天使に恋をしたら・・・ ...angel

 

 

かの女に幸せが戻ってほしい - 2002年02月27日(水)

今日はお休み。
起きて一番にベッドの中から電話した。
夜中もずっと会社で仕事してるけど、電話してくれていいよ、って言ってくれたから。

「はい、もしもしー」
仕事用の声が聞こえる。
「今起きた。」
「うん。今日は勉強するんだろ?」
「ガンバレって言ってー。」
「ちゃんと頑張るんだよ。応援してるから。」
「うん。」
それからキスしたら、あの人が言う。
「ちょっと無理。」
「いいよ。分かってる。」
笑いながら、じゃねって、もう一度キスして切った。

雪が降ってた。
降り出したばっかりみたいだった。
積もる前に、車を向かいのモールの駐車場に移さなきゃ。
シャワーを浴びて、濡れた髪をアップにぎゅっと捻ってクリップで留めて、
車を動かすついでにチビたちの缶づめごはんを買いに行く。

戻ってくる寸前に、ドーナッツが食べたくなった。
モールの駐車場に車を入れてから、ねこ缶どっさり入った重たい袋をさげてドーナッツ買いに行くのは大変だ。
いったんアパートの裏口に車を横付けして、ねこ缶の袋をうちに置いてから、モールの駐車場に車を入れに行く。それから手ぶらで、道路を渡って、アパートの隣りのドーナッツショップに行く。

咄嗟にこれだけの判断が出来るなんて、試験はパスだなって思いながら、チーズとたまごのサンドイッチをベーグルで作ってもらった。ローストしたココナッツのドーナッツとアップルフリッターを一緒に袋に入れてもらって、お店を出てから、「車どこに停めたっけ?」ってドーナッツショップの駐車場を探してる。雪の中にしばらく立って、「あれ? ない」なんて焦ってた。
ああ、モールの駐車場に入れたんじゃん、って思い出して、この大ボケぶりじゃあ、やっぱり試験は危ないかもなって思う。

今夜はグラミー賞の発表だ。
「明日グラミー賞の日だよ」って昨日言ったら、「そうか。出に行かなきゃな」ってあの人が笑わせた。
8時まで、頑張って勉強しよう。ビデオに撮って、送ってあげよう。


かの女は眠っているだろうか。
泣きながら眠りについただろうか。
優しい夢を見られているだろうか。

幸せが戻ってほしい。


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花が蜜蜂を愛するような - 2002年02月24日(日)

「花が蜜蜂を愛するような、本物の愛なのに」

蜜蜂が花を愛するんだと思ってた。
違ったんだ。
あちこち飛び回る蜜蜂を花はじっと待ってる。
美しく咲きながら待ってる。
強い愛だなあって思った。
本物の愛ってのはわかんないけど。
だって、愛はどんな愛でも本物じゃない?
本物じゃない愛なんて、あるんだろうか。

わたしが花で、あの人が蜜蜂だと思ってた。
美しいかどうかは別として。

それも違うんだ。

あの人が花だった。


わたし知らなかった。
あの人ったら仕事のことで悩んでて、精神安定剤飲んでるなんて。
仕事の悩みは話してくれてたけど、
わたしが心配しないようにって、薬のこと言わなかったんだね。
倒れちゃったとき、あんまり心配して泣いたりしたような子どもだから。

最近あの人のこころが届かない気がしてたのは、
そこまで重たい不安を抱えながら、わたしに言えないからだったんだ。

ごめんね。
わたしったら、
何も察してあげなくて、別の言葉ばかり待ってた。


大丈夫なのに。
あなたなら出来るのに。
わたし、なんにも心配してないのに、あなたの仕事のこと。

わたしが安心させてあげる。
フラフラ飛び回らないで、
あなたのところにとまってる。
居心地のいい花びらに頬ずりして、
優しい吐息を聞かせてあげる。
安心して静かに花びらを閉じられるように、
ずっと見つめていてあげる。

眠れない夜ごとわたしをその花びらで包み込んで。
眠れない夜が消えるまで、あなたの中にいる。
眠れない夜はわたしが消してあげる。

出来るんだよ、離れていても。
わたしには出来るの。
わかってるでしょう?


でもね、あの歌、知ってる?
蜜蜂は誰かほかの人のところに行っちゃうんだよ。
「きみは手放せるの? 花が蜜蜂を愛するような、本物の愛なのに」

「それでも僕ならきみとこの愛を続けられる
 狂ってる?
 きみもおんなじふうに感じてるくせに
 きみはそんな苦しさに立ち向かえない
 そして行ってしまう to someone else not me 」

わたしなら、放さないよ。
たとえいつか誰かのところに行くことがあったとしても。
あなたはわたしじゃない誰かのところにもうすぐ行ってしまうけど。
狂ってるなら、ふたりして狂ってるよね。
でも、どんな愛も本物で、本物じゃない愛なんてないから。
そう教えてくれたのはあなただよ。


あの人の愛は、花が蜜蜂を愛するように強くて大きい。
今またわたしはその愛に吸い込まれて行く。
あの人がわたしを必要としてるから。
苦しくてもいい。
苦しくなんかない。
あの人の今の苦しみに比べたら、そんなの何でもない。




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歩いてるだけで - 2002年02月22日(金)

そうか。
悲しみが麻痺しちゃってるのか。
なんで悲しくないんだろうって不思議だった。

そうかもしれない。
なんでこんなふうに生きてるんだろうって思ってる、今。
ここでいったい何してるんだろうって。

今までにも何回もそう思ったよ。
でもいつもみたいに胸がキリキリ痛いんじゃなくて、
からだごと、ぼわ〜んとしてて。
うん。虚ろっていうのかもしれない。

あの娘が死んだときに似てる。
違うのは、「もういないんだ」って思えないこと。

このままいなくなっちゃったって平気だよって
昨日思ったんだ。
いなくなったのかもしれないって
ほんとに思ったんだ。

なのにそのあと
やっぱりあの人はちゃんといて、
どうやったって、あの人はそこにいて、
遠くても遠くても、ほかの人のものでも、そこにいて、
それがわかって、

ああ、いてくれてよかったって思った次の瞬間、

なんであの人がいるんだろうって、
なんのためにいるんだろうって、
なんでわたしたちはこんなことしてるんだろうって、

でもそう思っても悲しくない自分がいたの。


ねえ、教えて。
それでもあの人が好きなのは、自分を苦しめてるだけなの?
悲しみが麻痺するほど、誰がわたしを苦しめてるの?


