| 2001年09月24日(月) |
そうめん会議の後日 vol.6 フクイ |
勢いよく会議室後方の扉が開いた。 誰かが立っていた。
その誰かは眩いほどの光を背にしていて仁王立ちしていた。 影で誰も彼の顔を確認する事はできなかった。
ケビンコスナ-か? いやそうではない。それよりは背は低い。
トムクルーズか? いやそうではない。それよりは背は高い。
ニコール・キッドマンか? いやそうではない。おそらく男だ。キッドマンといえども女である事にかわりは無い。
サモハンキンポーか? いやそうではない。それほどいかがわしく無さそうだ。
周富照か? いやそうではない。周富徳の弟といえどもこんなところに来るほどほど暇ではないはずだ。
アムロか? いやそうではない。ちょっとユータイプを感じれるつもりになってみたかっただけだ。
そんな事を会長のフクイは考えていたらしく、ひとつひとつ私に説明してくれた。 私はユンピョウかもしれないと思ったが言わなかった。 どんなことでも、やたらめったら言いすぎることは良くないことだ。 このことは日頃からちょっと気をつけていて現在訓練中である。
彼の話を背景に私は影の正体を推測するために頭の回転テーブルを高速でまわしていた。
その時だ。 私達に油断があったのだろう。 その影は一瞬にして動き、最後の題目で残してあった1束を津波のごとくさらっていったのだ。
こうして今年のそうめん会議は幕を閉じた。
| 2001年09月23日(日) |
そうめん会議の後日 vol.5 ソーセージ |
ついにその日はやってきた。 会長のフクイが南の島から戻ってきたのだ。 ソーセージをお土産にして。
会長のフクイは帰るや否やそうめん会議を開いた。 彼の中でもうすでに「昼はそうめん会議」と決めていたのだろう。
彼は見かけによらず1度こうだと決めてしまうと、妥協はほとんどしない頑固なところがあった。 しかし、彼はそれを社員の前では絶対に見せなかった。 偉いものだ。 そうじゃないと社会は渡ってゆけないし、会社は経営できないだろうなと私は思った。
今回のそうめん会議は会長のフクイと私が出席することになった。 ナガサワは欠席だ。 まだ前の会議の事を引きずっていた。 よほど痛んでいるらしい。
会長のフクイの1歩うしろを私はそうめんの箱と秘伝のつゆを抱えて歩いた。 そして、会長のフクイに続いて戦場である会議室に入った。 会議はいよいよ始まろうとしていた。
私は、 そうめんは残り5束でありまして、肌寒い季節がらもう秋は本番です。 ですので、今回が今年最後のそうめん会議になりそうです。 と会長のフクイに耳打ちした。
会長のフクイは周りの状況を鋭い目線でうかがいながら静かにコクリと頷いた。 彼はどんな状況でも気は抜かない。 さすがは会長のフクイである。
会議は我々の思惑通りに進んだ。 問題は何も無かった。
しかし、残り1束というところでそれは起こった。
| 2001年09月22日(土) |
そうめん会議の後日 vol.4 スターダム |
マチャアキからつゆを買い付けた私は機が熟すまで待つことにした。
次のそうめん会議では必ず我がFTコーポレーションは勝利するはずだ。 このつゆさえあれば。 そして、私は一気にスターダムにのし上がるのだ。
ナガサワが羨望の眼差しで見るようになるのも簡単に想像できた。 しかも今の彼はシャンプー無しだ。 ただリンスよりたちが悪いのだ。 私の相手になるわけがない。
しかし、シャンプー抜きで生気が無い彼を見ると可愛そうになってくる。 だが私には何もできんのだ。 シャンプーの入っていないリンスインシャンプーなんて誰が好んで使うというのだ。
ともあれナガサワより先に私がブロードウェイに立つのだ。 正気を抜かれた今のナガサワに答えるにはそれが一番なのだ。 ぐずぐずして傷をなめあっても意味は無い。
私はそう勝手に解釈し自分を納得させて、マチャアキから奪取したつゆを握り締めた。
自分を納得させる事に関しては私は誰にも負けない。 これは小学校時代から解っていた事であるけれども。
| 2001年09月21日(金) |
そうめん会議の後日 vol.3 マチャアキ |
マチャアキは甲羅も背負っていたし、彼の目は既に遠くを見ていたんだ。 もうそれは現世じゃなかったさ。 あの眼を今でも思い出すとゾクッてするんだ。 なんだか何もかも見透かされているって気がしてね。
マチャアキは言ってたよ。
