ひとりびっち・R...びーち

 

 

確信 - 2003年07月15日(火)

 というわけで、前夜ひとりびっちをアップした後も、気になる会話の空白に該当するもの(または事柄)は何かについて、びーち家の探究は続いたのである。

 インド人とカレーに匹敵する組み合わせについて考察するのはいい、そしてイギリス人と紅茶はかなり納得のいく近似値だといえよう。
 しかしである、会話を交わしていたのは日本人の青年二人であるという前提が抜け落ちて、明らかに論点がズレていっている。

 いいかね、お嬢サン、私が現代文の試験問題の出題者だったら、似たようなトラップを仕掛けるだろうということだ。
 騙されてはいけない、うっかりイギリス人と紅茶にマークする奴はバカと選別されることになるんだぞ。

 などと、これまた後輪ドリフト級の論点のスライドをかましつつ、そろそろ寝るかぁ・・とつぶやいたところで、ふと私の頭に浮かんできた考えがあった。

・・・・・・・

 「犯人は必ず犯行現場に戻る」というか、いや、違う、「灯台もと暗し」というべきか・・・ねぇ、びー子、もしかしたらカレーじゃない??
 あの年頃の男の子でカレーが嫌いっていう子、聞いたことないよねぇ。

 うんうん、おかん、それは鋭いかも。

 以下は、我々が想定した彼らの会話である。

・・・・・・・

 (缶ジュースを運び終えた台車をガラガラと押しながら青年AとB)

 青年A:なあ、今日昼メシ何にするよ?

 青年B:そうっすね、午前のラストってW駅でしたっけ?

 青年A:そやな

 青年B:じゃ、あそこのカレー屋のランチどうっすか?

 青年A:俺、カレー駄目

 青年B:えーっ? 先輩マヂっすか?

 青年A:あんなウ○コみたいなもん、喜んで食うやつの気がしれんわ

 青年B:いや先輩、日本人でカレー食えないって、ソレありえないっすよ

 青年A:だって、インド人でカレー嫌いなヤツもいるやろ?

・・・・・・・

 これだ。

 そうだね〜 おいらもそんな気がしてきた〜

 いったん「カレー」だとなると、それ以外のケースが思い浮かばないよな。

 うんうん、決定〜!

 さ、寝よ、寝よ

 靴下は・・・ま、いっか。


...

倍返し - 2003年07月14日(月)

 一日も終わり、夕食後の団欒。

・・・・・・・

 私: そういえば今朝なんだけどさぁ
 すれ違いざまに会話の一部だけが聞き取れることがあるじゃん?
 で、それが妙に引っかかる一言だったりするっていうケース

 娘: あ〜ソレね〜、あるある〜!

 私: U駅の通路でさぁ
 自販機のジュースを運ぶお兄ちゃん二人組とすれ違ったんだけど
 その片方がこう言ったんだよね〜

 「だって、インド人でカレーが嫌いなヤツだっているやろ?」

 気になるっていうかさぁ
 その前に何を話していたのか、大体見当はつくけど特定はできないじゃん。

 大多数の人が毎日食べているものを彼が嫌いだったということがわかって、相棒が突っ込みを入れて、それに対するリアクションって考えると辻褄は合うよね。
 でも、インドのカレーに匹敵するようなブツって何だろう?
 ・・って、ずーっと考えちゃったわけさ。
 ねぇ、ねぇ、何だと思う??

 娘: うーん・・インドでカレーときたら、日本は何だろう? 醤油とか?・・

 私: 醤油かぁ・・ちょっと漠然としすぎてないか?

 娘: っつーか、現代文の問題みたいだよ、ソレ

 私: 何が?

 娘: ある文章があって、その前が空白になっていて、その空白に該当する文をア・イ・ウ・エの中から一つ選びなさい、っていうヤツ。

 私: なるほどね〜 でも、今回は選択文が示されてないからさぁ
 彼が大阪人でタコ焼きが嫌い、とかだとピッタリはまるんだけどなぁ
 イントネーション、関西系だったし・・

 娘: だからぁ、おいらも今日似たようなことがあったんだよ〜
 予備校の前で信号待ちをしてたら、隣りに立ってたおじさんがさぁ

 「いや、やっぱり靴下だ」

 って、ポツリとひとりごと・・
 そんで、10秒後ぐらいに青信号に変わって、フツーに渡っていったんだよね。

 私: うわ、ソレ、めっちゃ気になる〜〜!
 「いや、やっぱり」って言うからには何かと靴下を比べたはずだよな〜
 う〜 靴下に競り負けたブツって何なんだぁ〜?