おかしいって思うでしょ? 天使だなんてね。
だけどそれはね、
恋人を愛するみたいじゃなくて、
ただただ愛おしくて、愛おしくて愛おしくて、
天国に行ったあの娘を思うみたいに、守っていたくて抱き締めていたくて、
幸せでいてほしいって、ただそれだけを願ってて、
大切で大切で大切で、大切で、

そんなふうに愛せるのは、あの人が天使だからだって、真面目に思ったの。
死んだように生きてたあの頃、わたしを救いに舞い降りて来てくれた天使だったの。
あの娘が連れてきてくれた天使だって、ほんとにそう思ったの。
人を愛するっていうより、初めからほんとにそんなふうにあの人を愛したの。
そんなふうにだけ、愛してたの。


ああ、わたし、わかってるんだった。思い出した。
ちゃんと前みたいに、天使のあの人だけ好きでいればいいんだ。

そうだね。取り戻せばいいんだよね。
天使だけを愛する気持ち。
そして、ほかの誰かを恋人を愛するように普通に愛せばいいんだよね。
ドクターのときみたいに、あの人を重ねたりしないで。
そう出来るようになれば、
歩いてるだけで思わず微笑んでしまうような日々が来る?

今はね、ほかの誰かを愛するなんて出来ないけど。
だって、そんな人現れてくれないんだもん。

でも、きっと誰かのそばにいられるときが来るよね。
ずっと悲しいはずないよね。

大丈夫だよ。まだ悲しみは麻痺してるみたい。
せめて試験が終わるまで、このまま麻痺しててくれなきゃ困るんだ。
なんでこんなふうに生きてるんだろうって、それはもう考えないようにする。

ありがとう。心配してくれて。
素敵な言葉をくれた彼にも。ほんとに、ありがとう。
こんなわたしのこと笑わないでいてくれたなんて、最高にいい人じゃん。ね。


放しちゃだめだよ。わかってる?
歩いてるだけで思わず微笑んでしまうような日々をくれた人だよ?


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天使のいる場所 - 2002年02月21日(木)

あの時、天使がドクターのなかに入り込んで、
一緒に時間を過ごすためにわたしの前に現れてくれたのかもしれない。

2ヶ月って決めたそのあいだに、楽しい時間をたくさんくれて、一緒に仕事もしてくれて、
それから天使はそのまま、あの娘のいるところに帰ってしまったのかもしれない。

それなら全部つじつまが合う。

あんなに苦しかったときに突然ドクターに誘われたことも。
初めから、ずっと前から知ってる人みたいだったことも。
いつもあんなに自然でいられたことも。
腕の中があんなに心地よかったことも。
言葉があの人とあんなに同じだったことも。

別の自分になってここで生活したいなんて思ってたわたしに、「間違ってるよ、それ」って言いに来てくれたのかもしれない。

ほかの人を好きになる練習させてくれたのかもしれない。

練習だったら違う人がよかったのに。
ドクターは本番がよかったのに。


そんなことを考えてた。
そんなことを考えても悲しくなかった。

天使が帰ってしまったのなら、その事実を受け入れるしかないって、ものすごく冷静に思ってた。



電話がかかって来た。
別にいつもと変わらなかった。
あの人は怒ってなんかいなかった。
なんで怒んないんだろうって、ぼうっと思ってた。
恋人じゃないから怒ったってしょうがないのかなって思った。

でも悲しくなかった。

「勉強しなよ。」
「・・・うん。」
「昨日も電話したんだよ。頑張れって言いたくて。まだ帰ってなかった。」
「・・・そう。」
「どうしたの? 淋しい?」

天使はまだいた。
天使はあの人のなかにしかいないと思った。
あの人の彼女の恋人のあの人にしか、天使はいないと思った。

「彼女と会った?」
「会ってないよ。なんで?」
「だって、今週会うってこのあいだ言ってたじゃん。」
「会ってないよ。これから3月いっぱいずっと忙しいから、会わない。だからいつでも電話しておいでよ。」

あの人がまるごと天使だったらよかったのにって思った。
あの人の彼女の恋人のあの人のなかにいる天使じゃなくて。

それでも悲しくなかった。
そう思っても悲しくなかった。


天使がいなくなっても悲しくないより、
まるごと天使じゃなくても悲しくないほうが、
悲しくないって思った。

天使はいつまででもそこにいて、
わたしはいつまでも手を伸ばせなくて、
そしてわたしは悲しくない。


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日本語 - 2002年02月20日(水)

あの人はわたしの日本語がおかしいって言う。
それを長いこと外国に住んでるせいだと思ってる。

わたしも時々自分の日本語がおかしいと思う。
でも、日本に住んでるときからちょっと変だった。
「アンタ言葉おかしいよ」ってよく言われた。
それに加えて今は、日本語話すことから遠のいてるせいも確かにある。

