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| 2004年01月20日(火) | 第３３回 |
「第３章 貨幣または商品流通 第３節 貨幣 ａ 貨幣蓄蔵」の最初から原ページ147頁までを輪読し、討論しました。
第３節 貨幣
「価値尺度として機能し、したがってまた自分の肉体でかまたは代理物によって流通手段として機能する商品は貨幣である。それゆえ、金(または銀)は貨幣である。金が貨幣として機能するのは、一方では、その金(または銀の)肉体のままで、したがって貨幣商品として、現われなければならない場合、すなわち価値尺度のようにたんに観念的にでもなく流通手段の場合のように代理可能にでもなく現われなければならない場合であり、他方では、その機能が金自身によって行われるか代理物によって行われるかにかかわりなく、その機能が金を唯一の価値の姿態または交換価値の唯一の適当な定在として、単なる使用価値としての他のすべての商品に対立させて固定する場合である。」(国民文庫第１分冊229頁・原ページ143-144)
この第3節の前文について、最初に問題になったのは、価値尺度としての機能と流通手段としての機能の関係でした。「価値尺度として機能し、したがってまた…流通手段として機能する」とマルクスは述べています。ここから価値尺度として機能することが流通手段として機能することの前提条件ではないかという意見が出されました。そして、価値尺度として機能するのは、貨幣商品以外のすべての商品が貨幣商品の使用価値で自分たちの価値を表現しているからだということを確認しました。
つぎに 「一方では、その金(または銀の)肉体のままで、したがって貨幣商品として、現われなければならない場合、すなわち価値尺度のようにたんに観念的にでもなく流通手段の場合のように代理可能にでもなく現われなければならない場合」とはこの節でとりあげている「本来の貨幣」と理解できるが、「他方では、その機能が金自身によって行われるか代理物によって行われるかにかかわりなく、その機能が金を唯一の価値の姿態または交換価値の唯一の適当な定在として、単なる使用価値としての他のすべての商品に対立させて固定する場合」の「その機能」が何をさしているかということが議論になりました。結論的には、流通手段としての機能と理解すればよいのではないかということになりました。そして、価値尺度としての機能は、たしかに貨幣の機能の一つではあるが、それは貨幣であることの前提条件であり、貨幣であることの根底をなしていると理解すべきだとの意見が出されました。
しかし、流通手段のことだという理解は正しくなかったようです。【資料】の(大阪)『資本論』学ぶ会ニュース NO.43を読めば分かるように、「他方では、その機能が金自身によって行われるか代理物によって行われるかにかかわりなく、その機能が金を唯一の価値の姿態または交換価値の唯一の適当な定在として、単なる使用価値としての他のすべての商品に対立させて固定する場合」の「その機能」とは支払手段としての機能のことだと理解すべきでしょう。
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【資料】 本来の貨幣
蓄蔵貨幣は、商品の価値が自立化してものの形態をとったものである。それは、厳密な意味での「貨幣」であり、本来の貨幣である。
われわれはこれまで、商品が流通に現われるときに、貨幣が果たす機能を、まず価値尺度機能として、次に流通手段機能として、別々に考察してきた。しかし、商品世界で選ばれて貨幣となった同じ商品である金がこの両方の機能を果たすのであって、じつはわれわれは、貨幣であるこの金が果たす機能を、商品の運動に則して、二つに分解して考察したのである。この二つの機能のうちの一方だけであれば、そのどちらも、貨幣である金が現実に登場しないでも、果たされることができた。価値尺度の場合には、貨幣はつねにただ観念的な表象されただけの金であったし、流通手段の場合には、ほとんど無価値な紙券によって象徴的に代理されることができた。ところが蓄蔵貨幣という形態にある貨幣は、観念的な金であってはならず、象徴的に他の物によって代理されることもできないのである。それは、地金の姿であろうと鋳貨の姿であろうと、いずれにせよ生身の、現物の金でなければならない。つまり、ここでは、価値尺度としての機能と流通手段としての機能とのどちらの機能をも果たすことができる貨幣商品が現実に登場しているのである。その意味でそれは、「価値尺度と流通手段との統一」と呼ぶことができるし、またこれこそが真に貨幣と呼ばれるのに相応しいものだという意味で、「本来の貨幣」と呼ぶことができる。
