CGI 雑念エンタアテインメント



雑念エンタアテインメント
モクジ 雑念

+オメデトウゴザイマス

江戸川紅子、20代、飲食店勤務

こーやって、自分の名前を改めて漢字にすると、凄いわ。
どうして親は、こんな名前をくれたのかしら。
名前の半分、濁点だし。
凄い名前だわ、エドガワベニコ。


 なんで出勤前に、こんなこと考えてるんだろ


玄関のドアノブを握ったまま、我に返った。
「まぁ、名前のことは、今更どうしようもないし。
 この名前で損したことは、パッと思いつくほど無いし・・・。」
独白しながら歩き、エレベーターで1階へ向かった。

外へ出る前に、必ず郵便受けをチェックする。
ほとんどが、ピンクチラシ。
面白半分で中学の頃、電話したのを思い出す。
コスメブランドからのDM、美容院のDM、服屋のDM。
アタシ宛の郵便物は、大半がこんな感じ。

 「あ。」

年に4回、忘れた頃にやってくるFCからのハガキ。
ハガキの裏を返そうとすると、背中から声が聞こえた。
「おはよっ。」
「おう、カブちゃん、おはよー。」
カブちゃんも自分の郵便受けを開け、いつもの一言。
「ピンクチラシばっかり・・・。」
そう言って、不要なモノをクシャクシャとゴミ箱に投げた。
「紅子は、なんか来てたのか。」
手にしてるハガキを、カブちゃんが覗き込む。
「うん、FCから。」
「紅子は、テッコが大好きだもんねー。(笑)」
「や、そうでもないってば。」
「アンタ・・・あんまり真剣な顔で言うとテッコが、寂しがるよ。」
「こんなに恋い焦がれてるんだから、アタシの方が寂しい!(笑)」
「そんなだから男が出来ないのよ、紅子さん。(笑)」
「カブちゃん、ムカツクー。(笑)」
そりゃさ、カブちゃんには2年半続いてる彼氏が居るからさ、余裕なんだろうけどさっ。
こんな幼気なアタシを置いて、サクサク歩くこと無いじゃない!(笑)

駅までの道。
時間は、午前11時過ぎ。
人通りも多くなって来る頃だ。
「で?テッコから、なんだって?」
カブちゃんに言われなきゃ、ずーっと握ってるトコだった、このハガキ。
掌で丸まったハガキを、両手で開いた。
「お。」
そうだった。


そんな企画、すーっかり忘れてた。
しかも、当選してるし。
“テッコと話せる企画”に応募したんだった、アタシ。


立ち止まるアタシの場所からは、カブちゃんの背中が小さく見えた。


+ 一言雑念 +
下書きと180度変わってしまった、第1話。(笑)
主人公の名前も隣人の名前も違いすぎる!!!
若干、この先の不安を隠せません。(笑)
ま、いっか。 ←B型気質
毎回、思ったことを此処に記そうと思います。
日記形式の頁を借りようと思ったけど、面倒だしさ。 ←面倒クサガリータ(笑)


2+オーナーです

 おめでとうございます!


店での休憩中、その文字を見ながら遅い昼食を取った。
2週間後、アタシはテッコに会える。

 何を話そう 何を聞こう 何を着よう

って・・・初めてのデートじゃないんだから。
あー
でも、デートみたいなもんか。(笑)

「なんか・・・おなか、いっぱいだわ。」
考えただけで、お腹が膨れる。
箸を置いて、テーブルに肘を立て、頬を付いた。
「美味しそうですねぇ、それ。」
「・・・ビックリしたぁ。」
「ゴメン、ゴメン。ねぇ、1コ頂戴?」
この店のオーナーの浦原さんが、背後から手を伸ばしてきた。

飲食店(この店)を経営する浦原さんは、自称20歳。
都会の中でも隠れ家的な位置にあるこの店を、とても愛している。
若い頃は、モデルもやっていたらしく、女に困らなかった・・・らしーです。
この人、頻繁に嘘を付くので何処までが本当なのか信じられない。
だって、その笑い皺。
20歳には見えませんぜ、オーナー。
見るからに、アタシよりは年上でしょう。
まぁ、背も高いしモデル経験ありそうな風貌だけど・・・“若い頃”って。
“自称20歳”の若い頃って、一体いつですか。
笑い皺、(無駄に)豊富な知識・・・30代半ば、ってとこですか?

大きな掌から真っ直ぐに伸びる指で、ミートボールを1つ頬張った。
「何か当選したんですか?」
彼は、指先に付いたミートボールのタレをペロッと舐め上げ、
机の上で寂しそうに放置されたハガキを手に取った。
「うん、当選しました。」
「嬉しそうじゃないですね。(笑)」
「んー、嬉しいけど複雑。緊張してんの。(苦笑)」
「どうして?」
目の位置より、少し伸びた前髪の隙間から此方を見る。
「テッコですよ、テッコ。緊張しますよ、そりゃー。」
「その調子で言ってやりゃいーじゃないですか。よぉ!テッコ!とかって。(笑)」
いやいや・・・此処で言えても、本番は無理でしょう。(笑)
浦原さんは、人ごとのように“こんなん、どうですか?”と
テッコに対する挨拶法を続けていた。
アタシ以外の人にとっては、人ごとなんだけどさ、実際。
「ま、宜しくお伝え下さい。」
「・・・知り合いですか?」
「いーえ、全く存じ上げません。(笑)
 さてと・・・お先に失礼しますよ。」
浦原さんは、フアーッと背伸びをし、両手を天井に伸ばした。
アタシは、その姿を下から見上げる。
クセのある明るい髪が、ライトに染まった。
「ごちそうさまでした、肉だんご。」
「あ、どういたしまして。」
ギャルソン姿の浦原さんは、長いエプロンをヒラヒラさせて仕事に戻っていった。


この煙草を吸ったら、アタシも仕事に戻ろう。
口にくわえた煙草に火を付けて、溜息のような煙を吐いた。


+一言雑念+
ああ、フロに入りたい。
またもや下書きと全然違う内容になってしまいました。
浦原って・・・・喜助じゃん!みたいな。(笑)
(「BLEACH」知ってる人しか分からないね)
だってさ、下書きには“和哉くん”って書いてあったんだもん!
そんなの今は、ムリムリ!(笑)
ムリしてもいーんだけど、此処は抑えてみました。
でも、モデルは“和哉くん”でオネガイシマス。(笑)
とりあえず、オーナーの浦原さんは、オーナーらしくないトコがステキなんです。


3+穏やかな1日++H

今日も晴れ。

無愛想な顔と比例して、太陽はこれでもかと微笑む。
この時間には不似合いなサングラスで目を隠した。

其れは時々、人と目を合わせるのが面倒になる為。
今の気持ちを表現せず、目は口ほどに物を言わずに済む為。

事務所に着くと、何よりも先にパソコンの電源を入れる。
机の上にノートパソコンを置く。
そして、パソコンの右横には煙草と灰皿を。
左横には、携帯を。

「ひさっさん・・・今朝も電波受信ですか。」

「ウルサイ」

タクロウは、朝からウルサイ。
寂しがり屋だけに構って欲しいらしいが、オレはお断りだ。
オマエの相手をしてるほど、暇じゃないんでね。

「ヒサシはさ、電波受信しなきゃ1日が始まらないんだよ。(笑)」

“ね?(笑)”と笑いかけるジロウを横目に、煙草に火を付けた。
ゆ〜っくりと吐き出した煙を、タクロウに吹きかける。
すると、だんだんとタクロウの顔に皺が寄っていくのが見えた。

之ハ面白イ・・・

2度目を吹きかけようとした時、漸くタクロウは、此方に顔を向けた。
煙が目に沁みているのだろう。
その顔は、片目を閉じて涙目になっていた。

「ひさっさん・・・オレの視界を妨害しないでくれますか。」

「だって、面白いんだもん。(ニコリ)」

とびきりの笑顔と共に、3度目の煙を御見舞い。
おっ、防御か?
手にしていた雑誌を盾にしやがった。
コノヤロッ・・・あ。

「ハイハイハイ!ヒサシもタクロウくんをオモチャにしなーい!」

持っていた缶飲料を勢い良くテーブルに返した、ジロウ。
其れは、“裏番、怒りの鉄拳”の表れでもあった。
かわいー顔して、怖いからなー、ジロウは。

オレはパソコンに顔を向け、改めて体勢を整えた。

「そういえば、企画の相手、決まったの?」
タクロウが、煙草をくわえたテッコに尋ねた。
「うん。この3人に決定、ってとこかな。」
ニコニコしながら、テッコはハガキを差し出した。
「この子・・・なんで選んだの?(笑)」
ジロウが指したハガキには、シンプルに“当てて下さい”とだけ書かれていた。
「意表を突いちゃおうかと思って。(笑)
 まさか、自分が当たると思ってないと思うのね、この子。(笑)」
あら・・・テッコらしい考えだこと。
よほど嬉しいのか、指先の煙草でリズムを刻んでいた。


さぁて・・・ネジ巻いて働くとしますか。


+一言雑念+
メンバー登場第1弾は、ひさっさんで御座いました!(拍手)
アタシの中のヒサシ像は、こんな感じです。
之は、もう本当に申し訳ないのですが、フロミーの頃と変わらないかも知れません。(笑)
“タクロウには冷たく”が、モットーの電波人間。
シンプルでいて五感の働く(=受信率が良い)、其れが雑念のヒサシです。
まぁ、話が進むうちに変化すると思うけど。(笑)


4+冷たい人

飲んだくれた次の日は、頭が空っぽ。


仕事が終わって家に帰ると、マンションの玄関先で、カブちゃんに会った。
“暇だから一緒に飲もう”という誘い。
そのカブちゃんの背後には、何処かで見たことある顔が。
其れは、カブちゃんの彼、ケイスケくんだった。
何処が暇なんじゃ、というツッコミを余所に、アタシは、カブちゃん宅へ上がりこんだ。

カブちゃんもアタシもケイスケくんも、終わりを知らない。
とりあえず、酒があれば呑む、無くなれば買いに行く。
アタシとカブちゃんは、ある程度呑むと酔ってくるんだけど、ケイスケくんには、底がないらしい。
なので、買い出しは、ケイスケくんに頼んだ。
どのくらいかなー。
2往復はさせたかも知れない。
人が良いのか、カブちゃんに弱いのか。
“オレが行く!暗い夜道に女を歩かせらんねぇ!”と言って2度、出て行った。
アンタ・・・いい人だ。

そんなこんなで自分の部屋に戻ったのは、出勤2時間前。
そりゃ当然、頭も回りませんよ。
フロアに出れば、オーダーは間違えるし、ワイン零すし、皿ひっくり返す。
最後には、浦原さんに“帰りなさい”と言われるし。
結局、居ても皆に迷惑掛けるだけなので帰ってきました。
本日の労働時間、約3時間半。
今月、厳しいなぁ。
そして、さっき掛かってきた電話。