前のところに住んでた10年間は、毎日日本語話す相手は夫だけだったし。きちんとした日本語なんか話す機会なかったし。

ここにひとりで来てからの1年半は、誰かの顔を見て日本語話すことなんか、チビたち相手にしてるときだけだし。チビたちは人間の言葉喋ってくれないし。

あの人と電話で話すときも、たまに母親と電話で話すときも、よそ行きの言葉なんか使わないし。小難しいこと話さないし。

実際、話し方がものすごくトロくなってるし、何かを説明しようとすると上手く出来なかったりする。「ほら、えっと。なんだっけ。あーなんて言ったらいいのかわかんない。もういいや」とか。それも昔っからかもしれないけど、輪かけてひどくなってる。


今日初めて、病院で日本語を使った。
腎臓透析の患者さんが、韓国から来たばっかりの人で、日本語と韓国語しか話せない。
韓国語通訳出来るボランティアの人が今日は誰もいなくて、AT&Tの電話通訳サービスも時間が終わってて、患者さんが日本語も話せるってことが解った同僚が「助けて!」ってペイジしてきた。

めちゃくちゃ緊張しちゃった。
それより、自分の日本語がほんっと変って、びっくりした。
ちゃんとした言い方が出来ない。医学用語でもない普通の言葉もちゃんと話そうとしたら出てこない。詰まってばかりで、焦った。

ある年齢以上のタイワニーズやコリアンの人たちは、流ちょうな日本語を話す。歴史の背景を考えたら、それはいつもわたしには悲しい。大学のとき、「うちのおじいちゃんとおばあちゃん、日本語話せるよ」ってタイワニーズ系のクラスメートが無邪気に話してくれても、「ほんとー?」なんて喜んでみせながら、悲しいことなのにって思ってた。

「あなたが日本語話せてよかった」「言いたいことちゃんと言えて、よかった」って、患者さんは何度も笑顔で手を握ってくれた。今日は嬉しかった。患者さんの笑顔はいつでも嬉しい。今日は特別だった。自分のおばあちゃんみたいで、甘えたくなった。

明日もう一度、腎臓透析のドクターと一緒に診察する。
今日よりはマシな日本語話せるかな、なんて、ちょっと楽しみだったりして。



あの人のこと、とうとう怒らせちゃったかもしれない。
でももういいや。
わたしも怒ってるふりしてよ。
楽しみがあれば、ちょっとは考えなくてすむよ。


あの人と電話出来なくなったら、わたしの日本語ますます変になるんだろうな。
まあいいか。

いいのかな。



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Always on time - 2002年02月19日(火)

気になってる日記があった。
朝起きてすぐにコンピューターをオンにする。
更新されてた。

ああ、よかった。
よかったよかったよかった。
嬉しくて嬉しくて、何度も読んだ。

だめだよ、素直になんなきゃ。
だめだよ、彼の気持ちをわかってあげなきゃ。
だめだよ、自分の想いを大事にしなきゃ。
だめだよ、ちゃんと言葉で言ってあげなきゃ。

ずっとそう思ってた。
そしたらちゃんと、
彼女の思いが言葉で彼に伝わって、
彼の気持ちが彼女のこころに溶けていってた。

嬉しくて嬉しくて嬉しくて、何度も何度も読んだから、
遅刻しそうになった。
でもこんな朝は、着ていく洋服もすぐ決まる。
チビたちのごはんもいつもより多めに入れてやって、
「ご褒美だからね」なんてわけわかんないこと言って、
遅刻しそうなのに、ひとりずついっぱいキスしてやる。

車の中でかかった Ja Rule の Always on Time がいつもよりずっと素敵に聞こえる。
ちゃんと素直になれたね。
ちゃんと間に合ったね。
一番大事な時を、ちゃんと外さなかったね。
顔がほころんでくる。ひとりでに微笑んでる。
わたし今すっごく素敵な笑顔だよ、きっと。なんて自分で思ってる。

仕事中もずっとぐるぐる頭んなか流れて止まらなかった。
Iユm not always there when you call, but I'm always on time.
And I gave you my all, now baby be mine.

彼はもう貴女のものだよ。
貴女はもう彼のものだよ。
絶対幸せになれるよ。
わたし、今日一日ずっと幸せな気分だったよ。


人のことならわかるのにね。
わたしは今素直じゃない。素直になれない。
理由もわかってる。

なれるかな。
手遅れになる前に、間に合うかな。
わたし、待ってるのかな。
あの人がちゃんといつもみたいに、時を外さずに救ってくれるのを。






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悪魔が囁くよ - 2002年02月18日(月)

また電話したけど、留守電になってた。
彼女といるのかなって思った。
「今日はお休みだから、電話してね、ね、ね」ってメッセージ入れたあとで、
もし彼女に聞かれたらどうしようって心配した。

夕方になって、かけてくれた。
いつもの普通の声聞いて、泣きそうになった。
「勉強してる?」
「あんまりしてない。」
「なんで?」
「胃が痛い。」
「電話かかって来なかったから?」
「うん。」

日曜日に急にまたライブが入って、焦って大変だったって言う。
彼女と会ってたんじゃなかったんだ。
でもまだ胃が痛かった。
「勉強してよ。」
「応援してよ。」
「頑張れ。」
「もっと言って。」
「頑張れ頑張れ頑張れ頑張れ。」
「あー、そんなんじゃだめだ。」
「どうしたら頑張れる?」
「ここにいてくれたら頑張れる。」
「またそんな無理なこと言うー。」
あの人は笑った。

次のアルバム出したら、ここに来るって言った。
ほんと? 嘘だ。絶対また叶わないよ。
「もう別れたの?」ってあの人が聞く。
「言わない。ずるいもん、あたしだけひとりになって。」
これじゃあ、言ったもおんなじじゃん。
「そっか。じゃあ言わなくていいよ。」
「そっか」っての、嬉しそうだった。
「嬉しいの?」
「前にも言ったけど、きみの気持ち考えたら複雑。」
一緒に暮らしてなくてもほんとにひとりになったら、安心して会いに行ける、ってこの前言ってた。