(大谷禎之介『図解 社会経済学』103頁)
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【資料】 (大阪)『資本論』学ぶ会ニュース NO.43 2000年7月11日
◎第三節の「前文」が難物
前回から第三章「貨幣または商品流通」の第三節「貨幣」に入りました。この第三節には短い前文があります。しかしこの前文が難物なのです。なかなかそれを読むだけではストレートに意味が理解できないからです。第三節は三つの小項目に分かれています（ａ 蓄蔵貨幣の形成、ｂ 支払手段、ｃ 世界貨幣）。この前文はこの三つの項目全体に関わるもののように思えます。だから先に進まなければ理解できないところもあることは確かであり、より一層理解を困難しているといえるでしょう。この前文の理解については学習会では、大谷禎之介氏の「貨幣の機能（２）」を参考に議論し、何とか理解できたのではないでしょうか。ここで再度、同文書からこの前文の理解に役立つと思える部分を紹介しておきましょう。
まず前文はそれほど長くはないので全文紹介しておきます。
《価値尺度として機能し、したがってまた、みずからか代理物かによって、流通手段として機能する商品は貨幣である。したがって、金（または銀）は貨幣である。金が貨幣として機能するのは、一面では、それが、その金の（または銀の）肉体のままで、したがって貨幣商品として、現れなければならない場合、したがって、価値尺度におけるように単に観念的にでもなければ、流通手段におけるように代理可能なものとしてでもなく現れなければならない場合であり、他面では、金の機能が金自身によって果たされるか代理物によって果たされるかにかかわりなく、その機能が、金を、唯一の価値姿態または交換価値の唯一の適当な定在として、単なる使用価値としての他のすべての商品に対して固定する場合である。》
第三節の表題「貨幣」には訳注が付いていて、〈これは、Das Geld （貨幣一般、第３章の表題）ではなく、定冠詞のない Geld であり、「第三の規定における貨幣」とマルクスが呼んだものである〉とあります。つまり日本語では同じ「貨幣」ですが、第三章の表題に出てくる「貨幣」と第三節に出てくる「貨幣」とは違った内容なのだというのです。何とも“ややこしい”ことです。ここで訳注が「第三の規定における貨幣」と述べているのは、第一節の価値尺度としての機能における貨幣を「第一の規定」、第二節の流通手段としての機能における貨幣を「第二の規定」とし、それに対する「第三の規定」という意味です。それはマルクスが別のところでは「貨幣としての貨幣」とか「本来の貨幣」と述べているもので、「生身の金、現実の金としての貨幣」ということです。価値尺度としての貨幣は表象されただけの観念的な金としてその機能を果たし、流通手段としての貨幣は鋳貨としての存在から象徴化し、紙幣等で代理可能なものでした。それに対して「本来の貨幣」はそうしたものではなく生身の金、現実の金そのものが貨幣になっているということです。
前文の中に出てくる「貨幣」は、こうした規定の「貨幣」なのです。そう考えて、前文をもう一度読み直すと何とか理解出来るのではないでしょうか？
なお新日本出版社の新書判のテキストの訳注では、フランス語版ではこの前文がすっかり書き換えられていると指摘されています。実際、フランス語版の前文は第二版より分かりやすく、それを参考に第二版の前文を読めば分かりやすいので、紹介しておきましょう。
《これまでわれわれは貴金属を、諸価値の尺度および流通の用具という二つの見地から考察してきた。貴金属は第一の機能を観念的な貨幣として果たすのであり、第二の機能では貴金属は象徴によって代理されうることができる。だが、貴金属がその金属体のままで、諸商品の実在的な等価物として、すなわち貨幣商品として現れなければならない諸機能がある。さらに、貴金属が自分自身で果たすことも代理者を通じて果たすことも出来るが、貴金属が常に、諸商品の価値の唯一適合的な化身として普通の商品の前に立ちはだかるという、別の一機能もある。これらすべての場合にわれわれは、貴金属が、諸価値の尺度および鋳貨としての機能とは対照的に、貨幣、または厳密な意味での貨幣として機能するというのである。》
これは非常に分かりやすいと思います。マルクスがここで〈貴金属がその金属体のままで、諸商品の実在的な等価物として、すなわち貨幣商品として現れなければならない諸機能〉と言っているのは、この第三節で問題になる一つは「蓄蔵貨幣」として果たす貨幣の機能であり、もう一つは「世界貨幣」として果たす貨幣の機能なのです。そして〈別の一機能〉である〈貴金属が自分自身で果たすことも代理者を通じて果たすことも出来るが、貴金属が常に、諸商品の価値の唯一適合的な化身として普通の商品の前にたちはだかる〉ものこそ、すなわち「支払手段」としての貨幣の機能なのです。これはどうしてそういえるのかは、その部分で問題にしましょう。
