一平さんの隠し味
尼崎の「グリル一平」のマスターが、カウンター越しに語ります。


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2004年01月16日(金) 第二部  その5

 

第二部  その5


「早く!一平さん早く!もうーそこまで来てる!足・足・その右足の下に踏んでるのが、タマ!早く!」

「あああ!これや!」・・・・・・私は足に敷いてた柄の長い網を取って、トシちゃんに渡そうとしたら、

トシちゃん、あわてて、直角に曲がった竿を見ながら、私の方を向こうともせず、必死に声をあげて、

「アカン!片手でタマを待たれへん!一平さん!チヌの頭が見えたら頭のほうからその網で、すくって!」

私はタマを両手で、しっかり持って!浮かび上がろうとするチヌを待ってました、・・・今でも憶えてるのは

その時、私は一瞬!頭をよぎったんです、

(このでかい、チヌを釣り上げたらたら、それこそ優勝やわ!みんなビックリするやろなー)・・・と、

それを思った瞬間!上がってきそうな、そのチヌは、ふたたび最後の力を振り絞り海底に向かって、

沈もうとしたんです。トシちゃんが・・・「オオオーエエエーまだ、凄い引きやんか」・・・・・そのとき、

イカダをつないでるロープが何本かあるんですけど、そのロープには貝がいっぱい、くっ付いてて、

その貝に糸が触れたのか・・・・・・・・・・・「プツン」・・・・・・・・・・・(あああああああああああああ)

神様は私がちょっと甘い考えをしたことを、見逃さなかった!海の神様は怒ったのでしょうね。

トシちゃんは、呆然と海の底をじーっと見ていた、立ちっぱなしの体から力が抜けていったように

腰からストン!と、座った!周りのみんなから・・・「おしかったなー、」「へこむわなー」

いままで躍動美に染まってた、あの竿が、ただ、ただ、まっすぐに伸び、その先からテグスが30センチほど

垂れてるサマは、何と虚しい光景でした。・・・・そして・・・トシちゃんが私に言ったんです・・・、

「すいませんでした、上げれなくて・・・タマぐらい教えとかな、あかんかった・・・」

私は・・・言葉もなかった。


                  またこの次










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