ずるいな。ずるい。「ずるい」って言葉、間違ってるかな。でもやっぱりずるい。

それにさ、そんなこと言ってたって、どうせまた来られないんだから。

意地悪したくなった。
誰かデートに誘ってくれないかな。



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もっともっと思い出して - 2002年02月17日(日)

くたびれた。
最近週末の仕事、忙し過ぎ。明日はやっと祝日でお休み。
もう今日は寝て、明日早起きして勉強しようかな。
それとも眠いの我慢して、ちょっと今から頑張ろうかな。

あの人の電話、留守電になってた。メッセージ入れた。
「頑張ってね。体に気をつけて、頑張るんだよー。あたしにも頑張ってって言ってぇ。ね?」。
明日お休みって知らないから、あの人の夜になっても電話は来ないだろうな。
ライブ終わったらきみのことうんと応援してあげるよって言ったくせにさ。

次のライブが決まって、また忙しいみたい。
曲もいっぱい作んなきゃいけないって言ってた。
どんどん仕事が増えてくね。
頑張れ。頑張れ。

でも、わたしのこと、忘れないでね。
わたしの顔、思い出して。
ほら、すっごい素敵なフレーズ浮かんできたでしょ?
どの顔がいいかな。
ベッドに座って、少しだけからだをずらして、
あなたの背中に重なるようにちょっとだけ距離を作って寄り添って、
あなたが振り向いた隙に「キスして」って言ったときの顔がいいな。
くちびるが殆どくっつきそうで、あなたはそのまま優しいキスをくれた。
それから突然座り直して、「かわいー」ってわたしの耳掴んで笑った。
あのときの顔がいいな。

違うじゃん。わたしが思い出してるんじゃん。
あのセクシーなくちびる。くっついた瞬間。素敵な笑顔。

このあいだ言ってたね。
「きみのおっぱい覚えてるよ」なんて。
「ちっちゃいおっぱい」ってそれからこそっと言った。
「何て言ったの?」
「なんでもない、なんでもない。」
「何て言ったのってばー?」
「なんでもないってばー」。
子どもみたいな話し方、真似されちゃった。

思い出して。
もっともっと思い出して。
ほらね、ほらね、どんどん素敵なメロディーが生まれてくるでしょ?
ちょっとエロティックな曲がいいな。
それで、その曲演奏するたびに、あなたはエッチな気分になるの。
わたしのこといっぱい思い出しながら。

それがいいな。それがいいよ。


そうだ。
嬉しいメール、もらったんだ。
ありがとうね。
貴女のことよ。
読んでくれてるかな、これ。

わたしよりきっとうーんと年下なのに、
わたしったらお姉さんから優しい手紙もらったみたいに
嬉しくて甘えたい気分になっちゃった。

応援してもらってるって、嬉しいね。



着替えて、コーヒー沸かして、
やっぱりちょっと勉強しよ。

わたしもちゃんと覚えてるんだよ。
だけど今は思い出さない。
思い出したら勉強なんか出来ないからね。

あなたは思い出して。
いっぱい思い出して。
ずっと覚えてて。




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最低 - 2002年02月15日(金)

バレンタインズ・デーは、薔薇の花一輪もらうこともなく終わっちゃった。
って、当然なんだけど。

ドリーンは、帰ったら旦那さんが抱えきれないくらいのお花で迎えてくれて、パパと友だちと学校の先生からキャンディーやチョコレートをたくさんもらった娘のメグは、嬉しくて家の中を走り回ってたらしい。

いいなあ。
抱えきれないくらいの赤い薔薇も羨ましいけど、家族がいて羨ましいなあ、なんてまた思った。

朝、病院の駐車場のおじさんが「おはよう。昨日はいいバレンタインズ・デーだった?」なんて言う。「いいわけないじゃん。あたし、バレンタインいないもん」って、ふくれっ面でべーしてやった。おじさん笑ってたけど、わたし本気で頭に来た。


あの人はやっと少しずつ元気になって、今日は電話したら「今会社に着いたとこ」って言った。ちゃんと仕事に行けるようになったんだ。おじいさんみたいな声も殆ど治ってた。この間、あんまり心配で「お願いだからちゃんと治して。もう心配かけないで。ちゃんと早く治して。お願いだから」ってわあわあ泣いちゃったら、あの人はびっくりして、しばらく黙ったあとで「わかった」って真面目な声で言った。それ以来、「今日はいっぱい寝たからちょっと楽になったよ」とか「ほら、声もマシになっただろ?」とか、「明日はどうしても仕事に行かなきゃいけないけど、もう大丈夫だから心配しないで」とか、いちいち報告してくれる。

だけど、あの人には恋人がいるんだ。わたしがどんなに心配したところで。あの人がどんなにわたしの心配を心配してくれたところで。

「チョコレートもらったの?」なんてバカなこと聞いちゃって、「まだ。今度会うときくれると思うけど」って答えられちゃう。「今度いつ会うの?」ってその上わざわざ聞いて、「多分来週」って言われちゃう。それから「そんなこと気にしないで」って言われる。気にしないわけないじゃん。気にしてないふりも出来ない。


カッコつけて「あなたが好きよ。これは特別な想いなの。死ぬまで気持ちは変わらない。死んでも変わらない」なんて思ったって、どんなに想いを伝え合えたって、わたしはほんとは淋しい。淋しくて悲しくて仕方ない。



試験まで2週間になっちゃった。
仕事でくたびれて、ウィークデーは勉強が出来ない。
弁護士さんに送らなきゃいけない資料も放ってある。

全然頑張ってないじゃん。


結婚約束してる彼女がいるのに、こんなに離れて暮らしてて会えないのに、ずっと好きでいたってしょうがないのに、それでも想い合ってるから大切にするんだなんて、やっぱりわたしバカなのかな。

好きじゃないこの街必死で好きになろうとして、絶対ここでもっと仕事してやるんだってこの街にしがみついてようとして、弁護士さんまで雇ってシンドイ思いして、一体それって何のため? やなら大好きな前のとこに戻ればいいじゃんね。やっぱりバカ?


