カフェの住人...

 

 

第十話 〜ひねくれ者見参〜 - 2003年08月29日(金)

彼はとってもひねくれものだった。



でもなんだか憎めない。



知人の紹介でと言い、一人ふらりと訪れた。

バンダナを頭に巻いて、どことなくライダー風な姿の彼は

実際バイクには乗るが、こだわりは一切ないらしい。

ツーリングなんかはキライという。

何故バイクに乗るのかと聞けば

「かっこいいから」

それだけ。



釣りに行ってきたと言い、ルアーまで手作りしているので

そんなに好きなの?と聞けば

「暇だから」

それだけ。



時にはウエスタン調な姿に、いかついダミー拳銃を腰にぶら下げ、

はたまた番傘を差し、浪人風で。

その次は綺麗なビーズでみんなにストラップを創ってくる。



とっても愉快な人なくせに、なぜか本人はいたって

「別に」

というスタンス。

なにせ、いつもそんな感じで答えは返ってくる。

それも、面倒臭そうな口ぶりで話すのだ。


おもちゃみたいな楽しさを沢山持ち、気さくな笑顔があるというのに。

この住家も、彼からしてみたら秘密基地みたいなものなのだろうに。



なんでか、素直じゃない。



実は単に照れ屋で、つっぱってしまうだけだけみたいだ。

本当はここが大好きに違いない。

だから彼は毎週のようにここに通い

イベントがあればちゃんと来るのだろう。

だから、彼の方が少し年上だのに私はいつも

「本当は嬉しいくせに」

そう言っている。

これは私が彼に対しての口癖となった。







ある雨の静かな夕方。

その日は沈みこんだ顔で黙ってコーヒーを飲んでいた。

そしてこうつぶやいた。



「本当に俺にも幸せはくるのかな?」



彼がなにをそんなに寂しがるのかは分からなかった。

ただの甘えだけで言っているのではないのだけは分かった。

いつもはちゃかす私であったが



「大丈夫。信じればね。」



その言葉しかでてこなかった。





その頃からだろうか

最近、少しずつ正直になってきた。

すると占いや、おみくじなど

やるものやるもの大当たりを引き始めた。

いじけた彼に、神様はチャンスを与えたかのごとく

「あなたはラッキーな人間なんだよ」

そう言っているみたいだ。



まだまだ信じるのが怖い彼は以前と同じ口調で



「たたりなんじゃねーの?」



なんて言うけれど。



でも・・・

とっても顔が穏やかになってきている気がする今日この頃です。





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第九話 〜豆の伝道師〜 - 2003年08月19日(火)


住人でいて欲しい人がいる。

今までに、二回は来てくれた。

でも、それは本人が望んで来た訳ではなく

私が呼んだ人だ。


それは、この住家に無くてはならない

‘コーヒー’ の豆を注文しているところの主任さんだ。



もう何年前になるだろう。

そう5〜6年前、私が長野の美術館の喫茶ルームにいる時

突然営業に来た、とあるコーヒー豆メーカーとの出会いからだった。

その時、その人はまだ主任さんではなかった気がする。


丁度、それまで卸してもらっていた豆に不満を感じていた。

けれど、なかなか業者を替えるとこまでいかないでいたという

そんな時。

飛び込み営業で来たその30代も半ばの男性は

童話に出てきそうなほどのくしゃくしゃの笑顔をしていた。



とりあえず話を聞き、

飲んでみなければ分からないといって、試飲させてもらう事になった。

豆の特徴や価格の話をしながら

しっかりエプロンをし、コーヒーを煎れ始めた。


最初に蒸らす為のお湯を注ぐと、

豆達はモコモコとふくらみ、ぽこっぽこっ、と息をする。

私は驚いた。

初めて‘生きている’コーヒーを見たのだ。

とてもとても、いとおしそうにポトポトとお湯を注ぐ彼。

豆もそれに答えているかの様だった。


煎れたての琥珀色のその飲み物は

あたたかく、愛情がたっぷり入った味がした。


その時点ですでに虜ではあったが、

思わずそんな彼に色々話を聞いていた。

なんでこの会社に入ったのか? や、

これから何かやりたい事があるのか? など・・・

年齢に似合わず、妙に落ち着いていたその人は

さり気なく、自然に話をしてくれた。

「名前(企業名)を売るより商品を売れ」

そんな感じの頑固な創立者から出来た会社だそうだ。

独特の焙煎方法と、全て職人の手によって創るのを守り

派手ではない、本当に気に入ってくれる人達に扱って欲しい・・・

それを心から伝えるのを誇りにしている彼に

ますます好感を持った私は

一も二もなく契約をお願いする事にしたのだった。



それから、私がその職場を離れても

時々個人的に注文したり、友人にも紹介したりしていた。

そして、

「いつか店をやるならここの豆」

そう決めていた願いは叶い、今こうしてある。


本当は、東京の配送センターへ注文しなければならないところを

私は、その今は山梨にある工場の主任さんとなった彼から

直接送ってもらっている。

ここの開店時には、山梨からここまでちゃんと研修しにも来てくれた。

このご時世で、生真面目にやっていく難しさも聞くようにはなったものの

私はこれからもここの豆を代える気はない。



今日も ‘生きた’ コーヒーと語り合う。

ちょっと気を抜くとご機嫌斜めにもなる、そんな豆達。

だからちゃんと、主任さんから教えてもらった

大切なものは大切に伝えなければ。


どうかあなたにも届きますように・・・って。


何でも相談できるし、とにかくその人が好きなので

私は勝手に住人にしてしまっている。

そんな場合もあってもいいでしょう?


