CGI 雑念エンタアテインメント



雑念エンタアテインメント
モクジ 雑念

VOL.32+拉致

 えーと・・・・ごめん。名前、なんだっけ?




眼鏡をクイッと上げて、そう言った。
そんな顔、雑誌なんかでは見たこと無かったから、
とても新鮮で、少し、得した気分だった。

大荷物を抱えて、待ってた甲斐があったかも。(笑)



「江戸川、江戸川紅子です。」

「あー、そうだ。江戸川さんだ。」

「あの日は、わざわざ送っていただいて、ありがとうございました。
 お辞儀だけで、ちゃんとお礼も言えず・・・すいませんでした。」


タクロウは、そんなのいいのに、と笑って腕時計を見た。


「もしかして、お急ぎですか?」

「うん、まあ。此処で取材なんだよね、今から。」

「そうなんですか?!じゃ、あのですね−−−」


急いでるタクロウに合わせて、アタシも急ぐようにして、鞄に手を突っ込み
手探りで、預かった封筒を差し出そうとした・・・・んだけれど。

「ちょっとさ、急いでるから・・・・中でも良い?」



 中って、事務所ですか?


33+監禁

此処で待ってて、と言われた部屋に通され、もうすぐ1時間。


 “3時間・・・んー、2時間くらいかかるんだけど”


かなり急いでいるようだったので、鞄の中で手にした封筒を出すことも出来ず。
グチャグチャの鞄の中で、窮屈そうに家主を待つ茶封筒。
之持って、とんずらしちゃおうかしら。


 “アタシも急いでるんで!”


其れすら言えなかった。
タクロウ、マッハで歩くんだもん。
やっぱり、とんずらすりゃ良かったな。



「3時間・・・・2時間・・・・ダメだ、ダメじゃん!」


そんな待ってたら浦原さんに殺される。
夜の仕込みに間に合わなくなるんだ。
アタシは、厨房には立たないけど、夕礼だってあるし、来店されるお客様を把握しなきゃなんないし。
それに、この大荷物を早く持ち帰らねば。

そう、アタシだって、タクロウと同じく色々と忙しいのだ。


「・・・・封筒、どうしよう。
 んー・・・・っ、もういーか!誰か、そこらへん歩いてる人に渡そう!
 いっぱい人居たし、適当に誰かに渡して帰ろう!そうしよう!」

独り言にしては大きすぎる声で独白し、椅子から立ち上がった。

「うん、そうしようそうしよう。」



窓の外を眺めて頷いた後、ガチャリとドアノブの回る音がした。


34+ダメだこりゃ++J

「おつかれさまーっ!」


軽く、カチャリと3つのグラスを合わせた。

とのくん行きつけの飲み屋さんで、昼間から呑んでます。
こんな幸せで良いのだろうか。(笑)
ごめんね、タクロウくん。
タクロウくんの分まで呑むから、仕事頑張って!


「タクロウくんの後姿、淋しそうだったね。(笑)」

「いーんじゃないの?あいつは独りが好きだから。」


タクロウくんのこととなると、とのくんは冷たく振舞う。
でも、知ってるんだ。
タクロウくん欠席の呑みの後、必ず家に寄ってること。
口にはしない、とのくんの優しさ。

そういうとこ見習わないとなー。


「とか言って、との、之が終わったらタクロんとこ行くんでしょ?(笑)」

「うっ。」


テッコくんが、そう言うと、とのくんは軽く噴いて口元を拭った。
んー・・・テッコくんのそういうとこは見習いたくない。(笑)




 あ、そうだ。
 ボク、このお話で初めて登場します。

  っつーか、遅ぇよ!(笑)

 34話目で漸く登場しました。
 ごめんね、皆を待たせて。
 とのくんなんかさー、3話目で登場してるのにさ。
 ボクは、34話目にしてやっとこさ、だよ。
 あー、作者がボクに対して、いかに力を注いでないか分かるよねー。
 こうなったら、この先ずーっと出演拒否してやろうかな!




其の時、テーブルの上に置かれた携帯が、規則的な振動に合わせて動き出した。
大好物の唐揚げに夢中で、携帯にも気付かないテッコくん。


「テッコくん、携帯。」

「ん? あ。
 もしもーし・・・・え?!
 あー・・・了解しました・・・。」

「どしたの?」


電話が終わって、突然、立ち上がってカバンを手にしたテッコくん。


「明日の打ち合わせだって。」

「・・・そんなのあったか???」

テーブルに片肘付いて、もう片方の手でグラスにワインを注ぎいれるとのくん。
さっき来たばっかりなのに、そろそろ1本目が空になろうとしていた。
幾ら小さいボトルだからって・・・恐るべし、このペース。(笑)


「あったみたい。」

「あったみたい、って・・・?」

「忘れてたの、オレが。(笑)」



 早く行って!!!/ピース!


35+仕事してください++TE

「唐揚げ、もっと食いたかったなー。」



タクシーから降りて、事務所の玄関へ向かう階段で独白。
周りに誰も居ないのを良いことに、カラアゲカラアゲ と繰り返した。


打ち合わせの話なんかあったかな。
いまだに思い出せないんだけど。
・・・若年性ナントカ、だったらイヤだな。


エントランスを抜けて、上りのエレベーターを待った。


酒の所為で、頭が働かない。
いつもに比べると、この量は大したこと無いけど。
それでも、アルコールが脳細胞を少し占拠してるのが分かる。


ぼんやりと

ほんのりと

きもちいい



「テルさん!担当さん、カンカンですよ。(笑)」


エレベーターの開いた扉から降りてきたスタッフ。
打ち合わせを忘れてたオレに、愛嬌交じりの野次が飛んできた。


「マジで?(笑)」

「そりゃもう御立腹です!」

「酒、残ってんのに、やべー。(笑)」


うははは(笑)お疲れ様、と言ってエレベーターに乗り込んで扉を閉じた。



「酒がー・・・」


大した量も呑んでないのに。
酒の所為にして、仕事、休めたら良いのにな。
毎日呑んじゃうのに。



数十秒後、扉が開いて、また野次を浴びたのは言うまでも無い。
誰だよ、言いふらしたの。
仏のオレも黙っちゃいないっつーの。


待たせてしまった担当さんに謝罪して、別室へ移動した。
ガチャリと回したノブの音が、やけに頭に響く。



思った以上に、アルコールが脳細胞を占拠してるのかもしれない。


 ←拍手とコメント宜しく哀愁!
宇野 87 |メイル