なんで今日はこんなにイジケてるんだろ。
イジケてるんじゃなくて、これが素直っていうのかな。
わかんない。

現実のバレンタインズ・デー見せつけられちゃったから?
わかんない。


しょうもない女。しょうがない女。





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あの人がくれたバレンタイン - 2002年02月13日(水)

ライブが終わってとうとうぶっ倒れてしまったあの人は、声も出なくて話も出来なかった。
「7回キスして」って言うからそうしたら、あの人は同じだけ返してくれて、
「これで14回。今日はバレンタインだよ」って、おじいさんになったみたいな声で言った。
それから、
「プレゼントまだ送れてないけど、元気になったら送るから」って。


今日だけ
うんと離れていることに感謝。
違う国に住んでることに感謝。

海を隔てても日にちを越えても
想いを届けられることに感謝。

バレンタインズ・デーに感謝。




多分
この世の中には
確かなものなんかなんにもないけど

わたしがあなたを想う気持ちは
変わることなく続くから

あなたはそのことだけは
いつでも確信していていいんだよ。

届けられない日が来ても。

ほんとだよ。




Happy Valentineユs Day




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窓が開かない - 2002年02月11日(月)

窓が開かなくなった。
前から、雨が降ったあとに時々開かなくなったけど、
今日はどんなに引いても引いても、開かない。

窓が開かないとたばこが吸えないから、
鍵を持って出て、アパートの裏口の階段のところまで行って吸う。
そのうち鍵持って出るの忘れて
寒空の下に閉め出されるかもしれない。

そうまでして、わざわざたばこを吸うのは
また悪い虫がわたしの体のどこかに忍び込んでしまって、
どこだかはっきりわかんないけど、胸の辺りがぞろぞろするから。

今日、膀胱に虫が寄生してる患者さんの話を聞いた。
わたしの患者さんじゃないんだけど。
虫だよ、菌じゃなくて。
そんな疾患初めて聞いた。わたしの勉強不足?

わたしの体にも虫は棲みついてるのかもしれない。
あのときから。
きっと蛾だ。
いまだに生きてて、時々バタバタバタバタ暴れては
羽根についた茶色い粉・・・なんて言うんだっけ、
それを胸の辺りに振りまいてくれる。

バレンタインのバカだ。
眠ってた蛾を起こしちゃったのは。

違う違う。弁護士さんに出さなきゃいけないあっちの病院の情報探そうと思って、
サイトに行ったのがいけなかったんだ。

トップのページに載ってる、病院近辺の航空写真。
あのアパートは写ってなかったけど、
病院のどのビルの横の、どの通りを入ったらアパートがあるのかなんか、すぐわかった。

それだけで泣けてきた。

それからバレンタインに繋がった。
一緒に過ごせると思ってた。
赤い薔薇抱えて、わたしじゃなくて誰に会いに行くの?


ねえ、神さまはわたしにくれなかったのかな。
「忘れる能力」ってプレゼント。
違うな。
勉強したことは忘れるもん。
わたしが使い方間違ってるのか。その能力。


バレンタインズ・デーなんかが近づくから、
あの人まで遠のいちゃった。

チョコレートもらうの?
それからほかに何もらうの?
それからそのあとセックスするの?

忘れる能力、あの人の彼女のことに使いたい。
でもそんなこと出来ない。
彼女のことだけ忘れるなんて、
いくら神さまだってさせてくれない。


窓、早く開いて。
蛾がバタバタ落としてく粉を、窓の下に払いたいよ。
それから、蛾。早く寝静まって。
いいの。ずっとそこにいても。
いてくれたほうがいいの。
ずっと飼っててあげる。わたしの体の中で。
いつか綺麗な蝶々になってくれるんでしょう?


あの人のことは、
思い出になんかしたくない。





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少しだけ胸騒ぎ - 2002年02月10日(日)

別の世界で生きてるんだって。
この世でやらなくちゃいけないことを全部まっとうしたから、
今は別の世界で幸せに生きてるんだって。
もう痛みもないし、どこも悪くなくて、
元気になって次にしなくちゃいけないことを
そこの世界で始めようとしてるんだって。
あたしのことを待っててくれてるんだって。
だからあたしはここでおんなじように、
やらなくちゃいけないことをちゃんと済ませなきゃいけないんだ。

何回も何回も手術をして、
先生はアメリカで経験を積んだ先生で、
ほかのお医者さんが出来ないって言った難しい手術をすすんでしてくれた。
「長生きしてもらおうと頑張ったけど、結局苦しめてしまったようで、申し訳ない」って
謝ってくれたけど、
あたしは感謝してる。
あんな体で精一杯生きてくれた。
先生が最後の最後まで、生かせてくれた。
満足して死んでいけるようにしてくれた。

楽しかったんだよ。
先生のおかげで最後の手術のあとは元気だったんだ。
だからいろんなとこへ一緒に行けたんだよ。
死ぬときも一緒だった。
最後まで一緒だった。
道で倒れてから5分もなかったんだよ。
でも少しも苦しまずに、あたしの腕の中で逝った。
優しい顔してた。

あたし大丈夫だからね。
頑張って、また会える日まで生きるからね。
いなくなっちゃったことは悲しいよ。
だけど、別の世界で幸せに生きてくれてるから、待ってくれてるから、
悲しいことじゃないんだ。
幸せなんだって。
もうひとつの世界で幸せに生きてるんだって。



何年ぶりに話したんだろう。
わけがあって音信不通のままだった妹が、電話をくれた。
何年も経って久しぶりに聞いた声が、自分の夫の死を知らせる電話だなんて。
泣きながら話す声は、それでもこころから自分の夫の「別の世界」での新しい「生」を信じていた。

