| My Cup Of Tea...POO |
2日目 雪印の回し者 - 2003年02月11日(火)
寒いんだよコンチクショウ！
スーツケースにつめたホッカイロ40個。
今日からお前たちの出番だよチクショウ！
というわけで、
ストッキングはいてロングソックスはいてスボンはいて、
アンダーシャツ着てタートルネックセーター着て毛糸カーディガン着て、
コート着てマフラー巻いて手袋して帽子かぶって。
背中に貼るホッカイロ。
スニーカーの中にもホッカイロ。
ポケットにでっかいカイロとデジカメ。
これであまりの寒さにデジカメの電池がお亡くなり、
という最悪の事態を防ぐ腹積もり。
それでも寒いんだよエエイチクショウ！
今日も曇り空。ちらちらと雪が舞う。
顔が凍る。
外気に晒されている頬がまずいことになっている。
皮膚が上につりあがって、天然顔ギプス。
一定表情から表情筋を動かせない。
はじめて、雪が雪印で降りてくるのを見た。
コートの上の雪が、完全にはっきりとした結晶体。
大きいものでは小指の爪くらいの固まりもある。
溶けずに、ほろんほろんと布から滑り落ちていく。
感動して、顔固まったまま大喜び。
しばらく色んな形を観察し続けていた。
なんでこんな形になるんだろう、って不思議科学少女に戻ってしげしげ。
雪はスキーで滑って、まるめて相手に投げて、
楽しむもんだと思っていた。
これ自体がこんなに楽しいものだったとは。
クリスマスの飾りなんかで、雪の結晶の形したものを見かけるのは、
ちっとも誇張ではなく、
こっちの人にとっては当たり前のことだったんだね。
溶けない雪の結晶が無数につもって行く様を
思い浮かべてうれしくなった。
すてきすてき。
日本に帰ってもしばらくは、
雪印の会社ロゴ見ては感動してるんじゃないかと思う。
今日は博物館めぐりの日。
地図読み担当のぽちの背中にくっついて、
まず王宮へとてとてと。
正門ミヒャエル門を中心に見据える王宮は
白くて優雅で、まるで立派につくりすぎてしまった砂糖菓子のようだ。
門を通ると、おっとりとカーブを描く丸天井が内側から眺められる。
頭の良い路上音楽家のお姉さんが
天井の下、柔らかく美しい声で歌っていた。
反響が、ゆったりとした余韻と感情をつれてくる。
一瞬、寒さが丸みを帯びて優しくなった。
自分が一番美しくなれる場所を知っている彼女に感謝。
まずは王宮を通り抜けて英雄広場へ。
英雄の騎馬銅像が閑散と
芝生の公園ににょきんにょきん生えている。
英雄もなかなか大変なようで、
緑色の体を黒ずませて、鳩やら寒さやらに耐えていた。
英雄広場から二等立ての観光馬車が出ている。
乗らなかった。
まず、皇帝の居室へ。
でもドイツ語表記するとkaiserappartementsである。
王様アパート。上品だがそんなに大きな部屋はなく、
とくに王様の寝台はとっても小さかった。
天蓋も付いていないし、幅もつつましい。
さすがアパートメント、なぞと納得しながら
続いて宮廷銀器コレクションに行ったのだが、
こちらはすさまじい量の食器だった。
なかでも面白かったのが、伊万里焼のコレクション。
ほんとに伊万里焼なのかコレ？と突っ込みたくなるような
中国風の金縁取りが大皿の縁になされていたりして、
当時の偉い人たちの勘違いっぷりがたまらない。
ウィーン少年合唱団の拠点で有名な王宮礼拝堂は質素で
中では少年たちの合唱CDが流されていた。
たするのリクエストで国立図書館へ。
大ホールが見られた。
とても古くて広い昔の書庫で、
天井まで届く壁一面の書棚と、
書棚を上下二段に分ける形で半ばにめぐっている廊下と、
書棚のための木梯子と、
豪華な天井フレスコ画。
床には小柄な人間の背丈くらいの大きさがある地球儀が４つ。
当時、どれほど本が大切にされていて、
その知識と富の象徴を収納する場所が、
どれほどに大切だったかを思った。
この中で本を探せたら、とても誇らしく厳かな気分になるだろう。
物を知る、という権利は、
元々はとても贅沢で特権的なものだったのだ。
背筋が伸びた。
王宮を出て、街に戻る。
時計博物館へ。
時計の内部からさまざまな外側までがみられる小さな博物館。
怪しい東洋人の女の子が来たと思ったのか、
それとも何か話してお友達になりたかったのか、
係員のおっさんが、後ろからずっとついてきて
怯えた記憶だけがほとんど。