 “明日、●●ビルまでお越し下さい。詳しい内容は、先日、葉書を郵送しておりますので−”

そうかそうか―――忘れてた。
テッコとの企画って、明日だっけ。
俯せに倒れ込んだベッドから這い出して、鏡を見た。

「この顔・・・・サイアク・・・。」

一夜にして吹き出物は出来てるし、瞼は腫れてるし、若干、目の下にクマが。
今日、この顔で働いてたのも問題だけど、明日の方が大問題だ。
だって、テッコに会うんだよ?
パックやらなんやらするのがフツーでしょう。
この顔じゃ、今からパックしても間に合いそうにないよ。

「会いたくねぇー。」

ギリギリの声で吐き出すと、チャイムが鳴った。
面倒なので居留守を使ってたけど、あまりにも煩いので仕方なく玄関へ向かった。
アレ・・・・。
ドアを開けると、其処には浦原さんが。
「どうしたんですか。」
「心配だから来ちゃいました。(笑)」
「・・・・ま、入りますか?あ、でも、お茶とか出しませんから。
 なーんもしたくないんです。本当なら浦原さんを追い返したいくらいです。」
浦原さんは、“酷いなぁ(苦笑)”と言って、ソファに腰を下ろした。
手にしていた手提げの紙袋から、布に包まれたタッパーが出てきた。
「二日酔いっスか?」
「んー・・・そんな感じです。」
そっスかー、と言って開けたタッパーの中身は・・・。

「カレー、食いますか?」

このオッサン・・・サイアク。
二日酔いにカレーだなんて、聞いたこと無いよ。
心配なら、もっと気の利いたもん御願いしますよ。
ベッドに寝転がりながら、今までの様を見ていたアタシは、冷たい視線を投げた。
「あ、その視線、痛いっす。(苦笑)」
「分かって頂けましたか?(笑)お気持ちは有り難いのですが・・・。
 この状態で、食べれるわけ無いと思いません?普通は。」
「あれ、そうですか?浦原家では、風邪の時はカレーですよ。」
「や、其れは、風邪でしょう。アタシは――」
人の言葉を最後まで聞かず、浦原さんは、黙々とカレーを食べ始めた。
この人は、人様の家で勝手にカレーを食い出しちゃったよ。
今のアタシに、カレーの香りはキツイです。

目を閉じて寝っ転がってる間に、浦原さんは食べ終わったらしく、
お腹一杯になった彼は、こう言った。

「眠いので、一緒に寝ましょう。」

・・・・。
頭が働かなくて、いまいち理解出来ないけど。
之だけは、分かる。

 この人は、体温が低い。


+一言雑念+
昨日は、お休みしてスミマセン。
まぁ、今日のは、なんてこたーない話しですね。
浦原さんのオフな感じは、出てると思いますが。
皆さん、カレーは好きですか?
アタシは、最近好きになりました。
友達は「カレーは喉ごしや」と言う子が居ます。
カレーは飲み物、だそうです。(笑)
ゴクゴク飲むくらいカレーが好きらしいです。
アタシも、ソコを目指します。(笑)
あ、関係ない話しをしてしまった。


5+ワガママ++TE

煙草を1本取り出して、テーブルに置いた。
其れを人差し指でコロコロと転がす。
何度か転がすうちに、先端から細かい葉がポロポロと零れた。
真っ白なテーブルに茶色の葉っぱは、小さくとも浮いて見えた。

「TERUさん・・・そろそろ始めちゃいましょうか。」

事務所の待合室に来たスタッフが、こう言った。
聞かなくても、その表情で分かるけど、一応聞いてみよう。
「来たの?」
「・・・いやぁ、それが・・・。」
苦笑いを浮かべて、“始めちゃいましょう”と催促する。
「何度電話しても出ないんですよね、彼女。
 留守電にも入れたんですけど・・・ま、1人少ないですけど、御願いします。」
部屋を出て、廊下を歩きながら話した。
彼は何度も“すいません、ホント”と言った。
謝るのがクセになってるんだろうな。
この業界の性かな、なんて思いながらも愛想笑いで済ませてしまった。
これも、また、性かも知れない。
「そっか、来ないのか・・・あの子。」
「え?」
「や、なんでもない。
 行きますかー!なんか、ドキドキするね。(笑)」
「(笑) じゃ、宜しく御願いします。」
彼がドアをノックして扉を開けると、部屋の中には女の子が2人、ソファに座っていた。
彼女たちは、オレを見て“ワァッ”と言い、恥ずかしそうに笑った。
「どもっ、初めまして。(笑)」
そう言って手を差し出して、軽く握手をした。
「ゴメンネ、待たせちゃって。
 なんか1人、来れなくなっちゃったみたいで・・・3人で始めましょうか。(笑)」
緊張してるのか、2人とも何処か硬い感じ。
そりゃそーだよね。

 だって、オレだもんっ!

アナタのテルちゃんですから。(笑)
オレだって、小さい頃に近所のスーパーの屋上であったヒーローショウ見に行って、
一緒に記念写真撮った時、めちゃくちゃ緊張したもんなー。
そんな感じなんだろうな。

それにしても・・・なんで、“来てないのは、あのハガキの子”って思ったんだろ。
やっぱり、やる気のないハガキだったからかな。
選ぶんじゃなかったかな、あの子。
他のハガキ選んでれば、他の子が来れたんだけどね。

其れを除けば、企画はスムーズに進んだ。

 “ファンの子と話したい”

オレのワガママ企画。
オレは、我が儘だけど約束を破るようなことはしないよ。


+一言雑念+
2番目の登場メンバーは、テッコでした!
テッコが冒頭で行ってる“タバコをコロコロ”ですが。
やってみたんんですけど、葉っぱは簡単には零れませんでした。(笑)
まぁ、そんなことは気にしないで下さい。(笑)
久しぶりにテッコを書いたのですが、ムズカシイッ!
もう、テッコの書き方、忘れちゃったよー!(笑)
そんなこんなで・・・つづく。


6+やさしさに包まれたなら

人の体温って、こんなにも暖かかったっけ?

其れを感じたのって、いつだっけ。
なんだか、とても遠い昔のように思う。
実際、遠い昔なんだけどさ・・・。

頭がスッキリした代わりに、身体が思うように動かない。
温もりというのは、こんなにも人の動きを支配するのかしら。
人の体温も然り。
あー、此処から出たくない。
この香り・・・この香り、なんだろう。

 カレー?

いやいや、冗談ですよ。
シャツの香り?
や、違うなぁ・・・洗濯物の香りとは、また違う。
香水?
ううん、香水の香りなんかじゃない。

ああ。
この人の香りだ。
体臭・・・って言ったら、臭そうに思うけど、そんなんじゃなくて。
なんか、懐かしい匂い。

日差しに包まれた此処は、暖かくて優しくて、何もかも忘れてしまいそうになる。
体温の上昇と共に、だんだんとまた瞼が重くなってきた。

「紅子さん・・・何か点滅してますよ、ホラ、アレ。」

眠りの淵に落ちる瞬間、掠れた浦原さんの声がした。
アレ、と指す方を見ると、其処には電話があって、留守電のライトがチカチカしていた。
唯の留守電です、と言って、瞼を閉じると同時に思い出した。

 ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ

勢い良く起きあがった反動で、肘鉄を食らわしてしまった。
「イ゛ッ!」
顔面を抑えた状態で、暫し苦悶の浦原さん。
嗚呼、ゴメンナサイ!
だけど、今、謝ってる時間はないです!

どうしよう! どうしよう! どうしよう!

アタシの慌てっぷりに気付いたのか、先程の肘鉄で右頬を赤くした浦原さんは
“店なら、今日は定休日ですよ?”と言い、クセのある髪に指を通して起きあがった。
「店じゃないです!店なんかどうでもいーんです!」
アタシは、慌てているにもかかわらず、1メートル以内でしか動いていなかった。
うーん・・・之は、実に慌てている証拠だ。
「店なんか、って・・・酷いっス。(苦笑)」
嗚呼、ゴメンナサイ!
其れに関しても謝ってる暇は、無いの!

どうしよう! どうしよう! どうしよう!

今、何時ですか!
今!
今、何時!?

「アハッ!5時っスよ、夕方の。(笑)寝過ぎましたね、これは。」
サイドテーブルの時計を見て、浦原さんは呆れたように笑った。
5時?
5時って・・・何時?
「アレ・・・大丈夫ですか? また、気分悪くなりました?」
ベッドサイドで仁王立ちになり、両手を頭にやったアタシを覗き込んできた。
「違います・・・・集合時間、遅れちゃった・・・。」
「約束ですか?遅刻は、ダメっスよ。
 5分前集合ですよ、浦原家は。そう教えられましたからね、幼い頃。」
“そんなだから大人になった今でも身に付いちゃってますよ(笑)”
と続ける彼を余所に、アタシはその場にへたりこんだ。
「紅子さん、カレー・・・食います?」
アタシの前にあぐらをかき、笑顔でそう言った。
「食います・・・。」

温もりは、まだ片隅に残っていた。


+一言雑念+
カレー!!!!
カレー、食べたくなりますね、読んでると。 ←自分で言うな
紅子さんと一緒で、“人の体温って?”って感じです、アタシ。
長い間、独りで寝てきたからなー。(笑)
って、笑えねえっよ! つД`)・゚・。・゚゚・*:.。
ああ・・・この涙も虹に変わるのね。
っつーか、紅子さんは相当な慌て者ですね・・・や、たぶん。


7+女です

なんでアタシは、この人と一緒にいるのか。
カレー臭い、この部屋で。
妙に、和んでしまってるし。
なんで。

それにしても、浦原さん・・・人の家でくつろぎすぎでしょう。
“我が家へようこそ!何もおかまい出来ませんが”みたいな科白が、今にも飛び出しそう。
「紅子さん、お茶を御願いします。」
「はーい・・・って、どうしてアタシが・・・。」
“何か悪いこと言いました?”って、目で訴えないで下さいよ。
「そろそろ帰ったら、どうですか?」
そう言うと、また“なんで?”と、濁りのない目で此方を見る。
そして、欠伸と同時に、ファーッと口から情けない声を出し、両腕を大きく伸ばした。

完全に、くつろいでるよ・・・この人・・・

凹んでるアタシと一緒にいてくれたのは、大変嬉しゅう御座いますが・・・
このまま居座られたら、大変迷惑で御座います。
「浦原さーん・・・帰りましょうよぉ。」
「アレ?紅子さんも一緒に帰ります?我が家に。」
漸く口を開いたと思えば・・・。
「そう言う意味じゃなくてぇ、そろそろ御帰宅なさった方が良いんじゃないかと。」
“わかってますよ(笑)”と言って、前髪をひとつまみ指に絡ませて、ねじった。
枝毛でも探しているのだろうか、目は真剣に上を向いていて、額に少し皺が寄っていた。
「そんなに帰らせたいですか?(笑)」
まだ、目は上を向いている。
「之でもアタシは、女ですから。(笑)
 というか、彼女・・・もしくは、奥さんに怒られますよ?」
散らかったテーブルの上を片付けながら言うと、浦原さんは、漸く此方を見た。
「彼女・・・奥さん・・・・久しぶりに聞きました、その言葉。(笑)
 御安心下さい、どちらも居ませんから。」
口元に大きく弧を描いて、右手でピースを作った。
「それとも、そんなに魅力的に見えますか?(笑)」
「魅力的・・・そんな言葉、思いつきませんでした。」
「アラ、酷い。(笑)」
いや、だって、本当のことだし。(苦笑)
不思議な人だなぁ、とは思うけどね。