妹にとっての「別の世界」が、わたしのあの娘がいるところと同じなのかどうかわからないけど、
そう、死んだ人はみんな幸せになれる。
妹もおなじように思ってる。


治らない病気を、少しでも助けるために治療することは、意味のないことじゃないのかもしれないと思えた。
少なくとも、「医学なんて」「病院なんて」って、哀しかった気持ちが少し薄らいだ。
たとえ限界があったって、限界まで尽くすことに意味がなくなんてないのかもしれない。


淋しいね。こころが千切れるみたいに淋しいよね。愛する人が突然消えていなくなるのは。
だけど、悲しいことじゃないんだよね。
愛して愛して、最後まで幸せに生きてくれるように、大切に大切にして、
だから死が不幸だなんて、思わないでいられるんだよね。

たとえ治らない病気だってわかってても、
ううん、治らない病気だってわかってるからこそ、
最後の最後まで手を尽くすのが医療なのかもしれないね。
「もういいよ、もう大丈夫、ありがとう」って、患者さんのこころの声が聞こえるまで。

病院で仕事するのがいやだなんて、もう思わないよ、思わないようにするよ、わたし。
わたしに出来ることなんかちっぽけだけどさ。


でも、なんとなく気になるよ。
ほんとにひとりで、頑張って生きてってくれるかなって。
気のせい?




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バースデーをお祝いするまで - 2002年02月08日(金)

新しい弁護士さんはとても優秀な人で、良心的で、前の弁護士さんにちょっと難しいと言われて弱気になってたわたしをすっかり安心させてくれた。自分でやらなきゃいけないことがたくさんあるけど、「そのほうがあなたが負担する費用が減るからいいでしょ」って、そういうやり方だ。ぎりぎりの生活してるわたしにはすごく有り難い。節約のためなら労力も惜しまないし、自分も積極的に関われるなら、弁護士料を支払うことにも意味がある。全部任せてしまうより返って信頼出来る。こっちから聞かなくても、毎日のように経過をメールで知らせてくれるのも嬉しい。

試験の勉強と重なって、めちゃくちゃ大変だけど、たまにはこんなに頑張るのもいいよねって思う。

バレンタインのプレゼントが遅れそうだけど、っていうか、もう完ぺき遅れてるけど、あの人にあげるビデオも制作中。って、音楽の番組録画してるだけだけど。

シャキーラのエロティックなクリップ絶対喜ぶゾ、とか、予想してなかった usher のクリップが流れてヤッターって自分が喜んだりとか、chemical brothers で思わず踊っちゃったりとか、カイーラ・ミノーグみたいなお姉さんっぽいのもいいって思ってー、Canユt get you out of my head ってあなたのことよ、とか。一番力入れてたりして、ちょっとダメ?


名前を知らないナースが、ゴールドのチェーンを自慢げに見せてくれる。「バレンタインのプレゼントよ」「ええー? もうもらっちゃったの? いいなあ」。隣りに座ってたフランチェスカに「あたしなんか、バレンタインもいないもんね」って言ったら、「あたしだっていないよ。それがなんなのよ。バレンタインズ・デーは女友だちと出かけるんだから。ねえ、一緒においでよ。ほら、このあいだ教えてあげたビレッジのレストラン。行こうよ、おいでよ」。

ちょっと飛びつきそうになったけど、やっぱりパス。
勉強しよう。今ちゃんと頑張んなきゃ。絶対受からなきゃ。


あの人は、今日がピーク。
このライブが終わったら、今度はわたしのことうんと応援してくれるって言った。
わたしが試験にパスしたら、一緒にバースデーのお祝いだね。

誕生日が近いっていうのは、とても感じ方が似てるんだって。
おなじ季節の中で生まれて、おなじような光や風や気温を感じながら、生まれたての時期をおなじ季節の移り変わりと一緒に成長していくから。 

あの人とわたしのことなら、そう信じられる。


わたし、頑張るから、ちゃんと頑張るから、ものすごく頑張るから、
一緒にバースデーをお祝いするまで、どうかどうか悲しいことは何も起こらないでいてね。












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あの日の my valentine - 2002年02月07日(木)

え? 女の子が男にチョコレートあげてコクハクする日じゃないの?

違うよ。恋人たちがふたりの愛をお祝いする日だよ。夕方になるとスーツ着て花束抱えた男の人がたくさん歩くの。ちゃんと正装してまじめに気持ちを伝えるために。素敵でしょ? 日が近くなると 相手を予約したり、ステディじゃない相手をステディにしたくて、「Be my valentine」って言ったりさ。その日にコクハクするってわけじゃないんだよ。そういうのもありだけど。

うそー。でもどっちかって言えば、女の子から言うんだろ?

そんなことないよー。圧倒的に男が女の子に言う言葉だよ。でも関係ないんだって。男からとか女からとか。プレゼントとかカードもお互いに交換するし。そう言えばさ、日が近づくと、エッチな下着やさんがカップルでいっぱいになるんだ。それで、ねえ誰と過ごすの? とか もう誘われた? とか、みんな人のこと気にしたりして。あとさ、大好きな友だちとか家族にもカード贈ったりする。日本のクリスマスみたいかも。

じゃあさ、ホワイトデーはないの?