・・・・・・・

 気になることを娘に話して半減させようと思ったのに、あろうことか倍になって返ってきた。

 そして、この数日前の懸案事項を、今夜も二人で考えている。

 インド人とカレーに匹敵する組み合わせについて、だ。

 「ドイツ人とジャガイモ」

 うーん、イマイチ。

 「中国人と餃子」

 えー、中国だと、餃子ってたぶん一部の地域だけだし、むしろ日本人と餃子の方がポピュラーなのでわ?

 「イギリス人と紅茶」

 を! それはかなり近い!

・・・・・・・・・

 そして夜は更けていく。

 娘は明日予備校の「バカ選別テスト」を受けるらしい。

 だいじょうぶか? お嬢サン・・
 



...

laundry - 2003年07月10日(木)

 コインランドリーの小さなベンチに座り、缶コーヒーを片手に一服する。
 ここはヒミツの小休止をする場所なのだ。

 ・・・・・・・

 春の日、慣れない職場をへとへとになって出た。
 自分のデスクもなければ、お茶を飲む場所もない。
 もちろん、煙草を一服できる場所もない。
 新学期を迎えて、慌しく仕事に追われている先生方には指示を仰ぐ隙もない。
 だから、さしあたって何からはじめればいいのか、仕事の内容も見えてこない。
 ただただ緊張して、他の人の邪魔にならないように規定の時間を過ごさなければならないというのは、芯から気疲れがした。

 一刻も早く腰をおろして、コーヒーが飲みたい、そして煙草が吸いたい・・。
 そんな切迫した気持ちで駅までの道を歩いていたときに見つけたのが、小さなコインランドリーだった。

 入り口には2台の自動販売機、3坪ほどのスペースに洗濯機が5台と乾燥機が2台ひっそりと並び、中央には小さな白木のテーブルと同じ材質のベンチがある。
 粗大ゴミの中から持ってきたダイニングセットという感じで、安物の黒いプラスチックの灰皿がひとつポツンと置いてあった。
 晴天続きの春の日には利用する人もいないのだろう、打ちっぱなしのセメントの床はかすかに下水の匂いがしていて、カラーボックスに無造作に積まれたマンガ本にもしばらく人に読まれた形跡はなかった。

 誰からも忘れられたような静かな静かな空間。
 オレンジ色の日よけのテント越しに西日が射してうらぶれた感じがいい。
 洗濯をしないのに座りこむのは経営者に申し訳ない気もしたが、緊張と疲労を洗濯しているんだから、この際缶コーヒー1本の売上で勘弁してもらおう・・。
 4月のうちは、そんなことを考えながら、帰り道には逃げ込むようにしてそこのベンチに座りこんでいたのだった。

 しかし、梅雨に入ってコインランドリーが賑わう頃には、そのベンチにへたりこむことも少なくなった。
 はからずも数多くの職場(戦場?)を経験してきたことで、環境に順応するチカラが人一倍ついていたようだ。
 4月の最終週には3つの勤務先それぞれで、自分専用の塹壕(机と椅子)も水場(コーヒーを飲める場所)も確保したし、仕事のペースもつかめるようになっていた。
 まるで各地を転戦するゲリラか傭兵のようだよね、と、友人に話して笑えるようになったのだった。

 ・・・・・・・

 今日は霧のような雨が降っている。
 調子に乗って仕事を引受けすぎた傭兵は、2時間の超過勤務を終えて、ひさびさにランドリーで一服している。
 乾燥機が1台、色とりどりの洗濯物をくるくる回していて、洗剤のいい匂いがする。
 道路の向こう側、雨に濡れて青々とした生垣に、クチナシの花がひとつふたつ、水の中の星のように白く浮かびあがって見える。

 もうすぐ夏休みだ。



...




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