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Montgomery Book

第6章 (5) 結婚への歳月
 パートナーを見つける時期が「遅れた」とみなされる人たちの頭上は、偏見という暗雲で覆われている。いくら世のなかがこなれてきて、女性の経済的自立が進んだとはいえ、「結婚適齢期」は実際、百年前と変わることなくあるのである。30をとうに過ぎて結婚していない女性は、男性側よりさらに何か問題があるのであり、そういう女性が増えると、独身男性が増えて子どもが減り、未来がおびやかされるらしい。なにも私を含めて独身女性たちは、良心に誓って、世界を滅ぼそうと結託しているのではないのだが。

 なぜこんなに強く書いているのかというと、モードの作品にも、しばしば晩婚のヒロイン、いわゆる「オールド・ミス」が登場するからである。それらのエピソードには、36歳で結婚したモード自身が、晩婚者の社会的個人的抑圧を味わった体験からくる、当事者にしかわからない心境がつづられている。

 自伝的小説「エミリー・シリーズ」でも、曲折を経て、当時にしては晩婚となったエミリーが、日記に心境をつづっている。困ったことに、苦悩のほとんどは、身近な既婚者によって与えられる「何気ない」社会的差別といっていい。私たちは共感とともに苦さをも感じずにはいられない。この百年、いったい何が変わったのだろうと。

この一族では、女にはたった一つの暮らし方しかないのだ。もちろん、看護婦や、教師や、仕立屋や、そういった職業について、結婚まえの期間を過ごすのは結構だ。しかし、ダークやペンハロウの人々は、そういう者を一人前に扱ってくれないのである。

/『もつれた蜘蛛の巣』(上)

 いわゆる中年男女の恋愛や結婚について書くとき、同じ道を歩いたモードのペンには、やさしさというインクが多少なりとも加えられているように思える。小さなコミュニティの独身女性にとって、結婚することがどれほどの社会的地位を約束するかも含めて。当節はやりの嫌な言葉に「勝ち組」「負け組」というのがあるが、モードは、世間で「負け組」と目されている独身者たちが、やがて愛情にもとづいた幸せな家庭を手に入れる姿を好んで描く。誰とどのように結婚するかは、早い遅いのちがいよりも、もっと大切な選択であり、「遅れてきたハッピーエンド」は、20代に読む20代のロマンスとはまたちがった意味でリアルである。

 短編「奮いたったルドヴィック」(『アンの友達』収録)の主人公、ルドヴィック・スピードは、15年も恋人にプロポーズができなかったという記録をもっている。皮肉な名前の示すように、これほどスローな結婚もない。愛し合っている相手テオドラ・ディックスがいるにもかかわらず、である。それに輪をかけて長い記録をもっているのが、『アンの愛情』に登場するジョン・ダグラス。交際期間はなんと20年。その陰にはなんともやりきれない理由があったのだが、それにしても20年とは。

 『アンの愛情』には、スキナー夫人という太った年配の「新婚婦人」が、馬車での道中に青春まっさかりのアンに語って聞かせる夫選びの見解という意外なエピソードも配され、アン自身や友人たちのロマンスだけでなく、さまざまな女性たちの結婚観がうかがえる。

 前出の『アンの友達』には、他にも「隔離された家」「オリビア叔母さんの求婚者」など、「遅れた」結婚をテーマにした作品が収められている。前者は、男と犬ぎらいで通っている48歳の女性教師ピーターと愛猫が、女と猫ぎらいの農夫アレキサンダーとその愛犬とともに、一つ屋根の下に隔離されてしまう話。ふたりの丁々発止のやり合いに笑いつつも、ハッピーエンドにしんみりさせられる、完成度の高い小品である。

 後者は、もう誰もが結婚と結びつけなくなったオリビア叔母さんが、きれい好きで几帳面な叔母さんとはぜんぜん性格のちがう昔の恋人とついに結婚するまでを、若い姪の目を通してコミカルに描いている。

 『アンの青春』で昔の恋人を一途に思いつづけたミス・ラベンダーの結婚は、他の「遅れた」結婚とは一線を画した、象徴的な夢のロマンスといっていい。年齢を超えた無邪気さと美しさをたずさえた、世捨て人のような暮らし。アンの仲介によって、「魔法の城へ王子来たる」という章の見出しどおりに、事は進む。ただし、夢見るアンとミス・ラベンダーのそばには、14歳の現実的な独身女性、シャーロッタ四世がいて、バランスをとっている。

 そして、なんといっても、圧巻なのは、ミス・コーネリアの結婚だろう。『アンの夢の家』で、新婚家庭をもったアンとギルバートの隣人として登場し、以降の作品にも顔を出す彼女は、口を開けば男をこきおろす女権論者。彼女の言い分を聞くと、女性が結婚しないのは、当然、だらしない男性に責任があるということになる。

 だから、まさか結婚だけはするまいに、と思われていた彼女が、意外な人物(もちろん男である)と電撃的に結婚するニュースは、村人たちにとっても、私たちにとっても、めったに味わえない「号外」だったのである。しかも、この20年、指一本でそうできたのだと。彼女は、長男ジェムが生まれたばかりのアンにこう言う。

立派な男に育て上げなさい。数がわずかで貴重ですからね。

/ミス・コーネリア(『アンの夢の家』)
参考文献
2003年03月25日(火)


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Keika