縁側日記  林帯刀





2006年09月19日(火)  通学路。


季節外れに思い出したこと。


私の行っていた小学校は人数が少なくて、
全校で50人ぐらいしかいなかった。
校舎は木造の平屋で、図書室はなくて、廊下に本棚が並んでいるだけだった。
(このあたりの話は詩「スロウ」に書いたので、知っているひともいると思う)
登校は通学班で、私の班は2番目に遠い地域だった。
でも近いところの班ほど学校にくるのが遅かったりして、
遠い班は遠い班で、
どこが一番乗りになるか、競っているようなところがあった。

その頃は、本当によく雪が降って、
冬のあいだに3回ぐらいは30センチ以上積もっていたと思う。
1メートル積もることもあった。
そういうときにはしゃいでしまうのが子供で、
「登校に時間がかかりそうだから早めに行こう」なんて電話がかかってきて、
長靴履いて傘さして、わいわい言いながら学校へ行った。

臨時休校になったり、一時間遅れになることも多かった。
でも、遠いということはそれだけ出発する時間も早いわけで、
電話連絡が間に合わなくて、
学校へ行ってから一時間遅れなのが分かったり、
集合場所にいたら近くの子のお母さんが出てきて、
「お休みだって!」と教えてくれたりした。

一時間遅れなのにいつも通りに行ってしまったときは、
ストーブ(煙突がついてて上に水を張った桶が置いてある)をつけた教室で、
たぶん、ストーブにあたったり本を読んだり、雪を眺めたりしていた。
次にやってくるのは、やっぱり連絡が間に合わなかった遠い班の子で、
「電話遅かったよね」「うちも出たあとだった」とか、
「雪すごいね」「どんくらい積もるかな」とか話していた。

途切れなく落ちてくる雪を見るのが好きだった。
不思議なくらい静かな校舎。
ストーブがつくつく鳴る音や、先生の足音。
つめたい足の先。
無口な用務員さんは、生徒の通る幅だけ雪をかいていた。





2006年09月10日(日)  本。


今、家はとても涼しい。
夏の間でさえ、どこかから帰ってきて車から降りた途端、
「ああ涼しい」と思うくらいだったけれど、
それでもやはり汗をかくぐらいには暑かった。
九月になった途端、みるみるうちにそこらじゅうの夏が薄れていって、
湿った空気もじりじりした日差しもどこかへいってしまった。
家の中を風がとおって空気が軽いし、
二階と下の温度差もほとんどない。

そのせいか、ただ「本を読む」ということをしたくなって、
図書館で何冊か借りてきた。
なかでも、いしいしんじ「麦ふみクーツェ」がすごくよくて、
それを返してすぐ「雪屋のロッスさん」を借りた。
「クーツェ」は長編、「ロッスさん」は連載されていた短編をあつめたもの。
文章がかたすぎずやわらかすぎず、とても読みやすかった。
その他に、あちこちで名前を目にする作家の本も借りて、
そんなに人気があるなら読んでおこうと思ったわけだけど、
なんというか、肌が合わない感じがした。
他の作品ならどうだったんだろう。
それとも「いい」と思える時期がきていないのか。

昨日の午前中はそうやって活字を追って、
午後になってから車ででかけた。
特に買いたいものがあったわけではなかったので、
うんと遠回りをして(地図で道筋をたどったらたぶん三角形)
頼まれものの用が足りる、スーパーと書店が並んでいるところへ。

書店を長い時間物色していたんだけれど、
冷房がつよめに効いていて、
気の抜けた格好をしていたせいもあって、
なんだか体が冷えてしまった。
文庫のコーナーをぐるぐるまわっていたら、
同じくぐるぐるまわっているひとがいて、
結局私が会計をするまでそのひとはいたものだから、
ひとりで気まずくなったりした。
それから、仏壇の花と食パンを買って帰宅。
渋滞の長さも短くなっていた。

買ってきたのは梨木香歩「からくりからくさ」。
友だちがこのひとの本が好きなようだったから、
前にエッセイを読んだことはあったけれど、小説ははじめて。
買って正解。とてもよかった。
ひとのつながりに混乱しがちだったので、
次に読むときはメモを用意しておこうと思う。
その前に「りかさん」を買ってしまいそう。

「からくりからくさ」やドラマの「すいか」のように、
何人かが共同生活する話が好きだと思った。
あ、「LA QUINTA CAMERA」もそうか。
単に日常のあれこれだけでもおもしろい。
もちろん、そういう生活へのあこがれもあると思う。

そういうつながりで、
映画にもなった群ようこ「かもめ食堂」を探しているけれど、
図書館にも本屋にもない。
文庫になるのを待つしかないか。

それにしても「ロッソさん」の装丁はきれいだった。
凝っているのにさりげない。
最近、本を読む目のほかに、本の外側を見る目ができるのを感じている。


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