ケイケイの映画日記
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2010年10月28日(木) 「ナイト&ディ」




いや〜、面白かった!トムちんとキャメやん主演のラブコメアクションなんて、10年前ならいざ知らず、いくらスター俳優でも旬は過ぎてるなぁと思っておりました。ところがどっこい、「大スター」はモノが違うのだ。ドキドキハラハラ、笑って笑って胸がキュンとする、どこを切っても楽しい作品です。監督はジェームズ・マンゴールド。

空港で帰宅を急ぐジューン(キャメロン・ディアス)は、ハンサムなロイ(トム・クルーズ)と二度ぶつかります。ロイと同じ飛行機に乗り合わせたジューンは胸をときめかしますが、トイレで気合いを入れてお化粧直しして出てきたら、機内は死体の山。仰天する彼女をなだめすかして、機体を不時着させるロイ。以降謎めいたロイに翻弄され、ジューンの身にも危険が及び続けますが、必ずロイが助けてくれます。

巻き込まれ型アクションコメディです。ロイは実はFBIの捜査官なのですが、頭がおかしくなってしまい、組織から追われているというのです。なるほど〜。高速道路で走行中の車(それも死体付き)のフロントガラスに、いきなりへばりついて、「ハ〜イ、ジューン!」と白い歯をキラ〜ンとさせるとこなんか、確かに頭おかしいわな。ハンサムで爽やか、でもどこか怪しいいロイは、トム自身のセルフパロディっぱくてドンピシャです。

危機また危機の連続ですが、この展開も「007」並みにあり得なさ満点ですが、ハラハラの中にユーモア満載で、とっても楽しめます。二人がバイクに乗って拳銃をぶっ放すのは「トゥモロー・ネバー・ダイ」を彷彿させます。てか、パクってたのか?他にも列車のシーンも「007」風のアクション満載です。

「007」並みに現実感がないのは、あり得ない状況でどんな風に危機を潜り抜けたか、足手まといのジューンは眠らされるので、描かれないのでわかりませんでもそんなこたぁ、どうでもいい!大事なのは、おぶったのか抱っこしたのか、はたまた安全な場所で寝かせていたのか?必ずロイはジューンを危機から救ってくれると言う事です。やっぱりね、男って女を守ってなんぼのもんよ。それがハンサムでカッコ良くてお金も持っていて(多分)なら、多少怪しくても気にしない気にしない。「ナイト&ディ」のナイトがknightなのは、そういう意味なんですねぇ。

キャメロンも気が付けば38歳。ブロンドのファニー・フェイスで明るさ満点のアメリカの恋人型女優の彼女も、アップになれば歳がいったなぁと、残念ながら思います。しかし!チャーミングさにおいては、その辺の若い女優なんかを圧倒する輝きが、今もって健在です。思えばキャメロンのキャラは、知的ではないけどバカじゃない。愚かかも知れないけど一生懸命。必至というより夢中という言葉が似合う人です。そんな彼女のキャラとジューンは、これまたぴったり符合します。

トムも何度も書くけど私は大好きな人です。怪しさも胡散臭いのも含めて、ハリウッドスターらしい人ですよ。48歳、大御所なのに未だに渋さもなくて軽いまま。でも軽薄ではないと思います。確かに容姿は若干衰えていますが、まだまだ充分ハンサムです。10年前の二人なら、見栄えはもっと良かったかもしれませんが、中年と呼ばれる年代になった「大スター」が演じるから、グッと来る味わい深さがあったと思います。年いったからって、侘び寂びばっか求めなくてもいいわけですよ。そう感じると、同じ中年のこっちも、先が楽しみになるんだなぁ。

ピーター・サースガード、ポール・ダノもいい味出してます。ラストはず〜とナイトだったロイが、ジューンに出し抜かれますが、それもちょっと今風の男女感でポイント高し。すっごく楽しい娯楽作です。デートムービーにぴったりだと思うなぁ。お相手のいる方は、どうぞ週末ご覧になって下さい。


2010年10月19日(火) 「乱暴と待機」

久しぶりの更新です。10日にこの作品と新しい方の「ヌードの夜」を観ましたが、出来はこっちの完全勝利でした。シュールでオフビートな笑いの中、不器用な男女の恋心が、おかしくも胸がキュンとする切なさで描かれています。監督は富永昌敬。

古びた平屋の借家に引っ越してきた番上(山田孝之)と妻あずさ(小池栄子)。あずさは妊娠中ながら、番上が失業中の為、スナックのママを続けています。近所へ引越しの挨拶に出向いた番上は、隣家の奈々瀬(美波)の挙動不審な様子に少々引いてしまいます。しかし彼女はあずさの高校の時の同級生で、同居している兄と称する山根(浅野忠信)とは血は繋がっていないと聞き、俄然興味津々に。あずさは昔諍いがあったらしい奈々瀬に、一方的に暴力をふるいます。

