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2004年05月09日(日) きらきらひかる

江國香織の『きらきらひかる』を読んだ。

子細ははぶくが、物語は笑子、睦月、紺、という3人を軸に展開してゆく。笑子と睦月は夫婦であるが、睦月は同性愛者で、紺が愛人である。

笑子は「情緒不安定」で精神科に通院歴がある。ちょっとしたことで機嫌をそこね、睦月にものを投げ付け、号泣する。まるでジェットコースターにのっているようである。一方の睦月は強迫的なほどのきれい好きであり、几帳面。「誠実」というと聞こえがいいが、嘘がつけない人である。

小説のなかで重要な位置をしめるのは睦月の愛人の紺である。紺は、気ままでいたずら好き、「我が道をいく」といったイメージのある青年である。2人はなぜか、紺を必要不可欠な存在と感じている。すなわち、睦月は紺を自分の一部のように感じており、紺とはなれてしまうことなど考えられないようだ。笑子もまた、紺と睦月の関係を許容しているばかりか、夫を奪う存在であるはずの紺の存在をどうしても失うことができないでいる。

おそらく笑子も、睦月も、表面的なふるまいは正反対だけれど、自分らしく生きてこられなかったという点で共通している人だと思う。2人はいつも他者からの期待をとりいれて自分をつくってきた。

そういう意味で、2人にとっての紺は、これまで自分のなかにありながら、その存在を認められなかったもう1人の自分なのだと思う。だから、彼らは失うことができないのだ。

小説の終盤、紺は突如失踪する。2人はとても動揺する。

このとき笑子は自分にコントロールできないもう1人の自分がいることに気づいたようだ。そして、そういう自分をこれまで抱きかかえてくれていた睦月の存在を、欠かせないものとして認識するようになった。彼女ははじめて睦月に自から抱きつき、また、再び姿をあらわした紺とともに「嘘は平気でつける」といって笑う。

睦月もまた、紺に失踪されるすこし前、「笑子ちゃんを傷つけた」といって殴られる。そのことで彼は、自分が笑子も紺もとろうとして、結局どちらもとれなくなって傷つけてきたことを思い知るのだ。そして戻ってきた紺と笑子の奇想天外な行動に驚きながらも、それを「上等じゃないか」と思い、これからもこうして生きていくのだと決断している。

これまで自分たちには意識できなかった影の部分をになっていた紺がいなくなったことで、2人はこれまで自分のなかにありながら、その存在を認められてこなかったもうひとりの自分を認め、彼(女)らと和解しはじめたのではないだろうか。

そのもうひとりの自分とは、彼ら自身の身体なのだと思う。


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