一橋的雑記所

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2006年03月18日(土)



――また、この夢か。

夢の中でその先に起こる事が分かっていながら。
それでも、止まらない、動けない。
じわじわと肌を圧するような熱気と蝉の声。
地道をガタガタ揺れながら走る自転車。
狭い視界の中、流れてゆく景色。
それが一瞬の内に、大きく傾いて。
投げ出される。

纏わりつく、冷たい流れ。
息苦しさの中、見開いた目にきらきらと光る空。
それとも、水面。
苦しいのに、綺麗だと思った。
遠くなる意識の中、とても綺麗だと思っていた。
それを最後に、失われていく世界。
穏かな、諦めるような気持ちはでも。
始まった時と同じ位唐突に引き戻されて。

蝉の声は同じ、なのに、体中がまるで。
氷を当てられたように、冷え切っていて。
背中の下、ごつごつとした岩だけが熱を帯びていて。
眩しい空のどこまでも澄んだ青に目を細めた時。
視界を、濃い影が覆いつくした。
頬に触れた手は、やっぱり冷たくて。
その指が震えながら唇をなぞるのも、冷たくて。
身震いした瞬間、その影が大きく揺れた。

――………。

声にならない呟きが聴こえて。
それに応えるように、無意識に言葉が零れ落ちる。

――……泣いて、るん……?

かすれた声が自分のものだとは、どうしても、思えなかった。



目覚ましの音がなる前に、飛び起きる。
着慣れた夜着の背中が張り付くように濡れているのが分かる。
反射的に振り返った隣の布団は、既に畳まれている。
その事にほっとすると同時に体中の力が抜けて、再び、布団に仰向けに倒れ込んだ。

「……久々、や、なあ……」

声にしてみた言葉は、酷く擦れている。
幼い頃から繰り返し見る夢はいつも恐ろしいほどリアルで息苦しい。布団の中、唸りながら四肢を伸ばしたり縮めたりしている内に、それも少しずつ薄れてゆくのだけれども。
子どもの頃、法事で出掛けた先で自転車ごと川に転落するという事故を起こした、らしい。
らしい、というのは、自身の頭の何処をどう探してもその時の記憶がどうしても見当たらないからなのだった。
姿が見えない事に気づいた大人たちが探し出した時には、河原の大きな岩の上に寝かされていて、その傍らには、同じくずぶ濡れの綾ちゃんが佇んでいたという。けれども、前後の出来事含めて何もかもがすっぽりと抜け落ちていて、夢で見ている場面が実際のものなのか、人伝に聞いた話が再構成されて作られたものなのかすら、わからない。
一つ分かっている事は、それ以来、自分ひとりで自転車に乗って出かけることが出来なくなったという事実。
誰かが併走してくれれば……もっというと、綾ちゃんさえ一緒ならば大丈夫なのだ。一人きりだと、3分と立たない内に酷く不安になって、何処にもいけないまま引き返したくなる。
高等部へ進学した当初には何度か試したけれども、未だに克服できないまま、現在に至っている。

「……まあ、ええか」

あれやこれやを思い起こした後苦笑い混じりに呟いた頃には、随分と頭がすっきりとしてきていて、その分、夢の中の光景は更に希薄になる。
一つ大きく伸びをして、布団を勢い良く跳ねのけた。





えーと。
続いてるのかどうなのか、さっぱり(何々)。


一橋@胡乱。 |一言物申す!(メールフォーム)

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