「あっ、ひとつ言い忘れてました。」
玄関でクルリと此方に振り返って、右手人差し指をピンと立てた。
「ん?なんでしょう。」
「紅子さんは、充分“女”ですよ。」
「・・・・。」
「ホラ、さっき、“之でも女ですから”って言ったでしょう?
 大丈夫です、紅子さんは魅力的な女です。
 デートに誘いたいくらいですよー、ホントに。(笑)」

この人は、何を飄々と玄関先で言っているのかしら・・・

そんなこと目の前で直接、言われたことのないアタシには、抵抗する言葉も持ち合わせていない。
なので、この場を、どう振り切ったらよいのか分からず、唯々、突っ立ってるだけだった。
「紅子さん?聞いてます?」
「き、聞いてますよ!そ、そんなことは、どーでもいーんです!
 恥ずかしいから早く帰って下さいよー!」
「酷いなぁ、さっきから。(笑) アリガトウのひとつも無いんスか?」

あ・・・そっか

“さあ、早く言って御覧”と、怪しい笑顔が待ちかまえている。
「・・・ありがとうございました。
 肘鉄食らわして、ゴメンナサイ・・・あ、カレー、美味しかったです。」
アタシは、ペコリと小さくお辞儀をした。
「宜しい。(笑)」
我が子を褒めるかのように、大きな手がアタシの頭を撫でた。
「やれば出来るじゃないっスか。(笑) あ、カレー、冷蔵庫に入ってますから。」
「・・・アリガトゴザイマス・・・。」

一緒にエレベーターに乗り、マンションの玄関まで来ると、其処にはカブちゃんとケイスケくんが居た。
「あ、紅っ・・・・・ドーモーッ。(ニヤリ)」
ちょっとカブちゃん、誤解しないで!
ってか、すでに誤解してるんだろうけど!

浦原さんは、満面の笑み(というか、営業用っぽいけど)。
カブちゃんとケイスケくんは、口元の緩んだ笑み。
アタシは・・・何処からどう見ても、見事な作り笑顔だった。
「じゃ、紅子、また来るから。(笑)」
と言って、浦原さんは、小さく手を振った。
この期に及んで、“紅子”って・・・紛らわしいことを言うなーっ!
「また、って・・・何しに来るんですか。(呆)」
「何を言ってるんですか、寝た仲じゃないですか。(笑)」
ちょちょちょちょちょちょっと!

 「「ニヤリ」」

コラ!
其処のバカップル!!!
ニヤニヤしてんじゃないよ!

オイ!浦原っ!帰ってんじゃないぞ!!!


+一言雑念+
不思議な人です・・・浦原さん。
アタシの中の人物像は、すでに出来上がっているのですが。
(というか、もうアノ人しかないよ!/笑)
皆さんの中では、どのような浦原像が出来上がっているんでしょうか。
宜しければ、“拍手”で教えて下さい。(笑)


8+ご予約

こないだのこと。
カブちゃんは、真剣に問いつめてきたけど、アタシも真剣に否定したので、どーにか丸く収まった。
カブちゃんが、物わかりの良い人で助かった。
その反対が・・・今、カウンター前で突っ立てる浦原さん。
“誤解を招くようなこと言わないで下さい!”と真剣に怒ったつもりなんだけど。
この人には、どーも上手く交わされてしまう。
“そんなこと・・・言いました?”と言って、ヘラッと笑う。
真剣に怒ってる自分が、情けなくなる。
途端に気が抜けてしまった。


厨房に大きな声が、響く。
活気のある声。
アタシは、お皿を受け取って、テーブルへ運んだ。

いつだっけ。
浦原さんに、こんなコトを言われた。

 “いーっスか、紅子さん。料理は、愛情です。
  愛情でもあり、お店の顔でもあります。
  あなたは、お店の愛情を運ぶ大事な顔なんです。
  お客様への笑顔を忘れないで下さい。”

なんだか分かんないけど、難しいわー、って思った。
とりあえず、アタシは、顔なんでしょ?
不味そうに、ふて腐れた顔しないで笑顔で運んでね、ってことでしょ?
難しいわ、そんなの。
笑顔の多い日ばかりじゃないし、笑えない日だってある。
そんな中、お客様には笑顔を、って・・・出来ないよ、アタシは。

忙しい日の笑顔は、苦手。
顔が、追いつかない。
特に今日みたいに忙しい日は。

すごいなー、浦原さん。
カウンター前で、ボーっと突っ立てるように見えて、ちゃんと周りを見てる。
スタッフに的確な指示を出してる。
普段は、飄々として、何考えてるか分からないのに。
オーナーなんだね、本当に。


「なんか今日、お店、ヘンじゃないですか?」
「そぉですか?」
一通りの指示を出して、静かに周りに目を配る浦原さんの隣に立った。
「だって、厨房、すっごい慌ててるし、ピリピリした感じですよ。」
「そぉですか?
 あ、今日は、しくじらないで下さいね、こないだみたいに。」
人の話を、聞いてんだか聞いてないんだか・・・。
「こないだ・・・気を付けます。(苦笑)」
「笑い事じゃないですよ、今回は。紅子さん、個室担当です。」
「個室ですか。こ・・・こしつ・・・・?!」

 個室→特別室→VIP→芸能人の可能性大

頭の中に↑コレが、グルグル回ってる。
まぁ、芸能人とも限らないんだけど・・・芸能人の可能性も外せないわ。
「浦原さん、冗談やめてください。(笑)」
「冗談なんて言ってないですよ?
 今日のメンバーで、1番の古株は紅子さんだし。
 前もって連絡貰ってれば、他のスタッフに廻せたんだけど。
 なんせ、急な予約でしたからね。」
「で・・・誰ですか、芸能人?財政界?海外大物ミュージシャン?(笑)」
しょーもない芸能人だろうな、と思い、からかい口調になった。
正面を見ていた浦原さんは、此方に顔を向けて目線を下ろした。
アタシからは、少し口角が上がっているように見えた。

 「挨拶の練習、ちゃんとしてますか?(微笑)」

挨拶の練習?
挨拶の練習ぅ?
なんのこと言ってるのか、全く分からなかった。
けど、その言葉を何度も繰り返すうち、答えが明らかになった。

下を向いていた顔が、頭のてっぺんを糸で操られたかのようにピンと前を向いた。
「分かりました?」
「・・・・テル・・・ですか?」
「素晴らしい、ご名答です。(笑)」

頭のてっぺんの糸は、ピンと張りつめていた。


+一言雑念+
ようやくテルの名前が。(笑)
最初のうちは、メンバー出てこないこと多いんです、アタシの書くお話は。(笑)
いっつも、話しに関係のないこと書いて、無駄にスペース使ってしまいます。(汗)
学習能力に欠けてるんです・・・(´Д⊂
皆さんの御期待に添えず、すいません(m_m)


9+おもり担当++TA

ほんと・・・どうしてオレが、コイツの面倒を見なきゃなんないのよ。
大人げないから、そんなふて腐れないで下さい。
こっちがふて腐れたいっつーの!

「どしたの、タクロ。機嫌悪いの?」
「・・・・。」
これだよ、テッコさん。
これだもんなー。
「お聞きしますけど・・・機嫌悪いのは、オマエじゃなかったっけ?」
「オレ?あー、もういいの。美味いもん食えると思ったら直った。(笑)」
これですよ。
さっきまで、ブツクサ言ってたのにさ。
急に掌返したように直ってやがるし。
しかも、その前兆が見られない。
古い付き合いなのに、其処を見極められない自分がニクイ。

テッコの機嫌悪い理由?

知ってると思うから詳しいことは言わないけど。
なんか、3人集まる予定が1人来なかったらしくてさ。
企画らしいじゃん、コイツの考えた。
スタッフから聞いた話しによると、その最中は機嫌良かったみたいでさ。
良かったんだけど・・・やっぱり良くなかったみたいで。(笑)

“タクロウさん、テルさん機嫌悪いみたいなんで・・・御願いします”

そう言われて、王子のおもりを仰せつかったわけです。
ラグビーボールみたいに、赤ん坊をポーンと投げ渡された感じ。
デカイ赤ん坊だな、それにしても。

トノもジロウも暇なクセに、こう言う時に限ってカミさん出してきてさ。
ジロウは、“タクロウくん、ごめん。今日は、家で食べるから”って。
トノに至っては、“おもりは執事の役得だろ?”って。
あー、ハイハイ。
どうせオレは、独り身ですよ。
おまえら見てろよ!!!
こーなったら、一生独身で、一生おまえらに寄りそってやる!

「で・・・何処に連れてってくれんの?」
「その言い方やめろよ、彼女じゃないんだし。(笑)」
「アレ?違ったっけ?(笑)」
「ぜーったい違う。(笑)」
何処に行くのかオレも知らないんだよね。
スタッフお勧めの店らしくて、おれらは言われるがままに車に乗って、運んでもらうだけ。

走ること数十分。
都内某所・・・ひっそりとした場所に佇む、教会みたいな建物。
暗闇の中、ライトアップされた其れは、不思議な感じがした。
「此処?」
車から降りて、運転席に座ってるスタッフに尋ねた。
「はい。帰る頃に連絡下さい。迎えに来ますから。
 あ、迎えに来ますけど、飲み過ぎないで下さいね。(笑)」
「いやー、其れは約束出来ない。(笑)オレ、今日、おもりで疲れてるから。(笑)」
「(笑) じゃぁ、後ほど。」
「うん、ありがとね。」
軽く手を振ると、車のエンジンが鳴って、暗闇の中へ消えていった。
「至れり尽くせりじゃん。(笑)」
ポケットに手を突っ込んで、テッコは笑っている。
「そりゃーそうでしょう。
 どっかのワガママ王子のおかげで、こっちは私生活台無しだよ。(笑)」

“台無しになるほど、私生活って充実してんの?(笑)”

入り口まで続く階段を上りながら、テッコはそう言った。
テッコさん・・・胸がイタイから、そういうとこはスルーして下さい。
オレもふて腐れたいよー。

階段を上って重厚なドアを開けると、その横に店員が立っていた。
オレより少し背の高い店員は、“いらっしゃいませ”と1つお辞儀をした。
オレとテッコも軽く頭を下げる。
店内は薄暗く、所々にライトが灯されている。
間接照明のような、何処か暖かみのある灯りだった。
テッコは、“いー感じじゃん”と小さく笑った。