続いて隣の人形・玩具博物館。
アパートの一角を博物館として開放したもので、
小さな２部屋のなかには人形がいっぱい。
キューピーちゃんやぬいぐるみや陶器人形や市松人形や、
みんなこっちを見てました。
夜泣き必至。
そういえば、こっちの人は、人形を捨てるとき供養とかしないんだろうか。
訊きたかったが「人形供養」という英単語がどうしても分からず断念。
そういえばお昼食べるのを忘れた。
お腹はすいていないのに、足取りはふらふらしてた。
おもちゃを大学でお勉強しているぽちのリクエストで
おもちゃ屋に二軒入った。
一軒目でピーターラビットの絵本ドイツ語版を見つけ、
一冊目の「ピーターラビット」と
それから私が一番好きな「二匹の悪いねずみのお話」を購入。
それからひよこのぬいぐるみのキーホルダー。
顔が上向いている子を一目ぼれして、買った。
二軒目は木のおもちゃが充実。
特にHABAというメーカーがメジャーらしく、山ほど揃えてある。
ぽち大興奮。
クレジットカード、すなわち魔法のカードでお買い物。
私も木の時計のブレスレットその他数点お買い求め。
昼も喰わなかったんだから
さすがに夜はウィーンの名物を食べなきゃ、ってんで
フィグルミューラーという店に出かける。
混んでいて席がなかったが、もう一軒支店を教えてもらい、
無事に席確保。
ウィーンはシュニッツエルというカツレツが名物料理の一つで、
この店はそのヴィーナー・シュニッツエルの有名店。
当然それを食べに来たので、
当然それ、プラス小さなグリーンサラダを三人前頼んだら、
当然のように店員さんは注文を取って店の奥に消えたのだが、
当然のように店員さんが持ってきた皿を見て、
うちら、作り笑顔半分で凍結。
となりのテーブルの親子連れが笑い出すのが聞こえる。
ソレを店員さんはでんでんでん、と三人の前に据え
グーテンアペティートすなわち召し上がれとにっこり笑顔でのたまい、
うちらを置き去りにして消えて行ったよ。
ち、ちょっとちょっと店員さん、置き去りにしないでよ。
なんなのよこれ。
カツレツだけが皿一面を覆っているじゃないか。
ってかカツレツが皿からはみ出てるじゃないか。
ってか肉が皿からはみ出て垂れ下がり、
挙げ句テーブルについているじゃないか。
ちなみに皿は、普通のサイズの皿です。
「…肉座布団」
「…うんこれ肉座布団だよ」
「…肉座布団だよね」
どうやら豚肉を叩いて薄く引き延ばし特大サイズに仕上げたものに、
パン粉をつけて揚げたものらしかった。
あまりの大きさと大雑把さに、
一体どうやって切ったらよいのかすらもはや分からない。
私はとりあえず中央から折りたたみ、
二枚がさね戦法に出ることにした。
レモンをかけていただく。
カツはからっと上がって熱々で、なかなかのご機嫌なお味だった。
･･･最初は。
「･･･ねえこの国の人ってさ
どうして美味しいものが美味しくなくなるまでの量を出すんだろうね」
「･･･うーん」
「･･･うーん」
次第に満腹中枢との戦いは激しさを増し、
食べても食べても減らないカツレツに目はうつろ。
ぽちはどうやって切れば楽しい形のカツになるだろうかという
美術哲学の世界に逃げ込み、
たするは奇声を発し無言になり、
私は虚空を見つめて、妖精と会話。
最後の数口が、非常につらい。
噛むまでは行くのだが、そこから喉を通らないのだ。
しかし、たするが最初に完食。
負けじと私も完食。
ぽちはリタイア。
もうなにがなんだか涙目である。
恐怖、肉座布団。
その夜私は、刑事物の夢を見た。
何かに追われていたんだろうか。
-
ウィーンにやってきました。
たするとぽちと女３人旅です。
ウィーンまでは成田から飛行機直行便で12.5時間かかります。
エコノミー症候群血栓恐怖と戦う丸半日。
なぜそんな遠いところに行ったのかって？
ドイツに行きたいからに決まってるさ！
ってオーストリアの首都に来てまで叫ぶ内容ではないですが。
要はオーストリア航空のチケットが安かったので、
ウィーンを踏み台に、ドイツに攻め込もうって魂胆さ。
オーストリア航空。
安いから結構覚悟していったのですが。
値段なんてお構いなしに景気良く、
フライトアテンダントさんの制服が、全員残らず真っ赤っかでした。
女性なんて、ストッキングも靴もバックもみんな真っ赤。
しかも、数少ない日本人乗務員は愛想がいいんだけど、
