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終わらざる日々...太郎飴

 

 

- 2013年02月04日(月)

 果て知れぬ高い峰の頂き、その底ぐらい洞にマグロォルは眠っていた。太陽が老い、星々が年降り、エルダアルの身にさえ長きにわたる眠りであった。かれの言い分はかくのごとし。余はすでに見た。聞いた。歌い、語り、殺し、愛し、憎んだ。我が力の及ぶ限り。私の器は満ちた。ゆえにこれより先へは行かぬ。

 王家の殿ばら、星霜の智者の分別であった。
 だが運命の方も分別を知るとは限らぬ。死ですらときおり覚める、死ならぬ眠りなればなお。

 マグロォルの眠る洞穴はじめ山の高みあり、やがて大陸とともに海の底へと沈んでいった。洞は小石と粘土と海の生き物によってふさがれ、暗黒と海水に満ち、さらに年経ていった。人の世に数えうる歳月を超えて星霜は過ぎゆき、だがある朝、 マグロォルは目覚めた。

 世に絶して尊きエルダァルの殿、西の方ティリオンの都に生を享けたる光の君、フェアノォル王家の二の君、海山こえて力強い歌声を届かせる伶人、そしてまた幾重にもその剣を汚辱と罪業に染めたる咎人、まさにマグロォルそのひとが目覚めたのであった。

 ことはこのようであった。一人の――それとも一匹の――ドワーフが、己の種族のならいに従って山々に分け入り、貴重な鉱石を探してほっつき歩いていた。かれはつるはしと斧をベルトにはさみ、黒い頭巾をかぶって山襞に夜を明かし、夜明けとともにひときわ堅固な岩山を登り始めた。
 というのも、これに先立つ美しい夕べに、沈みゆく太陽が最後の一瞥にと投げた赤い光が、この岩山の頂きにかかったとき、きらり!なにか貴いものに触れて砕けてあたりをバラ色に染めたのを見たのである。ドワーフは夜の間中そのことについて考え続け、ついに呟いた。

「あそこには大きな石がある。貴い金剛石晶か、それとももしかしたらミスリルかもしれん。ちょっくら見てこなけりゃ」

 かくしてしらしら明けの、まだ星影が天頂に宿っている時刻に、ドワーフは岩山を登り始め、太陽がようやく地平から顔をのぞかせようという頃にはお目当ての場所へと、危険な、崩れやすい岩の上を這いながら近づいていた。

「なんてこった。手も足もずたずただ。ほい、馬鹿なことをしたかもしれんぞ。ミスリルが霧降山脈より他で見つかったことなどないし、金剛石なんぞ見つけた日には掘り出したり割ったり磨いたりする道具をどっから探し出したらよいものやら!つまらん水晶なら来る必要もなし!やれやれじゃが、とにかく光ったものが何か見てやらにゃあ帰れんわい」

 黒ツグミは――このドワーフはその名で知られていた――ぶつぶつこぼしながらも確かに夕日を受けて輝いただろうと思われる岩のもとへとなんとかかんとか這って行った。そしてそこで見たものに大いに仰天した。


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