テッコの機嫌が良くなったのが、その笑顔から感じ取れた。



+一言雑念+
すいません、久しぶりの更新です。
皆様も風邪には、お気を付け下さい。
さて、今夜は、姫のおもりをするジイヤの話しです。(笑)
アタシの中のテルは、半分ワガママで出来てます。(ちょっとバファリンぽい)
其処が可愛くて仕方ありません。(笑)
あの笑顔でワガママを許してあげるリーダーもステキです。
アタシの中のタクロウは、ワガママを飲み込む・・・吸収体です。(笑)
ワガママを飲み込みすぎて、破裂しないか心配ですが。

P.S.リーダーには独身で居てもらいます。(笑)


10+いらっしゃいませ

どうすんの、この状況。
今すぐ逃げ出したい!って・・・・ムリか。
浦原さん、“冗談っスよ”って言って下さいよ。
「冗談でしょう?」
「誰か冗談、言いました?」
嗚呼、ごめんなさい。
そうですよね、冗談じゃないんですよね。
聞いたアタシが、馬鹿でした。

それからというもの、どうも顔が硬い。
今から硬くなって、どーすんのよ。

不覚にも、手と足が一緒に動いてしまいそうだわ。

「緊張してる?」
逆に、浦原さんに聞いてみた。
「いーえ。」
・・・と言う割には、貧乏揺すりしてるじゃん。
「紅子さんは・・・・いーです、言わなくて。
 アナタの気持ちは、痛いくらい分かりますから。(含笑)」
と、腕を組んでウンウンと頷いた。
クセのある髪が、フワッと揺れ、ライトに照らされた。

硬い表情だけど、今のアタシもフワフワ揺れてるのかも。


扉の向こうで、車の止まる音が聞こえた。
少しして、人の話し声と、車のエンジン音。
そして、コツコツと階段を上る靴音。

喉をゴクリと鳴らした

扉が開いて、外気が流れ込んできた。
同時に、風が強く吹いて、思わず目を閉じてしまった。
目を閉じたのは一瞬。
其の時から、この部屋の色が変わったのを鼻先で感じた。

其の人は、隣を歩く背の高い男性と喋っていた。
「いらっしゃいませ。」
浦原さんは、手を組んで深々とお辞儀をした。
見とれていたアタシも、一歩遅れてお辞儀をする。

大音響で心臓の音が聞こえる

「こんばんは。」
ブラウン管などを通して聞き慣れていた声が、頭上を通る。
思わず、頭を上げて声の主を目で追った。
長身の男性と笑い合う、後ろ姿。

硬い表情は、其の人の登場と共に消え去った。



+一言雑念+
お久しぶり過ぎてすいません。
此処だけの話し、すーっかり忘れてました。>更新
正月ボケ、ってことで許して下さい!
で・・・テッコさんの笑顔って言うのは、何か、こう
ほぐしてくれそうな効果があるように思うんです。
バクバク緊張していても、こわばっていても。
気付けば、口元緩んじゃうような。(笑)
そのような効果が、あるように思います。
其れだけです・・・すいません。


11+明らかに

2人を部屋に通して、軽く挨拶をした。

緊張で、ボサッとしていたアタシは、自分の名前すら満足に言えず、
何もかもがグダグダだった。
普段、言い慣れた言葉が、初めて発する物のようだった。

「じゃあねぇ・・・」

メニューを取る彼の指は、映像や雑誌で見る其れと全く同じ。
否、其れ以上の物だった。
名前すらろくに言えないのに、目は、しっかりと其れに見惚れていた。

「――で、御願いします。」

「・・・え?」

「・・・之、御願いします。」

「あ、ハイ。かしこまりました。」


注文を受け、奥へ引っ込むと、浦原さんが待ちかまえていた。

「めちゃくちゃ緊張したあ・・・・出来れば、誰かと代えて下さい。」

どうにかやってるけど(色んな意味で)、心、此処に在らず。
目の前にはテルが居て、タクロウが居て。
之で“平常心を保て”ってほうが、無理でしょう。
そりゃ、指、眺めちゃうよね。

「代えませんよ。
 最後まで、全うして下さいね。」

そう言って、浦原さんは、アタシの両肩のツボを刺激するように、揉みほぐしてくれた。

「ィデデデデデ。」

「かなり凝ってますね。」

肩凝りは昔からだけど、今日は、其れに一役かってるかもね。
はあっ。

「ハイッ。
 いってらっしゃ〜い。」

ヒラヒラと手を振って、料理の乗ったカートを此方へ軽く転がした。
その表情は、まるで他人事のようだ。


カートを押して部屋へ向かった。
ノックをして、ドアを開け、小さく一礼。

「お待たせいたしました。」

会話が止まって、2人が此方を見る。
否、アタシを見て、目は、すぐさま料理へと移った。

 “冷静に・・・目線を気にせず・・・努める”

自己暗示は、大切だ。


「ごゆっくりどうぞ。」

頭を小さく下げ背を向けると、2人は会話を続けた。

「でさ、1人来なかったのね。
 どう思う?
 他の外れた人が、可哀想だよね。」

とは、テルの声。

「あのシンプルなハガキの子?」

とは、タクロウの声。

「選ぶハガキ、間違えたなー。」

と、鼻で笑うテルの声。


 其れは明らかにアタシのことだった。


一言雑念
前回に続き、(大変)御無沙汰しております。
今日、図書館に行ってきて、原稿書き直しして来ました。
しかし、其処の図書館、自習室がないんですよ。
なので仕方なく、館内に併設されてる喫茶店(とは言い難い)で
書き直しに励んでみました。
励んだ結果、ストック20あった物が、半分近く没に。
無駄な物を切り捨ててまいりました。
(この先、切り捨てても生まれるかも知れませんが/笑)
たまに行く図書館って、良いものですね。
また行こうかなー(違う図書館に)。


12+緊張と緩和+TE

連れてこられた店は、ゆったりとした落ち着いた空間だった。


ドアを開けて入ると、2人の従業員が立っていた。
1人は男性で、タクロウよりも背が高い。
黒のスーツが、よく似合っている。
その隣には、女の子が1人。
女性、というよりも、女の子という言葉の方がしっくりくる風貌だった。
表情が何処かぎこちなく、口唇を真一文字に噛み締めている。
強ばっているのか、彼女は緊張しているようだ。
頭を下げる2人の前を“こんにちは”と言って通り過ぎると、彼女は頭を上げた。

「バレたかな?」

隣を歩くタクロウに小さく耳打ちした。

「何が?」

「オレ、ってこと。」

「・・・オマエさ、自信過剰すぎない?(笑)」

「そぉ?(笑)」

そーかなー。


部屋に通されオーダーを済ませると、2人は扉の向こうへ消え、
部屋にはタクロウと2人だけになった。

「緊張してたな、彼女。(笑)」

タクロウは、笑いながらグラスを口に付ける。

「うん、凄い噛んでた。
 やっぱバレてんだよ。(笑)」

「バレるとマズイの?」

「え、べつに。(笑)」

他愛もない会話。
煙草をくわえるとタクロウが“どうぞ”と言って、ジッポに火を付ける。
他愛もない仕草。
テーブルに肘を付いて、部屋を見渡した。
一輪挿しの花瓶には、色鮮やかな花が部屋を彩っていた。
其れは、部屋のいたる場所に飾られているけど、不思議と嫌味はなかった。

「で?
 こないだの企画、どうだったの。」

ジッポの蓋の金属音を鳴らして、タクロウは言った。
静かな部屋に、キンッキンッとその音は反響する。

「んー、面白かったよ。
 新鮮だよね、こういう企画は。
 最初はね、2人とも緊張してたんだけど、話すうちに和んでくれてね。
 オレの巧みな話術で。(笑)」

「噛み噛み話術で。(笑)」

ヒドイな。
其れは、ラジオやテレビだけだってば。
日常会話は、問題ないの。

会話を続けようとしたトコへ、さっきの彼女が料理を運んできた。
言いかけた言葉を飲んで、彼女と料理を見た。
彼女の口元が何か呟いてるようにも見えたけど、其れよりも料理が美味そうだったので
“まだ緊張してんのかな?”と一瞬、頭を過ぎり、オレの目は、すぐに料理へと移った。

“ごゆっくりどうぞ”と言って背を向けた彼女を目で追い、話を続ける。

「でさ、1人来なかったのね。
 どう思う?
 他の外れた人が、可哀想だよね。」

ナプキンを広げながら、頭の中は、どれから先に食おうか悩んでいた。

「あのシンプルなハガキの子?」

タクロウは、もう一度グラスに口を付けた。

「選ぶハガキ、間違えたなー。」

そう言って、なんとなく振り返ると背を向けたはずの彼女と目が合った。
一回り、彼女の目が大きくなったような気がしたけど、其れを確認することもなく
彼女は軽く会釈をして、そそくさと行ってしまった。


それに答えようとしたけど、彼女には届かなかったみたいだ。




一言雑念
タクロウが、ジッポの火を付けるわけないよな。(笑)
こんなタクロウいやや!と思いつつも、ありえる!と、ほくそ笑むアタシ。(笑)
前の話しと辻褄、合ってますかね?(笑)
下書き通りに書いてるんだけど、其の場で付け加えたりしてしまうので
合ってないかも知れませんが、其の時は教えて下さい。(笑)


13+夢じゃない

選ぶハガキ、間違えたな




って。











吐き捨てたような口ぶりで。

思わず振り返ってしまって、目が合った。

・・・ビックリした・・・。

一瞬、目が合ったけど。

目が合ったけど、ほんの一瞬。

ほんの一瞬でアタシは、向き直ったから、その後のテルの表情は分からない。

会釈されたような気もしたけど・・・。

部屋を出る時に自分の頭を下げるので精一杯だったから、確かじゃないかも。






大きく溜息をついて、其の場に座り込んだ。
向こうの方で、人の喋っている声や、食器の触れあう音が小さく聞こえる。
厨房内で飛び交うスタッフの声、笑い声の弾むお客様の声、乾杯を祝うグラスの音。
此処では、全ての声が、音が、膜を張ったように不安定に聞こえた。