ないよ、そんなの。

知らなかった。すごいショック。めちゃめちゃカルチャーショック〜。


バレンタインズ・デーが近づいた去年の今頃。
「チョコレートちょうだい」って言うから、「あたしも欲しいー。こっちじゃ女の子がチョコレートあげる日じゃないんだよ」って言って、そんな話したら、なんでそんなに驚くのかなあってくらい、あの人はしきりに「カルチャーショック」を繰り返してた。


バレンタインズ・デーの夜、いつものように電話で話してて、いつものようにふざけながら意地悪言うから、「もうキライー」っていつもみたいに拗ねたら、あの人が言った。

「僕は好きだよ」。

黙ってたら、笑いながら
「びっくりした? 言っちゃったよ」。


そう、初めてあの人が「好きだよ」って言ってくれた日。
「大事だよ。大切な存在なんだよ」っていつも言ってくれてたけど、「好き」なんて言ってくれたことなくて、でもそんなの別に当たり前だと思ってた。ほんとにそう思ってた。言っちゃいけないって決めてるんだろうなって思ってた。

びっくりするより、なんだかよくわかんなかった。
ジョーク聞いてて、最後のオチのとこ聞き逃して、みんな笑ってるのにひとりだけ笑えないでいるマヌケな人みたいになってた。


ロマンティックが出来ないあの人に、似合いすぎる普通っぽさだった。

だけど、最高にロマンティックなシナリオだった。

電話を切ってずいぶん経ってから、綿菓子みたいな優しい甘さがじわじわ溶けて広がった。
あの日のあの人は my valentine だった。


覚えてるかなあと思って、「もうすぐバレンタインだね」って言ってみたら、
「チョコレートちょうだいー」。
・・・。
「そのかわりさ、3月14日は期待しててよ。いろいろ考えてるからさ。」



全然だめじゃん。
あれは、バレンタインのためのシナリオなんかじゃなくて、ただの偶然だった?







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死 - 2002年02月05日(火)

亡くなった患者さんたち、たくさん見て来たけど、
今日ほど、こんなにどうしようもない感情に襲われたことはなかった。

まだ36歳の男性。
気が違ったように泣き叫ぶ奥さん。

体中から絞り出したような声が、いつまでもいつまでも、フロア中に響き続ける。
なりふり構わず、差し出すナースたちの手を振り払って、
顔を覆いもせず、ただ前を向いて、遠いどこかを見つめて、
声をあげる。あげ続ける。

生まれ育った国に小さな子どもたち二人を待たせて、
新しい生活の基盤を築くために、夫婦でここにやって来てたらしい。
子どもたちをやっと呼び寄せることになって、
迎えに行く飛行機のチケットをもう買ってたっていう。

だけどそんな背景のせいだけじゃない。

今日という日がかの女にとって、一体どういう日なんだろうかって、
今流れている時は、かの女の一体何なんだろうかって、

響き渡る声を聞きながら、ただこころが震えた。

医学なんか限界がある。
それならなんで、治らない病気の患者さんは生かされる苦しみと闘わなきゃいけないんだろう。
病院で仕事したくないって思った。ものすごく思った。


大切な大切な人が死んで行く瞬間を見てた自分が重なった。
赤ちゃんのときだってこんなに泣かなかったかもしれないってくらい泣いた。
かの女とおなじように、大声をあげて狂ったように泣き続けてた。



今朝仕事に向かう車の中で、突然あの娘を抱きしめたくなったばかりだった。
あたたかい体温。柔らかい髪。わたしの胸をぎゅっと掴む小さな手。わたしの手のひらに重みを与えるまるいお尻。わたしの肩にきちんと収まるようにもたれかかる頭。息。心地いい息。苦しそうな息。何もかも、わたしのからだは今だに覚えてる。
会いたくて、会いたくて、胸がきりきりしてた。
運転するわたしのひざに、あの娘が乗っかってたのかもしれない。
それに何かの理由があったのか、今でもわからないけれど。



午前中は仕事にならなくて、
こんなんじゃ医療のプロとは言えないっていうなら、もう医療のプロじゃなくてもいいよ、って気分だった。
それでも患者さんが待ってるから、午後には頑張ってた。
頑張ろうとしてたんじゃなくて、いつもみたいに頑張ってた。
なんか、そんな自分が哀しかった。


うちに帰って鏡を覗くと、目の下にくっきりクマが出来てた。
生理が始まって、不快なだるさと眠気に襲われて、うとうとしてたら電話が鳴った。

母からだった。


もう何年も連絡を絶ってるわたしの妹の夫が、ゆうべ道で倒れてそのまま死んだって知らされた。
大切な大切な人が突然死んで行くその瞬間を、妹もまた、腕に抱きかかえながら見てた。


わたしはお葬式になんか帰らない。




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一緒に頑張ろうね - 2002年02月03日(日)

近所のスターバックスにコーヒー豆を買いに行ったら、久しぶりにチキンのパニーニが食べたくなった。映画館の向こうのイタリアン・レストラン。ドアになにか貼ってあると思ったら、「プライベート・パーティのため、本日クローズド」。ガラス越しに、シェフがピザのドウを回してる。焼き上がったイタリアンブレッドが山積みになってる。パニーニひとつくらい、わたしのために作ってくれないかなあ。シェフと目が合ったけど、にこりともしてくれない。

映画館は、横目で見ながら、意志を強く保ってパス。
Oceanユs Eleven と The Lord of the Rings が観たい。ずっと観たいって思ってたのに、Oceanユs Eleven はもう終わってた。今日、ちゃんと予定通りのとこまで勉強したら、夜中にご褒美に The Lord of the Rings 観に行こうかな。って今は思ってるけど、The Lord of the Rings は脳みそがくたびれた状態では観られそうにないや。あ〜、Oceanユs Eleven 観たかったなあ。

パニーニはあきらめて、「アメリカン・カフェ」でハンバーガーをテイクアウトすることにした。日曜日のお昼前。ブランチのお客さんでいっぱい。ここ、連れて来てあげたいんだ。ちっちゃくておしゃれで居心地いいレストラン。ハンバーガーがおいしいんだよ。フレンチフライも細くてかりかりしてて。目の前で、「おいしいー」って口いっぱいにほおばったあの人が顔ほころばせてる。それを目を細めて見ているわたし。また空想する。スイスチーズ乗っけてもらうように注文したのに、うちに帰ったらチェダーだった。