舞台みたいだなと思っていたら、舞台劇の映画化だそうです。なるほど全員が少々オーバーアクト気味ですが、微妙なさじ加減で調節していて、この辺は感心。私は浅野は下手だと思っていますが、今回声色を変えて、劇画チックな棒読み演技は、山根のキャラにとても合っており、ヒットでした。

四人しか登場人物がいないのですが、その内三人が尋常では考えられない変な人です。その中のたった一人残る「普通っぽい」番上なんですが、失業中のヒモ夫のくせに、奈々瀬にちょっかいを出す最低男と来たもんだ。それなのに、変に描けば描くほど、登場人物たちの複雑で切ない胸の内が浮き彫りになるのです。この感情が非常に現実的で生々しく、クスクス笑いながらも段々「あぁ〜わかるよ〜」と、全ての人に感情移入してしまいます。

激情型で気の強いあずさは、昔の怨念忘れ難く、執拗に奈々瀬に暴力をふるいます。それも妊婦なのに、窓ガラスに自転車放り込んだり、包丁持ち出す刃傷沙汰を起こしたりすごいのなんの。それに超ふてぶてしい。段々お腹がせり出すとね、妊婦って誰でもある種ふてぶてしくなるもんなんですよ。子供を我が身からひり出すと言う事は、それほどの免罪符をもらってもいいことのはず。しかし哀しいかな、彼女の夫は失業中で酔客相手に夜の仕事をせねばならず、人から同情を一身に受けてもいいはずなのに、何故か気の強さとふてぶてしさばかりが浮き上がる。

「だってお前、強いもん」とは番上が妻に向けた言葉です。強いわけないじゃん!「私はいつだってこうよ・・・」。守ってあげたい風情の女には、負けてばっかりの人生のあずさ。甲斐性のある女性を常日頃羨ましく思っている私なのですが、こりゃ女としては両刃の刃。番上のようなダメンズを引き当てて、苦労する目も大いにありってか。この辺の切なくも激しい女心を、小池栄子が絶妙に演じています。

びっくりしたのが美波。こんなに上手な子だったのか?と感心しました。何度も出てくる「私って面倒臭い女なんですよ」のセリフ以上の、奇々怪々に近い不思議ちゃんなんですが、人の気持ちばっかり考えていないで、もっと自己主張しなさいよと、励ましてあげたくなるわけ。ただの変な子ではない痛々しさがあるので、もうホントに庇いたくなってくる。でもあずさの真実味のある哀しさもすごーくわかる。この辺のあずさVS奈々瀬のコントラストは見事でした。

奈々瀬の役は難しいです。美波が超好演してくれたお陰で、何故彼女が今のようになったか、その謎が解き明かされていくと、繊細だけど独特の彼女の感受性に共感が生まれます。これは美しい人が演じないと魅力が半減する役です。期待に応えた美波に感謝したいです。

山根の摩訶不思議さも、最初は元から変な人なんだ、でしたが、奈々瀬との関係が明かされるに連れ、そりゃそんな体験をしたのなら、誰かに罪を着せたくなるだろうなと思います。そこから脱却出来ないのは幼稚なんですが、その幼稚さの裏に奈々瀬への思いがあり、童貞のまんまというのが、これまた純粋さに感じちゃうから不思議。理屈こねる大人子供っぷりが、上手いのか下手なのかわからない浅野の演技と、これまたマッチしていました。

変で過激で不思議な上記の人たちが、押し並べて純粋さを発揮して輝くのに対して、ただ一人普通の人の番上が不純さ出しまくりなのも、絶妙でした。彼がダメンズのままなのは、妻がしっかりし過ぎて甲斐性あるのがいけない。男ってこうなりますよ。リアリティ満点。この状況での情けなさ全開は、最大公約数の男性にあてはまらないか?最後は結局あて馬だったのかよ、の結果に、ちゃんと手痛いお仕置きもあり、よろしいんじゃないでしょうか?

面白くてやがて哀しき、というのは、世話物に多い気がします。この作品も描き方は過激でヘンテコですが、中身自体は舞台の借家のような、レトロで庶民的な青い鳥を探す姿や、恋しい人への思いを、切なくも屈折して描いていたと思います。拾いものでした。



2010年10月03日(日) 「ミレニアム2 火と戯れる女」&「ミレニアム3 眠れる女と狂卓の騎士」




2と3と30分の休憩を挟んで、はしごしてきました。「ミレニアム ドラゴンタトゥーの女」の出来の良さに、待ち望んでいた続編公開ですが、う〜ん。「3」でかなり持ち直したものの、「2」は完全に「3」の繋ぎで、凡庸な出来でした。事前に知らなかったのですが、どうも監督がニールス・アンデル・オブレヴから、ダニエル・アルフレッドソンに代わったようです。物足りなさは残るものの、ノオミ・ラパス演じるリスベットの魅力は盤石で、それなりに色々感じる事は出来ました。