「サボリですか?」

店内勝手口横に座り込んだアタシの横には、いつのまにか浦原さんが腰を下ろしていた。

「サボリ・・・・では無いです。」

“でしょうね(笑)”って。
分かってるなら、聞かないで下さい。

「ハガキのこと話してた。」

「・・・ハガキ?」

「前に見せたじゃないですか、当選ハガキ。
 其れの話ししてたの、聞こえちゃい・・・や、聞いちゃいました。」

「聞いちゃ、まずいんスか?」

「まずくはないけど・・・・まずくはないけど・・・。」

頭が、こんがらがってる。

「あの当選ハガキ、大事なハガキだったんですよ。
 なのにアタシ、寝坊して行けなくなって。」

人が落ち込んでるのに、この人は横で“あの日のカレーは美味しかったですね”
なんて言って、指で前髪をつまんでいた。

人の話を聞いてんだか聞いてないんだか・・・

それでもアタシは、話を続けた。
きっと、居心地が良いのだろう。
足音もなくやってきた浦原さんの隣が。



まさか。
まさか、こんなとこで会うなんて思ってもなかった。
夢なんじゃないの?
夢だと良いけど。
夢だと良いけど、そうでもないみたい。

この店にやってきた。
運命なのか、偶然なのか、必然なのか。
とにかく、やってきた。
そして、アタシの目の前を通り過ぎた。


あの日、寝坊せずに参加してたら――――




「謝りに行っては、どうでしょう。」

まさか。
まさか、こんな提案をされるなんて思ってもなかった。

「へ?」




あれよあれよと手を引かれて、部屋の前へ。
トン、と背中を押され、足が前に出た。

此処は一つ、深呼吸を。







一言雑念
下書きノートとは、まーったく違う話しになってしまいました。
あうー、どーなっちゃうんだよー!(笑)
8割方、打ち込みながら考えました。
こんなだから、打ち込みに1時間も掛かっちゃうんだ。(汗)


14+ワインのバカ+TE

彼女が立っていた。






ン?と眉毛を上げて、何?と表す。
彼女は、横をチラチラ見ながら顔をしかめた。
どうやら、横には誰か居るみたいだ。
でも、此方からは長い影しか見えない。

「・・・なにか?」

彼女に気付いたタクロウが、声を掛けた。

「あの・・・今・・・・宜しいでしょうか。」

一言喋るたびに、彼女は深く息を吸った。
顎を少し引いて、目線は床を見つめたままだった。

一通り食事も終わったし、今はワインを飲んでるだけだから、別に構わない。

「どうぞ。」

そう言うと、彼女は小さく頭を下げてからテーブルの前まで歩み寄った。
すると、ドアの向こうを、背の高い彼が此方を伺いながら通り過ぎた。
オレと目が合うと、彼は笑顔を向けて小さくお辞儀をした。
其の時、彼は彼女をチラッと見て通り過ぎたんだ。


「お食事中に・・・・すいません。
 あのぉ・・・お伺いしたいことがありまして・・・。」


物腰低く、彼女は言った。

バレたのかな、と思い、テーブルの下でタクロウの足に合図を送ると、
タクロウは下を向いてクックックと喉の奥で笑った。
(まあ、バレたっていーんだけどさ/笑)

「・・・さっき、お話ししてらしたのを・・・・聞くつもりはなかったんですけど。
 無かったんですけど・・・聞こえちゃって・・・。」

サインかな?

握手かな?

ま、料理も美味しかったし、今飲んでるワインも旨いし。
今ならなんだって聞くよ。(笑)



「ハガキのことなんです。」




とぎれとぎれ喋っていた彼女は、全てを吐き出すようにそう言った。


ハガキ?

サインじゃなくて?

握手でもなくて?





 ハガキ?





「あのハガキ書いたのアタシなんです。
 “当てて下さい”って書いただけのハガキ出したの、アタシなんです。
 ・・・先程は、名前も言わず申し訳ありませんでした。
 私、江戸川紅子と申します。」





嗚呼、あのハガキか。





「・・・まさか、当たるなんて思ってもなくて、当選した時は凄く嬉しかったです。
 ウキウキして緊張して眠れなくて・・・ホント、すいませんでした。」





喋り続ける彼女が、あのハガキの子か。






「緊張して眠れなかったのに、前の日に飲み過ぎて夕方まで寝―――」




彼女は、ハッとして、顔を真っ赤にした。
言うつもりのないことまで口を出たんだろう。






なんだか、酒が不味くなってきた。
タクロウは、飲み干したグラスになみなみと注ぎ入れる。
オレのグラスには、まだワインが少し残っていて、其処には、しかめ面のオレが居た。






「出て行って貰えますか?」







いつになく冷たい声。
グラスに映る自分が厭で、ワインを飲み干した。












一言雑念
や、題名は、な〜んも関係ないです。(笑)
ワインで題名を考えてたら、確か民生の曲にこんなんがあったなー、ってのを思い出して。
アレは、“イワンのバカ”だったかな?
で、今夜のような題名に。

TERUの言うこと聞いてあげたいです


15+反省会

聞いた?


今の声。


テルの冷たい声。


怒ってるなー、あれは。



それまで気分良さそうだったのに、急に眉間に皺寄せて。

怒って当然、だよね。


まあ、これ以上言うこともないし・・・・。
浦原さんに言って、担当代えてもらお。




特に、自分の変わった様子はない。
余計なこと・・・黙ってれば分かんないことまで言ってしまったけど。
んー、凹んではいるけど、大したことないわ。
うん、大丈夫。





さっきと同じ。
店内奥の勝手口横に座り込んだ。

其処には、先約が居たんだけどね。

「どうでした?憧れのテルさんは。」

浦原さんは、だらしなく座り込んで壁にもたれた。

「憧れは憧れのままで良いですね。(笑)
 あんまり近づきすぎると、痛い目に遭うってことが分かりました。(苦笑)」

自分の不注意なんだけどね。

「せっかく、このお店、気に入ってくれたかも知れないのに。
 逃がしちゃったかもね、さっきので。(笑)
 アタシの担当になるかも知れなかったのになー!」

と言うと、浦原さんが、“そんな小さい肝っ玉の芸能人はバカです”と
本気だか冗談だか分からない口調で、笑顔を見せた。


あはは、と笑って、話しが途切れてしまった。
何処を見るでもなく、目の前の無機質な壁に自然と目がいった。
フロアの内装とは違って、此処の壁色は、あまりにも冷たい。












さっきのテルの声に似てるなあ。









「帰ってイイっスよ。」


胸ポケットから取り出した煙草に火を付けて、浦原さんは言った。

胸の内を見透かされたのだろうか。
それとも、ジメジメと滲み出ていたのだろうか。

「え・・・・でも、忙しいのに・・・。」

吐き出された煙の向こうから声が届く。

「あれぇ?気付いてないんスか?
 紅子さん、今にも泣きそうですよ。」

立ち上がった浦原さんは、ポンッとアタシの頭に手を乗せて“おやすみなさい”と言った。




+一言雑念+
こんな甘い店、あんのか?!(笑)
テルは来るし、浦原さんは甘いし。
いーなー、ラクチンで。(笑)

とりあえず、冷たいテルの声に500萌。(笑)


16+オレの役割+TA

酒も呑んで、腹も脹れて。
なんとも言えない至福の時。
ほどよいアルコールが、脳内を刺激している。


カウンターに立っていたのは、入ってきた時と同じ男性だった。
そういえば、この人、彼女が部屋に謝りに来た時、様子を伺いに来てたな。
支配人か・・・オーナー、ってとこかな。

会計を済ませると彼は、“また、いらして下さい”と言った。

「あ、是非。美味しかったです、ごちそうさまでした。」

メシは旨いし、雰囲気も悪くないし。
なによりも居心地が良かった。
まあ、ちょっとしたハプニングに出くわしたけど。



何気ない会話を交わす横には、膨れっ面のテッコが。


 食欲満たせて幸せ、って言ってなかったっけ?


プリンスは、クルクルと気が変わる。
そのたびにオレは、あーしてこーして・・・・・・























 もう、慣れましたよ・・・・ええ























そういえば、彼女が居ない。
担当だった、もう1人の彼女。
部屋に謝りに来た彼女。

「あの・・・もう1人、担当の方いらっしゃいましたよね?」

カウンターで伝票整理をする彼は、ああ、と2つ頷いた。

「大変申し訳御座いません。
 少し・・・体調を崩しまして、先程、帰宅させましたが・・・何か?」

伝票をトントンと机で叩いて、四つ角を合わせる。
几帳面なのか、彼は其れを何度か繰り返した。

「や、ごちそうさまでした、って伝えて下さい。」

「かしこまりました。
 あ・・・途中、彼女がお部屋に伺ったようですが・・・。
 彼女、何か御迷惑お掛けしませんでしたでしょうか?」

彼が言ったと同時に、テッコは先に店を出てしまった。

まだ、車が来るまで時間があるのに。
外で待つっての?

「やー・・・特に何も。(笑)」

この人、彼女よりも上の人だろうし。
面倒になっても可哀想だしな。

2度目のごちそうさまを言って、テッコの後を追うようにオレも店を出た。





「ゎっ」

目の前に座り込んだテッコに躓いて、危うく、ずっこけるトコだった。

「ドアの前に座んなよ、あぶねえ。」

その様を見て、呆れた声で言うと、不機嫌な目が此方を向いていた。

「車、来ないんだもん。」

だーかーらー。
中で待たせて貰えばいーのに、おまえが早々と出るからだろ?



っつたくさー。



なんでオレが、子守しなきゃなんないのよ。
メシくらい1人で食えっての!
オレは、一体オマエのなんなんだよ!
舎弟か?
召使いか?
乳母か?
執事か?
保護者か?

・・・保護者、か・・・やだな。
しっくりきてるような気もするんだけど、気のせいか?
気のせいだよな、きっと。




あー・・・ヤンキーじゃないんだからさ、そんな格好で煙草吸うなよ。

















 って、まさしく保護者じゃん、オレ

















5分経ったけど、車は来なかった。

「道、混んでんのかな。」

その言葉すら届かないのか、返事はなかった。
テッコは、足下に溜め込んだ吸い殻を眺めているようで。
何言っても無駄だな、と思った。


普段、人通りの少ない、この通りも、この時間帯は賑やかなようだ。
飲んだ帰りなのか、頬を赤らめて、おぼつかない足取りで歩く人。
次の行き先を決めている、数人の男女。

其の中で、1人、目線を空に飛ばして歩いている人が居た。




其れは、さっきの彼女だった。





+一言雑念+
浦原さん、性格悪いっスねー。(笑)
紅子が何しに行ったか知ってるのに聞いちゃうなんて!
ま、そういうとこが、アタシ好みでもあるんですけど。(笑)

結局、タクロウ氏は、どこまでいってもホゴシャなんスかね。(苦笑)


17+鉄拳(加筆修正 7/13)

帰ってイイっスよ、って言われてもなぁ。


従業員通用口から出て、店の前の通りを歩いた。
いいなぁ、みんな。
楽しそうで。
何が面白いんだろ、そんな笑っちゃって。
そんな大声で叫ばなくたっていーのに・・・嗚呼、あの人、吐きそうだよ。
あー・・・あ〜あ、やっちゃった。
背中、さすってやんなよ、早く。
苦しそうだな、それにしても。
それにしても・・・あんなんでも楽しそうだな。




 ・・・晴れますか? 明日は




空を見上げて、そんなことを思った。
ネオンが眩しすぎて、あまり星が見えない。
薄っぺらな雲が、まばらに空に浮ぶ。
今夜の空には、月がない。
寂しいな。
何処、行ったんだろう。
寂しいな、なんか。
いーや。
空は、いーや。