「私はチューボーですよやアルアルとかやってるけど実際はやりたい仕事じゃないんだ」 彼は目に涙を浮かべて言ってたさ。 演技かもしれないけど俺は信じたいね。
「私は今まで誰かに与えられて仕事をやってきたに過ぎないんだ。」 そうなんだ。って思った。 かもしれないとも思ったね。
「だからこの半年は何にも捕らわれず、自分の意志で生きたいんだ」 ちょっと感動したよ。 ピリリときたよ。 ワサビや辛子みたいに。
この辺がチュ-ボーですよの料理長なんだなって思ったね。
かなり話はそれてしまったが、そうめんのつゆは手に入れることができた。
実のところそのつゆを持っているのはマチャアキだったからだ。
その事は初めから解っていた。 そうでなければ私が1時間も抗議の電話をする訳はないのだ。
| 2001年09月20日(木) |
そうめん会議の後日 vol.2 アルアル |
つゆを手に入れるためなら何だってしたさ。 はっきり言って寝なかったね。 自慢じゃないけど。
具体的には1日4時間ぐらいかな。 基本は1:3でね。 1は昼。3は夜。 1度に4時間寝るよりこのほうが効果が高いんだ。 アルアルでマチャアキも言ってたけどね。
それよりマチャアキが今年度の後半戦休業するらしい。 嘘かほんとか知らんけど、ほんとに参ったよ。 俺なんて抗議の電話を1時間にも及んでしたんだけどね。
彼はうんともすんともしなかったよ。 彼の決意は固かったね。 まるで亀仙人の甲羅のようだったよ。 って思っていたら実際背中に背負っていたしね。 小さめの甲羅を。 これか!って思ったけどもう遅かったね。
| 2001年09月19日(水) |
そうめん会議の後日 vol.1 プロローグ |
前のそうめん会議で自分達の意見を通せなかった私とナガサワはぐったりしていた。 ナガサワはシャンプーが入っていないリンスインシャンプーのように生気を抜かれていた。 私もかなりぐったりして辛かったが、ナガサワほどではなかった。 事の重大さに関わらず私はそんなに事を引きずるタイプではないらしい。 これもやっと最近解ってきたことであるが。
大人になると色んな事が解ってくる。 自分以外における周りのこともそうだが自分自身のことも然りである。
私の会社は次こそは名誉挽回とばかりに会社総出で次のそうめん会議に備えた。 むろん会議には会長であるフクイも出るだろう。 彼はこんな中途半端な時期に南国の島で温泉に入っている場合ではなかったのだ。 今更言っても仕方はないが。
前の会議でつゆは完全に使い切ってしまったので私は密かに1ビンを用意していた。 もちろん私ひとりでの単独行動で用意した。 ナガサワには用意したことを言っていない。
ナガサワと共同で用意したと言ってもいいが、それでは今後の昇進にプラスに働かない。 現時点での昇進に関する私のライバルは誰がなんと言おうとナガサワである。
今回のつゆの用意は昇進への明確なアドバンテージに充分すぎるほど成り得た。 だから私は前の会議の後から一気に気持ちを入れ替え用意周到に行動を始めていた。 つゆを手に入れるためだけに。
学校から家に帰り扉を開けると、部屋の電気がついていた。 あれ?消したはずなのに。
酷く疲れていたから速攻でシャワーを浴びた。同時に歯も磨いた。 シャワーと同時に歯を磨くと、口を閉める必要が無いからかなり爽快。 体の前面は歯磨き粉と唾液で製造された白い液体で滝を形成する。 すぐに洗うから何も問題はないのだ。 海の中でおしっこをするという感覚と似ている。 まったく問題ないのだ。
浴室を出てトイレの前を通り、扉を2つ開けて寝室に行く。 この1文で広い部屋を想像しないでほしい。 断っておくが私の部屋はダイニング=リビング=寝室であって、当然ユニットバスである。
TVの前で全裸で腕立て伏せをしたあとにニュースを見る。 テロの速報で意味もなく朝のワシントンを呼んでいる筑紫哲也が居る。 「ワシントンの岡田さん」
急に眠気が襲う。そろそろ就寝だな。
私はすくっと立ちあがり布団を敷くため押入れを開けた。 すると押入れに積んである布団の上に男が座っていた。 彼は白いターバンと白いアラブの民族衣装を着て、背中には機関銃を担いで座っていた。 あごひげは伊藤博文もビックリするほど立派なものだった。
彼は左手の親指とひとさし指とで円を作り、OKの手の形を作った。 そして親指とひとさし指の先をはじくと同時に言った。「アッサラーム・アライコム」