リスベット(ノオミ・ラパス)と共にヴァンゲルグ事件を解決したミカエル(ミカエル・ニクヴィスト)は、晴れて「ミレニアム」誌に復帰します。新進の若手ジャーナリストが追う少女売春を記事にしようと決まった矢先、そのジャーナリストと恋人が殺されます。殺害場所には、リスベットの指紋のついた拳銃が残され、彼女が重要参考人として手配されます。リスベットの無実を信じるミカエルですが、人と信頼関係が結べないリスベットは、独自で真犯人を捜索します。そこには彼女の忌まわしい過去の秘密が、隠されていました。

膨大な原作なので、脚色が大変なのは、未読でも観ていてもわかります。それが今回は裏目に出て、いっぱい要素を詰め込みながら、スピートアップしているはずなのに、何故か画面は冗長に感じます。テンポが悪いんですね。次々展開するんですが、盛り上げ方に工夫が薄く、まるで壮大なダイジェスト版を見せられているようでした。

後半で前作に出てくる、リスベットの少女時代の秘密が明かされます。この辺も、もっと非情で突き刺さる感覚が欲しいところです。「3」でとある人物がリスベットの背景に対し、「まるでギリシャ悲劇のようだな」と語ります。本当にそう。なのに画面から受ける印象は、唐突に秘密が明かされる韓国ドラマや、昔の大映テレビのドラマです。うーん、もったいない!

退屈だなぁ〜と思って気がついたのですが、今回ラストまでリスベットとミカエルの接触はなし。スリリングな凸凹コンビぶりが魅力だった二人ですが、今回は一度メールして、あとはラストにやっとです。この辺も物足りなさに拍車をかける。まぁこれは原作通りでしょうから、仕方ないかなぁ。

と言う思いを残し、30分休憩ののち、スクリーンを変えて「3」です。

リスベットは九死に一生を得て、今は病院に収監されています。彼女の背景には、実はスウェーデンを揺るがす秘密が隠されており、お話は国家規模にまで発展します。

動きが少ない「3」の方が、俄然盛り上がりました。過去の社会的背景はスウェーデンのことなので、イマイチ実感には乏しいのですが、何とか咀嚼は出来ます。それより嬉しかったのが、「3」では作り手が何が言いたいのかが、実感出来た事です。原題の「女を嫌う男たち」でもわかるように、スウェーデンのDVや売春は、社会問題として重要課題なのでしょう。今作でもリスベットを初め、容赦なく女たちが殴られなぶり者にされます。そして権力を持った者は、死が目前の老人であろうとも、その力を手放さそうとせず、他人を威嚇し誇示し死守することのみに盲執するという、醜態を見せます。

しかしここでサブキャラたちが大活躍。誠実で患者の事を第一に考えるリスベットの男性主治医。リスベットの過去を知り、弁護士としての正義感に燃えるミカエルの妹。リスベットのために頑張る、多分引きこもり気味であったろうリスベットの友人のハッカー。そしてリスベットを静かに見守る元上司。職務に忠実で優秀な公安などを配置し、一人一人の市井の民の気慨が、国を変えて行くのだと描いています。

そしてリスベット。裁判の場面の気合いの入ったゴスメイクと特上パンクないでたちは、彼女にとって正装なのです。私は前作では自分の心を隠す仮面だと感じていましたが、「3」で法廷へ向かう彼女の堂々とした姿は、武士で言えば鎧兜なんだと思う。思えば、こんなに殴られ血みどろになるヒロインは、かつてなかったでしょう。彼女の過去が暴かれるにつれ、その並はずれた逞しい生命力と、自分を見失わなかった太い精神は、本当に見上げたものだと感じます。たった一人で生きてきた彼女が、何度も口に出そうとしてためらった、他者への「ありがとう」の言葉。この言葉が、ついに彼女から発せられた時、私の胸にも温かいものが広がりました。

彼女に「感謝している」と答えたミカエルですが、その感謝の心は、編集長で恋人のエリカの、「仕事に命を賭けるの?」だったと思います。脅迫され、明確に安全を選ぶエリカに対し、ミカエルの心は真逆だったはず。社会正義を市民に伝達することに命を賭けるのが、ジャーナリストの使命だと決心したのでしょう。それは重く辛いリスベットの過去が、ミカエルを奮い立たせたのだと思います。

しかしノオミ・ラパスは素晴らしい。作品中で何度も容姿をコケにされますが、この貧相な容姿からは想像がつかない、スケールの大きな女優さんです。ハリウッドで出演作も決まっているそうですが、すんごく楽しみです。女優の流れを変えるかもしれない逸材だと書いたら、褒めすぎかな?「2」を観ないと「3」の流れがわからないのが痛いですが、リスベットファンなら、やはり観ておきたい作品ではあります。



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