見上げた首をストンと落として、正面を向いた。
視界の中に入った、さっきまでの2人。

店の前で・・・何やってんだろ。

座っているテルは気付いてないみたいだけど、その後で立っている
タクロウは此方に気付いていたようで、小さく頭を下げた。
思わず、足早になったアタシは、其の場を去ろうとしたけど
タクロウに“待って”と呼び止められると、自然と足の速度は減速した。
そして、その声で漸くアタシに気付いたテルの表情が、動いた。

5m程の距離を保って、暫く動けずにいた。
待ってと言われたから待っているのだが、彼方は、一行に追ってこようとしない。
通りの真ん中に立ってるアタシは、道行く人の邪魔者扱い。
仕方なく、彼方へ向かうことにした。

 ま、テルには警戒されてるみたいだけどね。

近寄ったアタシを、テルは、相変わらず目を向けようとしない。
頬杖を付いたまま煙草を吸っている。
すでに足下には、数本の吸い殻。

 店の前にゴミを出さないで欲しいな・・・ったく。

吐き出される煙が上がって、アタシの前に薄い膜が出来た。
「何か、御用でしょうか?」
膜の向こうにいるタクロウに言葉を投げた。
「体調悪いって聞いたんだけど・・・大丈夫?」
此方の様子を伺うように、タクロウは言った。

 体調が悪い・・・・浦原さんが、そう言ったのかな・・・。

「あー、はい。大丈夫です。」
特に体調は、悪くない。
唯、少し凹んでるだけです。
少し。
アタシとタクロウの間に座って、此方に目も合わせてくれないテルを見ると。
よけい。

 気持ちが沈んでしまいます。

「そっか。
 おい・・・テッコ。」
呼ばれたテルは、タクロウを見上げるだけで返事をしなかった。
その顔は、明らかにふて腐れている。
誰が、どー見ても。
ふて腐れきっている。










 ゴ ツ ン










ビックリした・・・テルが、コツかれたよ。
テルが・・・タクロウにコツかれた。
アタシの目の前で。
ファンの目の前で・・・タクロウが、テルをコツいたよ。

 目玉が落ちるかと思った。

思わず、上半身が仰け反ってしまった。
アタシは、驚きのあまり言葉を失ってしまった。



 テルの頭上に、タクロウの鉄拳が墜ちたのだ。





+一言雑念+
お久し振りです!
みなさん!此処の存在、忘れてないですか?!
大丈夫ですか?!
たまにしか更新してないけど、忘れないで〜〜〜〜〜っ!
時々は、頻繁に更新してアナタのハートを掴むから!
だから、時々は、思い出して〜〜〜〜っ!

やっぱりタクロウは、保護者だな。(納得)

★加筆−文末から8行、加筆修正しました


18+一瞥ムスタング+TE

タクロウが呼び止めた彼女は、いつのまにか目の前に立っていた。
そして、彼女の前でオレに降りかかってきた、タクロウの拳。
よく、マンガなんかで目の周りに火花が飛び散ったり、頭の上を小鳥が飛んだり。
そんな場面を見るけど、まさに其れ。
目の前がチカチカした後に、じんわりと頭が悲鳴を上げる。
右手で頭上を押さえ、膝の間に少し頭を入れた。
こんな姿、遠くから見れば、唯の丸い岩にしか見えないかも。

「大丈夫・・・・ですか?」

驚いた様子で声を掛けてくれる彼女。
チラリと見上げた彼女の表情は、眉間に皺を寄せていた。

こんな無様な姿、ファンの前で見せるなんて・・・。
タクロウ、何考えてんだよ。

「大丈夫、大丈夫。
 此奴の頭、石みたいに硬いから。(笑)」

イテテテ。
んなこと言いながら、人の頭をコンコン叩くなよ。
ってかさ、指輪してるトコで殴ったでしょ?

「試しに殴ってみる?(笑)」

「え? や・・・其れは、いーです。」

「滅多に殴れないよ。
 オレか・・・此奴の母ちゃんくらいかな、殴れんの。(笑)」

母ちゃんだって、殴らないよ。
こんな殴り方しないっての。
タクロウ、根性悪いんじゃないの?













突然、立ち上がったオレにビックリした彼女の目は、まん丸で。
綺麗に塗られたマスカラと紫のアイシャドウが印象的だった。
ほんの数秒、彼女の目を見ただけなのに。
その時間は、とても長く感じられた。

「なにか・・・・?」

彼女の口唇が動いた。

「・・・・別に。」

「べつに、じゃないでしょ?テルさん。
 謝らないと、彼女に。」



謝る?

オレが?

なんで?



「良い年した大人が、女の子にも謝れないなんて・・・。
 テッコさんも落ちぶれたもんですねー。」

タクロウは、アゴを指でさすりながら遠くを見て言った。
その言い方に、オレの表情は更に不機嫌さを増し、彼女を一瞥してやった。
彼女は、怪訝な目でオレを見た後、目をそらして肩をすくめた。
タクロウはと言えば、いまだに明後日の方を見ている。

「あたし・・・・貴方に謝って貰う理由もありませんし。
 それに、謝るのはアタシの方ですから。」

彼女は少し俯くとハッキリと言った。

「でもさ、さっきの言葉は傷つくよ、テッコ。
 “出て行って貰えますか?”は無いでしょうよ。
 あ〜んな冷たい声でさ・・・ちゃんと言い方があるでしょ?」

彼女に続いて、タクロウが口を開いた。





ったく。
オレが、何を謝れって言うの?
よく分かんないよ。













面白いくらいに、ふて腐れた顔で彼女を見てやった。





+一言雑念+
どうですか!
性格悪いのはタクロウじゃなくて、テッコなんじゃないの?!
なーんて、そんな苦情は受け付けません!(笑)
感想なら受け付けますが、苦情はお断りです!(笑)
(作者も性格悪いな/笑)

しかしながら最近、上手い具合に文章が進みません。
言葉が出てこないんですよ。
毎回、駄文ばかりで申し訳ないです ヽ(;´Д`)ノ


19+手招き

アタシが何を謝って貰うのか。
タクロウの言ってる意味が、よく分からない。

たぶん、こうかな。

彼女が、どうしようもない理由で企画に参加しなかったのは、彼女が悪い。
だからといって、テルの言い方は、冷たすぎるんじゃないの?
謝んなさいよ、テッコさん。

ま、そんなとこでしょう。

そんなとこだろうとは思うけど・・・早く、この場所から去りたい。
前を通る人が、さっきからチラチラ見てるし。



いつもブラウン管を通して見てる人が、目の前に2人も。

1人は思ったとおりの人で、もう1人は、いつも見せるような笑顔はなく。
さっきから拗ねっぱなし。
後者は、予想外の表情をアタシに向けてくる。
その表情の所為で、綺麗な形をした口唇が、少し尖って形を崩していた。
でも、其れは其れで絵になっていて、卑怯だなあ、と思わせる。

拗ねた顔のテルと、その顔を見て更に好感度を上げた自分に、なんだか笑みが零れた。
この人には、ファン心理を擽られる。



「テッコ。」



ハッキリと聞き取れる口調で、タクロウが一喝する。
タクロウに後頭部を向けていたテルは、正面を向いてタクロウを一瞥した。
身長差はあれど、其の目は、真っ直ぐにタクロウに向けられていて。
眉間には深い皺が寄っていて、もちろん、口唇は尖ったまま。

「あの・・・ほんとに其処までして貰わなくてもいーんで。
 明日も早いので、そろそろ失礼します。
 今夜は、どうもありがとうございました。
 ・・・宜しかったら、また、お店にいらして下さい。
 スタッフも喜ぶと思います。
 ホントに・・・本当に今日は、失礼しました。」

フッと一息吐いてから、2人に背中を向けた。

肩が重い。
短時間のうちに色々ありすぎて、なんだか疲れてしまった。
疲れと共に頭も限界に近づいてるようで、無意識のうちに溜息にも似た息を吐いていた。


























「ごめん」


























歩き出していた足を踏み留めた。

ごめん

確かに、そう聞こえた。
誠意の感じられない声。
唯。
どんな顔で、そう言ったのか。
其処に興味があって、振り向いてみた。
やっぱり、擽られてる。



尖った口唇は変わらず。
けど、あの眼は真っ直ぐに此方を向いていて、暫く其処を動けなかった。
緊張と高揚が身体を駆けめぐり、目がそらせなかった。



「エライッ!大人になったなーっ、テッコは!」

茶化すようにタクロウが言って、テルを肘でつつく。

「うるさいな。
 オレは、謝る気なんて無かったのっ。
 タクロウが煩いから謝ってやったんだよ。」


あー・・・ハイハイ、さようでございますか。(呆笑)
この人、之が素なのかな、ホントに。


「テッコ・・・また殴られたいの?」

「今度やったら、もう歌わない。」

「なーに言ってんの!(笑)
 我慢出来ないくせにー。(苦笑)」

「・・・。(拗)」

拗ねるテルを満面の笑みで見つめるタクロウ。
その顔は、とても満足そうで。
そっぽ向いたテルの顔にも、何処か笑みが含まれていた。

と、其処へ、1台の車がやってきた。
迎えの車らしく、運転手は渋滞で遅れたことを2人に告げていた。

「じゃあ・・・私は、失礼します。」

帰るチャンスを逃していたアタシは、そう告げて一礼をした。
謝らないと言っていたテルは、謝ってくれたし。
これ以上、此処にいる理由もないし。
そろそろ帰ろう。














「送るよ。」














背を向けたアタシに、掛かる声。
振り向くと、テルは手招きをしていた。







+一言雑念+
最近、行間を空けるのがマイブームです。(笑)
調子に乗って空けすぎな気もしますが・・・ヽ(;´Д`)ノ
ま、其処は読み手の皆さんの腕に掛かってますから!
作者の表したかった感情を、この行間で読み取って下さい!
其処には、見えなかったテッコ達の表情が隠れてます!
(簡単に言えば、どう表現して良いか分からなかったんだ・・・/失格者)


20+安心してよ+TE

車に彼女を乗せたのは、オレ。
一緒に後部席で、彼女と話してるのもオレ。
なんだろう。
さっきまで、こんなじゃなかったんだけど。
酒が回ってきたかな。


「あのぉ・・・大丈夫なんでしょうか・・・・こういうのって。」

話しの合間に、心配そうな声で彼女が聞いてきた。

「そこらへんは、心配しなくて大丈夫、大丈夫。
 いざとなったらタクロウが、どうにかしてくれるから。(笑)」

オレが言うと、タクロウは振り向いた。

「あのねえ、オレは、オマエのケツばっかり拭ってられないのっ。」

迷惑そうな顔。(笑)

「なーに言ってんの。
 そういう役割、けっこう好きなくせに。(笑)」

“うっさい”と言って、また前を向いたタクロウ。
2人のやりとりで少し安心したのか、彼女は笑みを零した。


さっきまで眉間に皺を寄せていた2人。
彼女もオレも皺が、寄りっぱなしだった。
今、皺が寄ってるのは、お抱え運転手だけ。(笑)