自分の専門以外の勉強が、なかなか進まない。
医療の法律とか条令とか理論とか、マネージメントとかシステムとか、めんどくさくってわけわかんない。って思ってたら、自分の専門の臨床医学にも手こずってる。毎日仕事してるのに、なんで? 肝臓疾患が今だに苦手。ずっと苦手だよ。得意なはずの臨床栄養学も、生化学の細かい部分忘れてる。こんなんで仕事してるんだ、わたしったら。ってちょっとびっくりしたりして。ちゃんと資格取ったのに、なんで国家試験また受けなきゃいけないんだろ、って思ってたけど、納得 したよ。

インターンの卒業試験って、どうやって勉強してたんだろ。
毎日病院に仕事に行って、帰って来てから山のようにたまったプロジェクト片づけながら、ちゃんと勉強もしてた。あれはホントに自分だったんだろうかって思うよ。


まだ寒いけど、いいお天気。こんな日はいつもあの街に思いを馳せる。
とっくにプラムの花が咲き乱れてるだろうな。ピーチブロッサムも始まってるかもしれない。住宅街の、通りのうんと向こうまで一直線に続く、びっしりピンクに染まるプラム並木。プラムが終わりかけたらピーチが始まって、ピーチが終わる頃に桜が始まる。何回春が来ても、飽きることなんかなかった。

ここってほんとにお花が咲かないとこなんだ。
まあいいか。あの街みたいだったら、ウキウキしちゃって勉強なんかますます出来ない。


頑張んなきゃ。
「毎日日記つけるみたいに勉強すればいいんだよ」って、言われた。
日記なら書いてるんだけどね。違うか。

あの人は頑張ってるんだろうな、ライブの準備。毎日徹夜だって。夜また電話してって言ってた。電話の時間まで、ブレイクなしで勉強してみよ。「一緒に頑張ろ?」って、前みたいに言って。ほんとに頑張るから、わたし。試験嫌いだけど、やっぱりこの仕事好きだから。好きだけじゃだめだものね。

あの人のことは、好きだけでいいけどね。
好きだけでいいんだよ。だってそれしかないじゃん、わたしには。
そのかわり、こっ・・・んなに好きなんだから。

この想い、エネルギー源に送ってあげる。
だからわたしにもちょうだい。パニーニよりもハンバーガーよりも、何よりも一番のエネルギー源。あなたと一緒に頑張りたい。


休憩おしまい。
勉強に戻ろ。


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内緒話 - 2002年02月02日(土)

「今朝、ごめんね。
 大丈夫?
 うん、今練習中。
 トイレ行くって言って、抜けて来た。

 明日の夜、電話していい?
 うん、こっちの夜。
 きみの朝だよ。
 それだけ言おうと思って。
 じゃあ、練習頑張ってくるよ。
 明日ね。」


内緒話する囁き声。
それから内緒のキス。

ほんとに、いつだって謝るんだから。
あなたは少しも悪くないのに。
ちょっとは悪いかな。
だってわたしを淋しくさせた。

ずっと気にしてくれてたの?

優しいね。
ありがとう。
優しいな。


起きてミルクのお風呂に入った。

お肌すべすべになあれ。
ミルクみたいに白くなあれ。

会える。会える。
きっと会える。
きっと会えるから。


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僕はきみのヒーローになれる - 2002年02月01日(金)

大事なライブが終わるまで、
電話しなくていいよ。

ごめんね。あんなこと言って。

ちゃんと応援してるよ。
上手く行くようにお祈りしてるよ。

わかってくれてるよね?
またちょっと拗ねただけだって。

すごいテンスなときなのに、
そんな余裕ないか。
怒ってるかなあ・・・。
怒ってる?

リハーサル頑張って、って
ほんとは言いたかったんだよ。


今日ね、患者さん診てるとき、隣りの患者さんのラジオからさ、
「Hero」が流れてきたの。
思わず「あー、あたしこの歌大好きなの。すっごく切なくて甘くて。ね、素敵だと思わない?」
なんて言っちゃって、
患者さん診るの忘れて聴き入ってた。

今年のグラミー賞には期間が間に合わなかったけどさ、
絶対来年はノミネートされると思うよ、この曲。
あなたの曲と一緒に。なんてね。

英語バージョンしか意味わかんないけど、スペイン語バージョンのほうがやっぱりじ〜んと伝わるものがある。

国家試験パスしたらさ、今度はスペイン語勉強したいなあ。
ここ生まれのアーティストはスパニッシュ系が多いんだよ。
仕事でも話せたほうがいいんだ。
ほーんのちょびっとだけ覚えたけどね。

患者さん、笑って一緒に聴いてくれてたよ。
ひどいね、わたし。
たまにはプロフェッショナルじゃないかもね。
「たまには」だよ。

「Hero」歌うエンリケ・イグレシアスの声ってさ、
ドクターの声に似てるんだ。
あのヒィって声絞り出すとこは違うけど。
ほかの曲は思わないのにな。
初めて聴いたのはドクターとデートしてた頃で、
その頃は似てるなんて思わなかったから
ほんとは似てないのかもしれないけど。

一回似てるなあって思い始めてから、
どんどん思い込むようになったのかもしれない。

だからよけいに好きなのかなあ、この歌。
なんて、これはあなたに内緒だけどね。


FM のいつものステーションで毎日流れ始めた頃はね、
聴くたびに、あなたはわたしの hero になれないって思ってた。

でも今は思うんだ。
やっぱり hero だよ。
いいんだ、勝手にひとりで思ってるだけで。
だってほんとはわたしの hero じゃないんだから。

何言ってんだろうね。わかんないね。わかってるけど。


ごめんね。電話切っちゃって。
かけ直して来られないってわかってて、
あなたの一番嫌いなことやっちゃった。





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