ちょっとハードな仕事の疲れと、檄ハードな空腹のせいで眩暈を起こし電車の手すりにしがみついていたワタクシ。 「もう少し、あと3駅で降りるんだから」 都内を走る山手線の3駅はわずか五分ほど。もう少しで、家について夕御飯だ!体がヘロヘロなら思考能力もヘロヘロ。残っているのは「飯食いてぇ!!」という本能だけ。 その危険な本能が車内の空気を察知した。
だ、誰か食い物持ってる〜〜〜!
しかもその匂いといったら、出来立て熱々だ。なんだろう?ファーストフード店のフライドポテトか?いや、違う。もう少しふんわりとした匂いだ。なんだ? 『匂い』に関連した記憶は、人間の持つ記憶力の中でも、一番しっかりと保存されているそうだ。 ワタクシの中にもあるはず。何処かで嗅いだことがあるはずだ、探せ! 何か、こう……ふんわりと柔らかそうな匂い。でも、ケーキのような甘い匂いではない。でも、粉モンっぽい。お好み焼き?いや、それならばソースの匂いが強烈なはず。なんだ?あっ!たこ焼きかな?そうだ、たこ焼きか〜!
見れば、隣に立っている夫婦が、それらしいパックを入れたビニール袋を提げている。たこ焼きの匂いに包まれたかのようで更に意識は朦朧となった。
ようやくワタクシが下車する駅に着いた。たこ焼きの幻影と闘っていたワタクシは、開いたドアから流れ込んでくる寒の戻った夜風に助けられ現実に戻った。 人の流れと共に、たこ焼きも流れる。 ワタクシは、たこ焼きと共に下車したのだった。たこ焼きを連れた夫婦は乗り換えをするらしく、ワタクシとは違う方向へ歩いていった。 記憶が強められた、たこ焼きの匂い。
発車アナウンスに紛れて、ワタクシの腹がぐぅぅと鳴った。
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