かずに何の音楽馬鹿の日記か!っていうんでどうか許して下さい。 え? 旅行記なんか飽き飽きしてたから丁度いいって? そんなぁー。明日から再開しますんで、そちらもよろしくお願いします。 それで昨晩行ったコンサートは(またクラシックですけど)、ピエール・ブーレーズ指揮グスタフ・マーラー・ユーゲント・オーケストラの公演。 東京オペラシティで行われました。 この日はオーケストラの公演といっても、歌手やピアニスト、チェリストなんかの大スターが終結したガラ・コンサートの様相を呈したコンサート。 それも演奏されたのは20世紀の曲ばっかりですから、つまりは近・現代音楽のガラ・コンサート。 色々な意味で感動…と書きましたが、 まずは一音楽好きとして。 まずブーレーズという人は現存する作曲家で現代最高の人で、そして現代最高の指揮者の一人。 そしてグスタフ・マーラー・ユーゲント・オーケストラは18〜26歳のメンバーで、ヨーロッパ各国からオーディションを受けて集められた若いオーケストラ。 ここの出身者はベルリン・フィルやウィーン・フィルのような超名門オーケストラに在籍している人が多く、一流オケの予備校みたいなオケです。 だから若い、といってもメチャクチャ上手い。 まず、そのコンビで演奏されたハンガリーの大作曲家、バルトークの「ディヴェルティメント」。 ブーレーズという指揮者の最も目立つ凄さは、彼が指揮すると魔法のようにそのオケの音が澄み切って全く濁りがなくなる。この曲なんかはヴァイオリンの高い音からコントラバスの重低音まで複雑に絡み合っているのですが、ブーレーズの指揮で絡んでる音が全部クリアーに聞えてくる。 オタマジャクシが汚い水の中に泳いでいたら何にも見えないでしょう? それが、綺麗な水に取り替えたらあ〜らこんなに泳いでいた。って感じになるのです。 それにブーレーズはもとより、オケが上手いからリズムのキレも抜群だし素晴らしく迫力のあるバルトークでした。 次の曲はわが国最高の作曲家、武満徹の「ユーカリプス」 これはウィーン・フィルの首席フルート奏者、ウォルフガング・シュルツと若手最高のオーボエ、フランソワ・ルルー、そして日本の誇る世界最高のハーピスト、吉野直子の演奏。 武満さんの音楽特有のゆったりとした、そして芳醇な時を越えた響きが、こういう名手たちに演奏されるとこうも純粋に響くものか、と。 続いて、指揮しているブーレーズの自作「メサジェスキス」を今、若手チェリストの中でも最高といわれるジャン=ギアン・ケラスとオケの6人のチェリストとの変わった編成で。 ケラスの快刀乱麻というような「これがチェロ!?」というような圧倒的な演奏でした。 ここで休憩。もう胸が一杯でここまでで頭がクラクラしていました。 そして後半。 今度は現代最高のメゾソプラノ、アンネ・ソフィー・フォン・オッターを迎えてラヴェルの歌曲「シェエラザード」。 彼女は声こそいわゆる「酔わせる」声ではないのですが、「目覚めさせる」声、というかブーレーズの指揮するオーケストラの精妙さとあいまって、夜のしじまのような深い静けさから嵐のような激烈さまで夢のような15分。 観客だけではなくオーケストラの団員も足を踏み鳴らし、大歓声のカーテンコールがいつまでも続きました。 最後はフランスのメシアンが日本を訪れた際、インスピレーションを受けて作曲した「7つの俳諧」 今度は現代曲を引いたら右に出る者はない、それどころか今は(実はみんなが単に知らないだけだけど)ベートーヴェンやリストを引いても超一流の、要するに現代最高のピアニストの一人、ピエール=ロラン・エマールが加わります。 エマールはこのメシアンを弾く前にちょっとスピーチしたのですが、私はどうも未だに英語がきちっと聞き取れない。 なんか長々と話していたのですが、要は「メシアンの前に細川俊夫さん(武満さん亡き後、今一番注目されている作曲家)の“俳句”という曲を弾きます。」というものでした。 それも見事だったのですが、やはり圧巻だったのはメシアンの曲。 これも音色の氾濫、複雑なリズムの交錯でかなり聴くのも、演奏するのも難解な「はず」だったのですが、このコンビにかかったら何のその。 エマールはブーレーズの特質をそのままピアノに当てはめたようなピアニストで、どんな早いパッセージ、どんなたくさん同時に音が響いていても決して濁らない。 