大半のオーストリア人クルーは、
なんだかやたらに疲れていました。
エコノミー症候群が話題になってからなのか、
水やらジュースやらをのせたお盆をさかんに持ってくるのですが、
ずんと目の前につきだして、有無を言わせず取らせます。
「だ、ダンケ」とか言って
とにかく友好関係を結ぼうという日本人の性。
微笑んで相手の目を見るのですが、
ちっとも笑ってもらえない。
ふんぬふんぬと突き出される水やってくる水を断れず、
水攻めひっそり阿鼻叫喚。
途中でお腹は大浸水だっぽんだぽん。
さっさと寝るなよ、たするとぽち。
私だけオレンジジュースとトマトジュースとアップルジュースと日本茶と紅茶と水とオレンジジュースとアップルジュースとううううう、ぐぼっ。
静かに溺れる私の席は、機内の最後部。
その後ろ、乗務員控え室からは
さかんに笑い声が漏れていました。
離陸直後から遠慮なく漏れ聞こえてくる乗務員同士の英語の会話は
「ああ疲れちゃった」
「日本どこ行ったの？」
「日本のハンバーガーはさぁ」
とか、
まるで楽しい修学旅行の世界が繰り広げられていて、
放置プレーされているこちらとしては、
びくびくと目を見交わすしかございません。
･･･だいじょうぶなのか。この修学旅行生もどきに、親から頂いたこの命預けて果たしてだいじょぶなのか。
お食事の時間がやってきて、
乗務員金髪お兄さんが、
お食事のお盆を陽気にかつ乱雑にお投げ出しになりました。
たするの机の上でくるりと華麗に一回転半。
「sorry」とか軽く呟きながら、
お兄さんはかっこよく去って行かれました。
ひさしぶりに「びびる」という言葉を軽く思い出しました。
いつもより多めに回っております、の機内食の量は、
今まで乗った航空会社のものより適量で、
美味しかったです。
たぶん男性には足りないんじゃないかと思うなぁ。
と考えていたら、ちゃんと用意されていました、補助食。
男性たちが、カップラーメンをもらっていたのですが、
ほんとにカップラーメンでした。
カップヌードルではなく。
日清ラ王サイズの。ででーん。
多すぎるだろソレ！のラーメン眺めながら、
もしかしてもしかして、この航空会社、ちょっと面白いのかも、
と、
しみじみ思い至りました。
命預ける会社にコネタは必要ないんですけれど。
お願いだから、事故だけは起こらんといてくれ。
何のなぐさめか、機内自体はハイテクで、
ひとりひとりにテレビがついていました。
ディズニー「美女と野獣」を繰り返し５回見たら、
機内にクラシックワルツが流れだし、
ウィーンに到着。
一生分の野獣のアップ顔を見ました。
すべからく満足。
到着は午後4時半。
時計だけ見ると、日本を11時半に出発してから５時間しかたってないんですが。
どうなんだろうこのお腹のたぷんたぷん感。
窓の外は曇っていましたが、
雪は積もっていませんでした。
シュベヒャート空港と言います。
口に出して
シュベヒャートシュベヒャートシュベヒャートと唱えているうちに
腹が立ってくるのは私だけでしょうか。
シュベってのも気が抜けて腹立たしいし、
挙げ句にヒャートです。なんと人を小馬鹿にした響きなんだヒャート。
顎をつきだして、ヒャート。ああいやだヒャートヒャート。
喧嘩売っているとしか思えないほど、浮世離れした名前しやがって。
自分の子どもにだけは、絶対シュベヒャートという名前を付けないぜ。
って、要は、
なかなか覚えられない名前を付けられて、すねてるだけですごめんなさい。
そのシュベヒャートは閑散として、活気はそれほどありませんでした。
去年の沖縄旅行の那覇空港と同じ気配。
立派な施設からは、すなわちシーズンオフの香り。
さっさと荷物受け取りに向かうと、
日本到着便の荷物が流れ出していました。
乗客はまだあまりそこまでたどり着いていないご様子。
人もまばらで、荷物だけが、ごとごとごとごと。
バッゲージクレームの荷出し方法って
おそらくどこの空港でも共通だと思うのですが、
ゴムのベルトコンベア帯の上をスーツケースが流れていく方式です。
受け取り人がいないと、荷物は一度戻り口から奥に戻っていって、
また流れ出し口から吐き出されるのですが。
が。
そのバッゲージクレイム。
がつん。
ごん、ごん。
と不吉な鈍い音が響きわたっていまして。
うちら３人遠くで立ちつくして、呆然とすることには。