彼女を乗せる、と言った時、開口一番に「ダメ」と言われた。
が、其処は、駄々っ子のオレ。
お抱え運転手は、渋々承知してくれた。


車は、彼女の家へ向かう。
幾つかの信号を超えて、何度か赤で止まり。
そのたびに彼女は、窓の外を眺めた。

黒いシートで覆われた窓からは、街が不透明に見える。
ビルに、人に、空に。
薄い幕が掛かったように。


「彼処、長いの?」

外を眺める彼女に問いかけた。

「え?店ですか?」

彼女は、突然、話しかけられたことに少し驚いたようだった。

(だってさ、タクロウは前で喋ってるから、つまんないんだもん)

「んー・・・長いって言っても、まだ3年目です。
 あの中じゃ、まだまだ下っ端ですよ。」

「ふーん・・・彼処に、あんな店があるなんて知らなかったよ。」

「そうなんです。皆さん、そうみたいで。(笑)
 だから、芸能人の方、よく来られますよ。
 彼女と来たり・・・怪しい感じです。(笑)」

「もってこいの店なんだ。(笑)
 今度、オレも行こうかな。」

「其の時は、個室を用意させて頂きます。(笑)
 今度は、失礼なこと言いませんから。(苦笑)」


大丈夫、もう気にしてないから―――


彼女が“此処で止めて下さい”と言って、結局、オレの言葉は遮られてしまった。




車が止まり、彼女は降りて、深々とお辞儀をした。
車が走ると同時に、彼女に手を振った。




「ねえ、タクロウ。」

「ん?」

「彼女の名前、なんだっけ?」

「さすがテッコさん、お目が早い。(笑)」

「違うよ。(笑) 次、行く時も同じ人の方が、いーなーと思ってさ。」

「ふぅん。(含笑)」

意味深な返事は無視して、隣の空いたシートに脚を伸ばした。

道が空いてるのか、街は形を変えて窓を流れた。





大丈夫。
下心なんて、全くないから安心してよ。


21+それから

そんなに此処は、居心地が良いのだろうか。



前回より少し小さめの個室からは、男女の笑い声が聞こえてきた。
アタシは、今から其処に料理を運びに行く途中なんだけど。




非常に。








非常に入り辛い。










どうして、アタシを指名するんだろう。
アタシは、あなたのファンなのに。
あなたも其れは、知ってるでしょ?
なのに、どうして、わざわざアタシを。
もし、アタシが、この状況を外に漏らしたら、どーすんの?



そりゃ知ってますよ。



あなたが、度々、各誌の見出しに名を馳せてることくらい。
そのくらい知ってますよ。
だって、アタシは、あなたのファンだもの。

その週刊誌を見るたびに、アタシは、ヤキモキして。
友達と、「どーなのよ?!」なんて討論し合ったり。
しょーもないヤキモチのような、嫉妬のような。
なんとも言えない感情にヤキモキして。
紙面の言葉に何度も踊らされましたよ。







そして今、目の前には、まさに「どーなの?!」的な風景が。











「お待たせ致しました。」



あたしの声は、この2人に届いてるのかしら。

そりゃ、こんなデカイ声で話せば、外にも聞こえるよ。
料理運んでる途中から、丸聞こえだっての。

どーなのよ、このマナーの悪さ。
この人、本当にテルなんだろうか。
もしかすると、ソックリさんなんじゃないの?




「あ、彼女がさ、オレの企画、台無しにした子。(笑)」



アタシをチラリと見て、そう言った。

“うははは”と笑う声。
テルだ。
紛れもなく、テルだ。

一緒にいた女性は、「えー、サイテー」とアタシを一瞥した。
「アタシなら、テルくんとの約束、忘れたりしないのにぃ。」と。
小声で、そう漏らした彼女の声は、頭に響く声だった。








 アンタの方が、サイテーでしょ―――








その言葉を飲み込んで、彼女に愛想笑いを向けた。
口元は笑っても、目は笑ってないのが、自分でも分かった。



 それから、この部屋に来てからのアタシに、テルは、目も合わせてくれなかったよ。



+一言雑念+
どーですか!!!
このイヤなヤツっぷりは!(笑)
アタシの書きたかったテルって、実は、之だったのかも!
と、最近は思います。(笑)
普通に書いてるより、遙かにペンの速度が速い。
いけずなのかなー、アタシ。
だから、此処のテッコの反映されちゃうのかも。
って、其れもどうかと思うよね。(笑)


22+明日があるさ

テルが女を連れてきた日から、1週間が過ぎた。


金曜の夜から今夜にかけて、うちの店は猫の手も借りたいほどの忙しさにみまわれる。
ハガキのことで落ち込んだり、テルと一緒に来た女について考える暇なんて、少しもなかった。

でも、アタシは、其れで救われてるのかも。
だって、ここ数週間は、夢のようだった。

ハガキが当選したり(行かなかったけど)。
店にタクロウとテルが来たり。
車で家に送って貰ったり。
彼女を見れたり。

最後のは・・・出来れば見たくなかったけどさ。
話も出来たし、普通なら有り得ないよね。




「お疲れ様、紅子さん。」

スタッフルームのドアに手を掛けた所で、浦原さんに会った。
二言三言、言葉を交わし、すぐに別れようと思ったのに、そうもいかず。
犬が飼い主に寄りつくように、浦原さんは近づいてきた。

「こないだは、女連れでしたね。」


その話しか。


「でしたね。
 でも、有名人なんだし、そういうのは当たり前なんじゃないですか?」

「そういうもんですかねえ。」

「そういうもんですよ、きっと。」


そう。
だって、アタシは全てを知ってるワケじゃないし。
あんな面があったって、全くおかしくないはず。
不思議じゃない。


「そうですか・・・・そうですね。」

そう言って、浦原さんは、グーにした右手を左の掌にポンと打ち立てた。

「だから、明日も予約が入ってるんですね。」

「は?」

「お二人で御来店らしいですよ、明日。
 直接、御本人からお電話頂いたそうです。」


予約・・・入ってるんだ、明日も―――


誰と来ようが、アタシの知ったこっちゃ無い。
アタシは、お客様として接するのみ。

「之は、常連さん間違いなしっスね。」

満面の笑みの浦原さんに、アタシも笑顔を返した。

「良かったですね、浦原さん。」

「ワインは、高いのを用意して・・・あ、ロマネ・コンティなんてどうでしょう。」


悪代官だなー、この人。



浦原さんに頭を下げて、スタッフルームのドアを押した。
すると、ガチャリと閉めたドアの向こうから、くぐもった浦原さんの声が聞こえた。


「御指名だそうですよ、明日。」



+一言雑念+
あぶねっ!
危なかったよ!
前回から1週間経ってたんだね!
「なんで、こんなにカウンター回ってんだ?」と思ってたのよ。
そうか、そういうことか。
みんな、更新を待っててくれたんだね!(感謝)

之からは、忘れないよう気を付けます (;´Д`A ```


23+此処、いつもの+TE

からかってる。

そういうんじゃなくて。

なんて言うの?

居心地、良いんだよね。

此処。



今日の仕事は、雑誌の取材2本だけだった。
昨日、仕事の合間にメール入れたら“OK”って返事が返ってきた。
だから、今、ここにこうして座ってる。


「テルは、何飲むの?」

「んー・・・・酔っても良い?」

「何それ。(笑)
 知らないわよ、私。」

「なんでよ、冷たいな。(笑)」

「酔っても良いけど、迎えに来て貰ってね。
 私は、先に帰るから。(笑)」

「つめてー。
 ま、そういうところが好きなんだけどさ。」

「其れ、私以外の何人の人に言ってるの?
 信じてないからねー、私。(笑)」

「そうやって、恥ずかしがるとこなんか好きなんだけどなー。」

「もうっ、やめてよ。
 ずるい・・・・そう言う時だけ、真剣なんだもん。(笑)」

「オレは、いつだって真剣だけど?」

「どうだか。(笑)
 そう言う時ほど、信じれないわ。(笑)
 ほらっ、早く選ばないと、お店の方、困ってるじゃない。
 ごめんなさいね、ほんとに。(苦笑)」


正面に座る彼女を見て、優しく微笑んだ。
“ごめんなさいね、ほんとに”とウェイトレスにも気を使う彼女は、こないだとは違う彼女。

オレは、何してんだろ。


いつものウェイトレスは、注文したボトルワイン名を復唱して、部屋を出た。
その姿は、とても冷静でロボット的な冷たささえ感じ取れた。
それとも、そう装っていただけかもしれない。

だって、ロボットは、頬が紅潮したりしないでしょ?



テーブルの上に置かれた彼女の、白く細い手を引き寄せて、手首に痕を残した。

「もうっ。」

少し俯きながらも恥じらう彼女の手首からは、甘い香りがした。
この香りは、あまり好きじゃないな。
胸の奥で独白して、もう1度、痕を残した。



 其処へ、いつものウェイトレスが、ワインを運んできたんだ。



+一言雑念+
2週間ぶりで御座います。
ますますイヤな人になってますかね、テッコさん。(笑)
書いてて楽しいんですけどね、アタシは。(笑)


24+初めて

こないだとは、違う人だった。
一体、何人居るんだろう。
きっと、両手じゃ数え切れないんだろうな。
気分によって相手を変えて。
今日はあの子、明日はこの子、明後日は―――
凄いな。
どんどん、アタシの中でこの人は、遠ざかっていく。

ワインを運びながら、そんなロクでもないことを考えていた。


再び個室に入ると、其処にはさっきと同じように、笑みを浮かべ、
2人にしか届かない声を交わす男女が居た。
ウェイトレスのアタシが入ってきてもお構いなし。
普通は、少しくらい会話って止まるもんじゃない?