だから、彼は「豆の伝道師」










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第八話 〜土と友の人〜 - 2003年08月10日(日)


この住家に欠かせないアイテムはいくつかある。

皆が心地よくなる為のもの。

その一つが ‘器’ 


陶器で出来たケーキ皿や、カップ達は

ある人の所で生まれている。

実はこの住家ができる前から私はその陶芸教室に行っていたので

先生であるその年も近い彼とは友人だった。


ここからそんな遠くない場所で、看板も出さず

もう何年もやっている。

自宅の地下に掘ったボロボロの小さな教室は

なんだかやっぱり‘秘密基地’みたい。

雑然と土やバケツが並び、傾いた棚には生徒さん達のや

彼自身の作品が危なっかしそうに並んでいる。

そして、時々通る電車以外

窓のむこうには畑と奥にある森しか見えない。



私はここが大好き。

教室の合間の3時には、

みな形や大きさの違うカップにお茶っ葉を直接ばさばさ入れたら

そこにお湯を注いで、葉が下に沈んだところで飲む。

小さくFMラジオから流れる音楽を聴きながら

ほこりっぽい土の香りと共にブレイクする・・・



さらに、

自分の習う時間も曜日も決まっていないので

好きな時に行く。

作るものが決められていないので、

勝手に好きなものを作る。

こっちから何かを聞くまでろくに教えてもくれないので、

無意味な時間も多い。


こんな教室をやっているのだから、やっぱり不思議な人なのだ。


ぶっきらぼうな言い方をするのだけれど、本当はすごく気を使う

そんな人。

何を考えているか全く分からないけれど、本当はいつも一生懸命

そんな人。


こんな彼が創る作品は、色や素材はシンプルだけど

ちょっと変わった形の物や

手作りっぽさが溢れた作品ばかり。

作り手の顔を知っている器を使えるというのは

とても贅沢なような、嬉しい気分。


でも、友人の私としては

「こんなんで結婚できるのかしら・・・」

などど、ちょっと心配だったりもしているけれど。


けれど、ずっとこうして心地のよい無意味な時間や

自分自身そのものを創造できる喜びを教えてくれる、そんな場所と

彼らしい世界であり続けて欲しいと思う。


これから彼はまたこの住家にどんな器を創ってくれるのか楽しみだ。




また今日も一人こう言った。

「ここのお皿は素敵ね」

ってね。




















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第七話 〜生みの親・そしてもう一人の住人〜 - 2003年08月04日(月)

生みの親。

それは、私達のもう一つの住家である

この場所を見つけてくれた人。

一番初めの住人である私も、この人がいなかったら

こうして今ここにいない。


私はこの彼女を親友だと思っているのだが、

付き合いとしては16歳からなので

まだ16年しか経っていない。

生まれてから出会うまでの時間とようやく同じになった。


今までその彼女とは喧嘩をした事がないし、

しばらく会っていない時期もあった。

けれど、これほどまでに身内以外で

私という人間を信じてくれている人はいないのではないかと思う。


この住家も、彼女がたまたま下でやっていた駄菓子屋に来た時に見つけた所だ。

ボロボロではあったのだが、ピンときたという。

そして、すぐに私に連絡をくれたのだった。

「すごくいい場所見つけた!」

「naomiなら素敵な店にできる!」

そう言ってくれた彼女。

こうして、それから半年も経たないうち

この場所は誕生した。


初め、彼女はここを一緒にやるくらいの勢いではあった。

ところが、それと同時にお腹に子を宿した。

ただ見守るだけにはなったが、常に彼女は私の喜びと同じ量で

楽しみ、喜び、時には心配もしてくれている。



あれほど気性が激しく、大胆な行動を取る彼女が

夫であるあの人と出会ってから、不思議なほど柔らかくなった。

一度の喧嘩もなく、ただの一度たりとお互いキライになった事がない夫婦。



先日そんな彼女と

不幸な事件が多くなった・・・ などというやりとりをしていた時の事だ。

「世の中に対して不満だらけな人達に、あなた達を見せてあげたいよ」

そう言った私に、こんな返事が返ってきた。

「私は愛する旦那と子供と友達だけが自慢なんだ」

キレイ事では無く、彼女の本心からの言葉だった。



私はなんだかジンとするものを感じた。

そう・・・

愛する人に囲まれているだけで充分なのではないだろうか?

確かにそれ以外あるのだろうか?

信じあえる力とは、これほどまでに人を強くしてくれる事があるだろうか?

『それだけ』というのを楽しそうに言える彼女。

愛は本当の心を満たしてくれる。

そう教えてもらっている気がした。



今日、その最愛の息子の二歳誕生日だ。

生まれる前から彼もここの住人。

私とは一番目の住人の座を争う仲、ということになるのかもしれない。


天使くん

生まれてくれてありがとう。

私が愛す、彼女を幸せにしてくれて。

Happy Birthday to you♪


私も君と同じくらい彼女ら家族を愛すよ。

これからもずっとね・・・







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