雑念エンタアテインメント
モクジ 雑念
車に彼女を乗せたのは、オレ。 一緒に後部席で、彼女と話してるのもオレ。 なんだろう。 さっきまで、こんなじゃなかったんだけど。 酒が回ってきたかな。
「あのぉ・・・大丈夫なんでしょうか・・・・こういうのって。」
話しの合間に、心配そうな声で彼女が聞いてきた。
「そこらへんは、心配しなくて大丈夫、大丈夫。 いざとなったらタクロウが、どうにかしてくれるから。(笑)」
オレが言うと、タクロウは振り向いた。
「あのねえ、オレは、オマエのケツばっかり拭ってられないのっ。」
迷惑そうな顔。(笑)
「なーに言ってんの。 そういう役割、けっこう好きなくせに。(笑)」
“うっさい”と言って、また前を向いたタクロウ。 2人のやりとりで少し安心したのか、彼女は笑みを零した。
さっきまで眉間に皺を寄せていた2人。 彼女もオレも皺が、寄りっぱなしだった。 今、皺が寄ってるのは、お抱え運転手だけ。(笑)
彼女を乗せる、と言った時、開口一番に「ダメ」と言われた。 が、其処は、駄々っ子のオレ。 お抱え運転手は、渋々承知してくれた。
車は、彼女の家へ向かう。 幾つかの信号を超えて、何度か赤で止まり。 そのたびに彼女は、窓の外を眺めた。
黒いシートで覆われた窓からは、街が不透明に見える。 ビルに、人に、空に。 薄い幕が掛かったように。
「彼処、長いの?」
外を眺める彼女に問いかけた。
「え?店ですか?」
彼女は、突然、話しかけられたことに少し驚いたようだった。
(だってさ、タクロウは前で喋ってるから、つまんないんだもん)
「んー・・・長いって言っても、まだ3年目です。 あの中じゃ、まだまだ下っ端ですよ。」
「ふーん・・・彼処に、あんな店があるなんて知らなかったよ。」
「そうなんです。皆さん、そうみたいで。(笑) だから、芸能人の方、よく来られますよ。 彼女と来たり・・・怪しい感じです。(笑)」
「もってこいの店なんだ。(笑) 今度、オレも行こうかな。」
「其の時は、個室を用意させて頂きます。(笑) 今度は、失礼なこと言いませんから。(苦笑)」
大丈夫、もう気にしてないから―――
彼女が“此処で止めて下さい”と言って、結局、オレの言葉は遮られてしまった。
車が止まり、彼女は降りて、深々とお辞儀をした。 車が走ると同時に、彼女に手を振った。
「ねえ、タクロウ。」
「ん?」
「彼女の名前、なんだっけ?」
「さすがテッコさん、お目が早い。(笑)」
「違うよ。(笑) 次、行く時も同じ人の方が、いーなーと思ってさ。」
「ふぅん。(含笑)」
意味深な返事は無視して、隣の空いたシートに脚を伸ばした。
道が空いてるのか、街は形を変えて窓を流れた。
大丈夫。 下心なんて、全くないから安心してよ。
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