ほら、カラオケで1曲目を唄ってる途中に店員さんが、
ドリンクを運んでくると、ちょっと唄いにくかったり、マイク置いちゃったりするじゃん。
そういったことが、この2人にはない。
まるで、アタシは空気みたい。
もしかしたら、空気以下かもしれないけど。

「お待たせ致しました。」

そう言って、ボトルを手に取りコルクを開けた。
ビンとの摩擦で小さくキュキュという音がして、最後にポンッと音を立てた。
注ぎ口からは、芳醇な香りが室内に放たれた。
漸く、其処で2人は此方に目を向けて、会話をやめた。

良かった、空気以下ではないみたい。

独特の音をたてて、ワインはグラスに注がれる。
2人は、注がれるワインをじっと見つめていた。
緊張したアタシの咽に唾を流し込むのが困難なほど、この室内は静けさに包まれている。
こういう時くらい、さっきみたいに喋っててくれればいーのに。
そう思うと、つい眉間に皺が寄ってしまう。

彼女は、グラスに口を付けると「美味しい」と言ってからアタシを見て、
「凄く美味しいワインですね」と血色の良い口唇でそう言った。

その声は、こないだの女性とは程遠いほど、耳に優しかった。

「ありがとうございます。」と返して、少しだけワインの説明をした。
フランスのどこどこで作られたワインで、このくらいの期間寝かせておいて・・・
そう話してる間中、アタシの脳内では、彼女の口紅とワインの色が似てる、と
どうでもいいことが螺旋を描いていた。

その間、テルは、グラスに注がれたワインをずーっと見つめていた。
もしかしたらアタシと同じことを――口紅の色と似てる――考えてるのかもしれない。
そう思うと、また頭の中にしょーもない螺旋が増えた。

「ご注文は、どういたしましょう。」

メニューを1つずつ広げ、2人に差し出した。
すると彼女は、「ごめん、テルくん決めてくれる? お化粧室行ってくるね。」
と言って、小さなバッグを抱えて出て行った。

「本日のオススメは――――」

若鶏のソテ バスク風 ピラフ添えです、と言う前に、テルは突然、
持っていたメニューをテーブルに投げ、椅子に大きく凭れてフーッと息を吐いた。

「なんでも良いよ。江戸川さんが好きな物、持ってきてよ。」

胸元の名札を見て、テルは、初めてアタシの名前を口にした。



+一言雑念+
有言実行フォォーッ!(笑)
なんか、ダラダラと長くてゴメンナサイ。(笑)
書いたら、こんな長くなっちゃった。
いつも、もう少し短いよね。
まあ、長くても短くても中身の濃度は変わりませんが。(笑)
テッコさん、空気抜けちゃいましたね。


25+好き嫌い

江戸川さん。

江戸川さん。

江戸川さん。


なんて心地良いんだろう。
まるで、好きな人に呼ばれた時の感覚に似てる。
(尤も、好きにな人には下の名前で呼ばれたいけど)

叶うなら、もう1度、呼んで下さい。

「江戸川さんのオススメ、幾つか持ってきてよ。
 あ、オレ、ジャガイモとプリンは駄目だから。
 それ以外で御願いね。」

呼んでくれた。

願えば、乞うも簡単に叶うものなのか。


「ジャガイモとプリン、ですか?」

「うん。口の中がモサモサするでしょ?ジャガイモって。
 あの感じが、どーにも駄目でさ。
 手料理代表の肉じゃがも、オレにとっては、唯の嫌がらせなの。
 だから、オレに手料理御馳走してくれる時は、肉じゃがはやめてね。
 突き返しちゃうから。(笑)」

何か、空気が抜けたように、テルは止まることなく話し始めた。
パンパンになった風船が、音を立てて、凄い勢いで空気が漏れ出すような。

さっき、椅子に凭れて、大きく息を吐いたのが、その合図だったのかもしれない。


「江戸川さんは、嫌いなもの無いの?」

「私、ですか?」

「うん。」

「・・・・特に・・・無い、です。」

「えらいねー。
 オレはさ、ジャガイモとプリン以外なら何でも平気なの。
 なんで好き嫌いなんてあんのかな。」

「・・・それは・・・・人と同じじゃないですか?」

「人?」

「好きな人は容易に笑顔で迎え入れるけど、嫌いな人には、そんな体制とらないし。
 かまえちゃったり、見た目とか先入観だけで判断したり。
 ・・・簡単なことですよ、きっと。
 ジャガイモもプリンも、あんなに美味しいんだもん。」

風船から、また空気が抜けた。

「江戸川さんは、どっち?」

「・・・どっち、とは・・・・。」

「こないだのオレと今日のオレ、好き?それとも・・・嫌い?」


この人は、自分の体裁の無さを分かって繕っているのかもしれない。


自嘲気味な口元を見て、そう思った。



+一言雑念+
アタシは、ジャガイモもプリンも好きです。
嫌いな物は・・・酢豚のパインとか、サンドウィッチのトマトとか。
でも、トマトは嫌いじゃないよ、モリモリ食っちゃう。
あ、ピクルスも嫌いです、なんだあれ。
さあ、テル風船は、どう動くのか。


26+ここではない、どこかへ+TE

嗚呼、すごい面倒臭い。

オレ、本当に何してんだろ。



早く帰りたい。



ホント言うと、早く帰りたいんだよね。

何を呑気にメシなんか食ってんだろ。



其れも、好きでもない人と。



昨日も。



今日も。



たぶん、このままじゃ明後日も。

空気が抜けた今のままじゃ、明後日も。

オレは、こうして無駄な時間を過ごす。



無駄な時間を。



時間の使い方が、分からなくなってしまった。
























もう、あれから随分と経つのに。



+一言雑念+
今回は、短めに。
最後の言葉は、なんでしょうね。
気になりますね。
アタシも気になります。(笑)


27+ドロン

「江戸川さんの好きなもの持ってきて」


そう言われたので、数品見繕って部屋に運んでみると





 −誰も居ない−





おいおいおい、どういうことよ。
持ってきて、って言うから持ってきたのに。




ワケを説明して、オーダーしたものを一旦、厨房で預かってもらった。
案の定、料理長はご立腹。
そうだよね、心を込めて作ったんだもん。
ごめんね、料理長。


 って、何でアタシが謝ってんだ!


「あ、浦原さん!テルさん知りませんか?」

廊下で擦れ違った浦原さんに尋ねると、笑顔でこう言った。


「帰られましたよ。」


「は?だって、料理、まだ運んでな−」

「多めに払って行かれましたよ。
 お返ししないといけませんねぇ、之は。」


帰った、って。


しかも


多めに払って、って。




 なんなんだ?





「紅子さん、今度、差額をお返しに行ってはどうでしょう。
 んー・・・・事務所にでも行けばいーんじゃないですか?
 あ、それと。
 これ以上の御来店は御遠慮願います、って伝えてくださいよ。」



眉間に皺を寄せて、口を尖らせながら話しを聞いていると、
浦原さんの後ろをテルさんと一緒にいた彼女が通った。


28+ドロンドロン

「あっ、あの!」



浦原さんの後ろを通った彼女に、一通りのことを話した。
すると彼女は、落胆する様子もなく、笑顔で答えた。


「また帰られちゃったか。」

「また、ですか?」

「そうなの。誘ってくれるのに、いつも途中まで。(笑)」



途中まで、ってことは“そういう関係じゃない”ってこと?



「テルくん、お金払って帰ったでしょ?」

「そうみたいです。きちんと清算されて帰られました。」

「やっぱりね。それもいつもなの。
 時々は、私にも奢らせて欲しいわ。」


化粧室から戻った彼女は、綺麗な色の唇で、そう笑った。


「じゃあ・・・私も帰ろうかな。
 テルくん居ないんじゃ、つまんないし。
 ごめんなさいね、本当に。
 今度は、きちんと頂いて帰りますから。」


個室へ戻った彼女は、鞄を持って出てきた。

そして、ボーっと其れを見ていたアタシに手を振って店を出た。





 −お金、あの人から返してもらった方が早かったかな−





そう気付いたのは、家に帰って、湯船に浸かってる時だった。


29+封筒

あれから数日後。


店が暇な合間をぬって、アタシはお使いに出た。

女子1人で之だけの量持てるのか?ってくらいの大荷物。
浦原さんは、“大丈夫っスよ〜”と、お使いメモと封筒を渡して、
ワイングラスを丁寧に拭き始めた。


「なんですか?この封筒。」

「此間の御代ですよ。多めに貰ってた。」

「こないだ・・・あぁ、え、ホントにアタシが行くんですか?」

「・・・・紅子さん以外、誰が行くんですか?」


 や、そんな真面目な顔されても困るんですけど・・・・。




と、まあ、数時間前の反論虚しく。
某事務所ビル前で大荷物を抱えた女子が、こうして突っ立ってるわけですよ。


しかし、なんだね。
来たのは良いけど、確実に此処に居るわけでもないし。
事務所の人にワケ言って頼んだって、会わせて貰えるわけ無いし。

 いやぁ・・・確実に間違ってるよね。

お金、とりあえず店に保管しといたら駄目なのかな。

 あ、駄目か。

浦原さん、“これ以上の御来店はお断りします”って言ってたし、
店に置いてても意味無いのか。



 どうしたもんか・・・帰るに帰れない。



大きなビルを眺めながら、困り果てること数十分。
アタシの背後に走ってる道路でタクシーが止まった。




 そこから、あの人が降りてくることなんて全く気付かなかった。


30+つらいんです++TA

 お疲れ様でしたー。



今日、1本目の取材が漸く終わった。
之で今日の仕事は残り2つ。
事務所に戻って、もう1本取材受けて。
後は、ラジオ局に移動して番組録って終わり。


「なあ、ジロウ。終わったら呑みに行こうよ。」

「え?タクロウくん、ラジオの録りがあるんじゃなかったっけ?」

「うん、それ終わってから。」

「ごめん、オレら先に呑んでる。(笑)」

「ら、って何?ら、って。」

「だってさ、オレととのくんとテッコくん、之で終わりだもん。」

「え?!そうなの?
 オレ、てっきり、次のも4人で受けてんだと思った。」

「残念でした、お疲れさん!あ、テッコくーん!」


帰り支度を済ませたジロウは、先を行くテッコを追いかけるようにして部屋を出た。

もちろん、とのの姿は、すでにない。



 はあっ



 リーダーってつらい・・・・



心で涙を流しながら、タクシーが向かった先は事務所。
お金はスタッフに任せて、先に車を降りると、数メートル先に大荷物を抱えた人が立っていた。


31+頭よりも身体で

うん、やっぱり帰ろう。

浦原さんには、会えませんでした、渡せませんでした。
とか上手い具合に言って、納得してもらおう。


独り言のように頷いて振り返ると、数m先にタクロウが立っていた。




「あ!」





思わず、大きく出てしまった。


それでもタクロウは気付かないのか、アタシと目を合わせておきながら
気付かぬ顔でタクシーから出てきた男の人と話しながら此方へ向かってきた。


 そりゃ気付くはずも無いか。


店に来たのは1回だし・・・・・でも、車には一緒に乗ったぞ?
其の前には、店の前で話もしたのに。
ま、いーか。



 考えるより、体当たりだ。







「あの・・・・タクロウさん、ですよね?」



小走りでタクロウのもとへ駆け寄った。


「・・・・・あ。あれ?どしたの?」


最初、一緒に居た男の人は怪訝そうな顔をしたけど、タクロウの其の口調で
知り合いだと判断したのか、“先、行ってますね”と告げてビルへ向かった。

「確か・・・・テルと食べに行ったお店の人だよね。」

「あ、はいっ。良かったー、覚えていただけて。
 さっき、目が合ったのに逸らされちゃったから、どうしようかと思いました。(笑)」



 “ごめん、オレ、めちゃくちゃ目ぇ悪いんだわ”



タクロウは、ジャケットのポケットから眼鏡を取り出して、そう言いながら眼鏡をかけた。


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宇野 87 |メイル