◎蓄蔵貨幣は貨幣の一つの機能ではない（！？）
私たちはマルクスの説明にもとづいて、「価値の尺度」や「流通手段」をそれぞれ「貨幣の機能」として理解してきました。だから「蓄蔵貨幣」も貨幣の一つの機能だと思いがちです。ところがそうした理解は間違いだと久留間鮫造氏は指摘しています。『マルクス経済学レキシコン』第13巻の「栞」（��12）を見るとそう述べているのです。次のように述べています
〈しかし、蓄蔵貨幣を貨幣の機能だと考えるのは間違っていると思う。蓄蔵貨幣は、貨幣が置かれている一つの状態、あるいは貨幣の一つの形態規定ではあるが、それ自身が貨幣の一つの独自の機能なのではない。／貨幣は、それが蓄蔵されている−−流通界から引き上げられている−−状態にあることによって、いろいろの機能を果たすことにはなる。例えば……（ここで久留間氏はマルクスからのいくつかの引用をしていますが、省略）……このよう、貨幣は蓄蔵貨幣の形態にあることによっていろいろの機能を果たしはするが、しかしこのことは、蓄蔵貨幣そのものが一つの独自の機能だということを意味するものではない。貨幣の第一の機能は価値の尺度であり、第二の機能は流通手段であり、第三の機能は−−蓄蔵貨幣ではなくて−−支払手段なのです。〉
つまり蓄蔵貨幣の機能（これは次回のテーマでもありますが）はいろいろあるが、しかし蓄蔵貨幣そのものが貨幣の独自の機能というものではないということなわけです。
◎紙幣も蓄蔵されるのでは？
さて「ａ 蓄蔵貨幣の形成」の第１パラグラフの議論の中で、参加者の一人から「紙幣も蓄蔵されるのではないのか？」という疑問が出されました。もちろん、現代の日銀券（不換銀行券）が通貨として通用している社会を想定しての疑問であり、直接、『資本論』が問題にしている単純な商品流通の貨幣をそのまま適用して論じることは出来ません。
しかし大谷氏は先の論文の「補論４」で「価値章標は蓄蔵貨幣となりうるか」というテーマを論じています。これはこれで興味ある問題なので少し紹介しておきましょう。 まず大谷氏はマルクスの『経済学批判』の「原初稿」から次の文章を引用しています。
《鋳貨は、それ自体として、すなわちたんなる価値章標として孤立させてみれば、ただ流通によってしか、また流通の中でしか存在しない。単なる価値章標は、それを貯める場合でさえも、ただ鋳貨として貯めることが出来るだけである。というのも、価値章標の力は国境のところで終わるのだからである。この場合には貨幣蓄蔵は、流通の過程そのものから生じる、もともとの休止点に過ぎない貨幣蓄蔵の諸形態、すなわち、流通に予定された、鋳貨の蓄えとしての貨幣蓄蔵の形態、または国内鋳貨そのもので行われる得る諸支払のための準備としての貨幣蓄蔵の形態以外まったく問題になり得ない。つまり、本来の貨幣蓄蔵は問題になり得ない。というのは、価値章標としての鋳貨には、貨幣蓄蔵の本質的要素が、すなわち、それが果たす社会的機能を別としても、ただ象徴的なだけの価値ではなくて、価値そのものの直接的定在でもあるが故に、特定の社会的関連から独立した富である、ということが、欠けているからである。したがって、価値章標にとってそれがそのような章標であるための条件となっている諸法則は、金属貨幣にとっは条件とはならない。というのも、金属貨幣は鋳貨の機能に縛りつけられてはいないからである。》
大谷氏が注目するのは下線の部分である。つまりここではマルクスは価値章標も「貯める場合」があることを認めている。ただそれはそれを〈鋳貨として貯めることが出来るだけだ〉と述べているのです。この〈鋳貨として貯める〉というのは、流通手段として使うために一時的に手元に置くということでマルクスが『経済学批判』で「鋳貨準備金」と述べているものです。すなわち次のように述べています。
《蓄蔵貨幣はを鋳貨準備金と混同してはならない、鋳貨準備金は、それ自身、つねに流通内にある貨幣総量の一部分をなすものであるが、蓄蔵貨幣と流通手段とのあいだの能動的関係は、この貨幣総量の増減を前提にするものである。》（岩波文庫版178頁）
だから価値章標が蓄蔵されるといっても、あくまでも鋳貨としてであって、すなわち流通手段として使うための一時的な休止点としてであって、その準備のためのものとしてに過ぎないこと、そのかぎりではその蓄蔵は流通過程から取り出されたものではなく、依然として流通過程内にあるものと考えられるのだと思います。