私はしばらく困惑していたが、「こんにちわ」と答えた。
「うちに来るなら前もって来るって言ってよね」と私は言おうとしたが少し考えて止めた。 彼にそんなことを言っても無駄である。 彼が事前に連絡をせずに行動を起こすのはいつものことであるからだ。
「羊が1匹。羊が2匹。・・・」 私は羊が柵を越えて入っているのを想像しながら頭の中で呟いた。
「・・・羊が9匹。羊が10匹。」 10匹を数え終わり私はお腹の上の紙に「10」と書いた。
もう電気は完全に消していた。 真っ暗で書いた数字を目で確認はできない。 しかし紙の位置を知っていてペンさえを持っていれば数字くらいは書けるはずである。
「10」と書いて一息つき再開。 「羊が11匹。羊が12匹。・・・羊が19匹。羊が20匹。」 「20」と書く。 さらに続けた。
「羊が21匹。羊が22匹。・・・羊が29匹。羊が30匹。」 30匹まできても眠気は初めとほとんど変わらなかった。 このまま1000匹ぐらい行くのではないかと酷く不安に思った。
でもなるようにしかならない。 もし1000匹なら1000匹でもいいじゃないかと思い直した。 メエメエうるさくて逆効果でもこの状況を楽しんでやろうと思い直した。 私はそう腹をくくって再び数え始めた。
次の瞬間に私は寝ていた。 ぐっすり寝ていた。
朝になって起きた。 起きてみて初めて自分が数えている途中で寝たことに気がついた。 おなかの上から落ちていた紙には歪んだ文字で10と20と30の数字が書かれていた。 手から落ちていた黒のハイブリッドはシーツに小さいホクロを作っていた。
−−− 羊を数える 終わり
単純に数えて寝てしまってもいいのだが、それでは結果が残らない。 次の日に起きても数えた過程など忘れてしまっているからだ。
柵に入れた数や毛をそった数やジンギスカンで食べた数など到底解らない。 ましてや泣いた回数など解るはずが無い。 もしかするとヤギの鳴き声も入っているかもしれないのだ。
私はその結果を残すためにペンと紙を用意した。 今日は初日であるから、柵に入れた羊だけ数えるとしよう。 ヤギは入れちゃ駄目だ。彼らは眠りの妨げになる。 彼らは眠るために必要な紙を食べるからだ。
人間は眠くなると頭蓋骨と脳の間に、ある程度の面積を持った紙が増殖する。 大きさは大体1cm四方である。 結婚式などお祝いにまく四角の紙を思い浮かべていただければ間違いは無い。
増殖した紙は脳にへばりつき脳の筋肉の動きを止める。 脳は内部でゆっくりと呼吸をしながら、筋肉を使わなくなる。 それから深い眠りが訪れるのだ。
ところがどっこいヤギはその紙を食べてしまう。 ぐっすり眠りたいのならヤギを入れていい訳が無い。 しかしこれは学校では教えてくれない事である。 ほんとうに今の教育はどうかしてる。
私は布団の中に入って仰向けになった。両腕を掛け布団からだした。 右手にペンを握り締める。黒のハイブリッド。
電話料金引き落とし明細の裏面に羊の数を書くことにする。 その紙をおなかの上に置く。天井を見上げる。
準備は整った。 そして僕は数え始めた。
その大会が終わった夜の事だ。 いつものように訓練を兼ねて速く寝ようと私は布団の中に入った。
1・2・3・4・5・・・・ ん?あれ?眠れないぞ。どうしたんだ。いつもは3秒前後のはずだが。 こんな事ではオリンピックどころかスネオにバカにされてしまうぞ。 おもちゃも貸してくれなくなるぞ。うぅどうしよう。
あっそうか本を読もう。 今読みかけ中の村上春樹の「TVピープル」を読もう。
ふむふむ。ふむふむ。ふむふむ。 ねむねむ。ねむねむ。ねむねむ。
なんて、うまくはいかないね。 結局短編を一つを読み終えてしまったではないか。
「さて、どうされますかシバヤマクン?」 腕を組んで見下げているのびたの声が意識の彼方から聞こえる。
「くっ、どうすべきなんだ。」私はこぶしを握りしめた。 こうなれば古典的な作戦でコテンといこうじゃないか。
とうぜん古典的な作戦とは羊を数えるのだ。 こういう時こそ王道である。急がば回れだ。 ヒットラーもこの作戦を用いユダヤ人を寝させて、毒ガスで一気に始末したというではないか。
だがただ数えるだけでは面白くない。 私はそう考えおもむろにペンと紙を用意した。
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