戻り口から戻っていくはずの荷物が、戻っていかないのでありまして。
状態だけを率直に申しますと。
山積み。
もっと正確に申しますと、
山積みになりつつある途中。
何かが戻り口をふさいでいるらしく、
やってくるスーツケーススーツケース、
前の荷物にぶつかっては止まり、
ぶつかってはベルトからはじかれて床に転落死、
ぶつかっては乗り上げ、
うわあ。
スーツケースおはじき。
空港職員だれも助けに行かない。
「すげえ」「すごい」「すごいね」
三人三様にぼんやりと呟いていると、
ぽちが我に返って慌てて掛けだしました。
彼女のスーツケースはおはじきのただ中にあったらしく、
ひっぱりだして、戻ってきました。
で、また、立ちつくして「うわあ」「うわあ」「うわあ」ってんで
次第にひどくなっていくおはじきを
ただひたすら笑うしかないまま眺めていました。
気がついて写真を撮ろうとしたその時に、
気の毒なツアー客がわらわらと私たちの背後から走り寄って
遭難した自分のスーツケースを救出。
シャッターチャンスは逃しましたが、いいもの見せていただきました。
飛行機といい、荷物といい、
「なんかこの国ってさあ、大雑把じゃない？」
「うんザッパーだ」
「ザッパーだ」
ってんで、入国して10分でオーストリアのキャッチコピーは固まってしまいました。
そしてそれがあながち間違いでないことを
翌日以降私たちは確認することになります。
空港からウィーンの中心市街地までは、
バスで30分。
旅行中の英会話および移動・ホテル手配担当の私、
バスチケットオフィスのおじちゃんにチケットくださいって英語で話しかけたら、
「イエス、マドモワゼル」って陽気にいわれて密かに有頂天。
マドモワゼルですってマドモワゼル！わたくしマドモワゼル！
この国ザッパーだけど結構いい国じゃぁないですか。
ご機嫌なままバスに乗り込んだけれど、
中心市街地までの道のりは、
どんよりとくもっていて、あまり心弾む景色ではありませんでした。
ウィーンの中心市街には古い町並みが残っているのですが、
その周りはすっかり工業地帯。
銀色の円柱がいくつも建ち並び、煙を立ち上げ、日本の工場の眺めと大差はありません。
古い灰色がかった石造りの町が見えてくると、
そこが目指す観光地ウィーン。
いきなり日焼けサロンが見えたりして、
自分勝手な観光客としてはちょっとげんなりですが、
とにかく、バスから降りて、約1�辧�
スーツケース引いて、夕暮れの中をひたすら歩いて、
シュテファン大聖堂のすぐそばのこぢんまりしたホテル「ロイヤル」に到着。
部屋に入った頃には、空と建物の灰色が心の中にまで浸みてきて、
正直、すこし重苦しい気分になっていました。
気品のある街の人気のない夕暮れ、
というのは文字にすると格好良いですが、
慣れない黒髪の異邦人にはわりとしんどいかも。
クラシックなお部屋はかなり大きくて、古い書き物机なんかがあって、
結局、満足。
夜、食べ物を探し求めて散歩。
ウィーンは店が閉まるのが早く、
飲食店・スーパー以外は６時に閉まります。
そこからがナイトライフの時間。
楽器を持った路上音楽家たちが寒さにお構いなしに、
あちこちで演奏会を始めます。
大通りは日没直前よりもむしろ人が増えた印象。
疲れも凍るほど街の空気は寒く、
ナチュラルハイ気味に突入した我々は、
ライトアップされた通りのウィンドウをのぞき込んでウィンドショッピングし、日本製のデジカメの高価さに驚愕し、
ノルドゼーというはやりのシーフードサンドウィッチ屋で
オープンサンドをお持ち帰り購入。
私はざっくり切ったパンに、小エビと卵を挟んだサンドウィッチ。
うっかり７時を過ぎてしまったのでスーパーも閉まり、
困った私たちは、結局ホテルの前のマクドナルドに駆け込み寺。
無愛想な店員の兄さんに
コーヒーと、トマトモッツァレラタッシェン（トマトソースとチーズを包んで揚げた小麦粉団子）を頼み、
ホテルでもしゃもしゃと夕飯と相成りました。
初日からマクドナルドのコーヒーは、
万国共通のお味がいたしました。
ぺらーん。
ああ、うん。
ヨーロッパって遠い。
お腹が満たされたら限界君がずしんとやってきて、
時差ぼけお構いなしに、急速ターボでご就寝。
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