超美しい音色で完全なバランスを持って響く。そして人間ワザとは思えない超絶技巧。 これってつまることろ、ブーレーズもそうなのですが驚異的な「耳」を持っているということに他ならない。瞬時に響きすべてを分離して捉え、適切なバランスで再構成する耳。 音楽家にとっては最高に羨ましい能力です。 いささか理屈めいた話になりましたが、このメシアンも、それこそ最高の耳のご馳走でした。 エマールは今週末にリサイタルがある、ということなので絶対行くつもりです。 以上これだけ豪華な演奏です。 どれだけお客さんが感激し、興奮の坩堝となったかどうか想像してみて下さい。 音楽にたずさわる仕事をしている者としての感動。 …これが普通のコンサートならよく、でもないけど、まああることです。 しかしこのコンサートは20世紀の曲ばっかり。いわゆる現代音楽のコンサートです。 それがこんなたくさんのお客がこんなに感激して盛りあがっている! 感無量でした。 クラシック好きの人は意識されているか、いないかわからないけど、ほとんど…ほとんどと言っていいでしょうね、コンサートのレパートリーは17世紀から19世紀の作品に限定されています。 これは普通に考えて何かヘン。 まあ、だからクラシックと呼ぶのだ、と言われりゃそれまでなんですが。 でも私達は「今」に生きている。「今」の音楽があんまり聞かれない、って不健康な気がする。 ポピュラーはその点、健康だなって思うのですが。 でもそれは理由が無い訳ではない、ということも分かる。 なぜなら20世紀以降に書かれたクラシックの曲はなにしろ暗く重いものが多い…という以前に調性(キー)がなくなってメロディも消滅して、キコキコ、ガチャガチャ何やってんだか分からない。 私も実は10年ほどくらいまではそう思ってた一人でした。 でも今は声を大にして言います。「それは違う!!!」 そういうのもあるけど「絶対違う!!!」 そう思われるのは実は、良い演奏が少ないから。 それからあまりにもそれまで書かれてきたものと「言葉使い」ならぬ「音言葉使い」が多様化して耳慣れぬものが多くなったから。 そして演奏される機会が少なくて聴く機会が少ないから。 現代の音楽は確かに複雑に書かれている分、演奏が技術的に難しい。 だからよっぽどキチッとした良い演奏でないと曲の良さが耳に届かない。 そして聴く機会が少なければなじまないのは当たり前。 それと音楽は人間の作曲するものである限りは、20世紀という激動の辛い時代を生き抜いた作曲家が書く作品はそれ相応に重い。 それを聴くには、そういう重い現実に直面する勇気がいると思います。 だから現代音楽は「普通のコンサート」で聴くには敬遠されてきた、と思うのです。 「普通のコンサート」?? なぜか現代の音楽は「現代音楽のエキスパート」と自称する演奏家、そして「現代音楽マニア(オタク?)」によって聞かれてきた、という特殊な背景もあります。 確かにそういうところに陥るのもわからなくはない。 しかし、そんな狭いものでは決してない。 それを教えてくれたのはまさに近年のブーレーズの活動であり、それで私は本当に感じ方も考え方も変わってきました。 別に私だけでなく、音楽ファンも一緒のはずです。 それが今日のようなコンサートに結実してきた、と感じられるのです。 最高の演奏が曲の再評価につながり、こんなにお客さんが感動している姿を見るのは音楽馬鹿として、音楽の仕事をする者としては最高の喜びでした!! \(^o^)/\(^o^)/\(^o^)/\(^o^)/\(^o^)/\(^o^)/\(^o^)/\(^o^)/\(^o^)/ これだけのプランをたて、実行した主催の事務所は素晴らしいな、と思います。 私のトコじゃ、夢はあっても実行力ないし、まずお金ないし。 でもこのスタッフに話を聞いたらちょっと??でした。 だって「こんなコンサートでよく客がはいりましたよね。」とか「いや〜やっててもワケわからんですよ、こんな音楽。」とか言ってたんですよ。 なんなんでしょうね? お客の方がずっと健全に育って先行ってるような気がするのは気のせいでしょうかね。 ...
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