sasakiの日記
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2002年05月28日(火) だんだん


 何も言う言葉が  みつからなくなり
 黙ってることと  抱きしめること

   だんだんと  季節がうつり
   だんだんと  時がゆく  

 それぞれの人生は  それぞれに  
悲しいほどに  退屈です 

   だんだんと  季節がうつり
   だんだんと  時がゆく

     こんなことは  なかったよ  前までは   
     こんな事は  なかったよ  前までは


「G6,Am,G6,Am,2小節ずつ、10小節目のCM7,ここは食いませんので気をつけてください。イントロから間奏に抜けて、それが済んだら休憩しよう。」ディレクターの星川がバッキングメンバーにに声をかける。
 スタジオの中には照明のチーフの宇田川、音響の亀山、マネージャーの石原がリハーサルの進行に合わせてコンサートのプランを検討している。
 僕はその時焦っていた。
 レコードが発売され、その間を縫ってコンサートが組み込まれ、リハーサルが終わると全国へと出なければいけない。
 リハーサルはほぼレコードのアレンジそのままで行われ、今までやって来た音楽とは全く形態が違い最初から最後まで決められたレールの中で唄わなければいけなかった。取り決めがあまりないいい加減な音楽が懐かしかった。
 札幌の音楽と東京の音楽の決定的な違いは、僕の周りにいる連中はみんなプロだということだった。スタジオでもリハーサルでも兎に角スピードが違っていた。
 理解度。譜面があればもう何もすることがない。
 後は好きか嫌いかだけしか残らない。

 今まで使ったことのないコード、様々な決め、経ち位置の確認、どのタイミングでピンが当てられるか、きっかけの言葉、覚えなければいけないことが多くあり正直イヤになっていた。
 慣れただろう、とよく言われるが1年経とうが2年経とうがコンサートが始まる時期は何時だって憂鬱だった。
 ライブが楽しくって仕方がないなどというコメントを読んだり見たりすると信じられなかった。
 行ったこともない街で、見たこともない人の前に立ち唄を唄う。
 もう悪夢以外の何物でもなかった。
 まだ始まってもいないのに喉がからからだった。
 「石原さん、コーヒーもらえない?」石原は途中から顔を出したレコード会社の小川と話し中だった。
 「オーケー、一寸待ってな。」
 石原はほんの少し訛りが残っている。本人は消えていると思っているらしいが微妙なアクセントが言葉の端々にある。
 
 キーボードのキクちゃんがにやにやして近づいて来る。
 前髪がまっすぐに切りそろえられており髪型だけ見るとクレオパトラみたいにも見える。クレオパトラと決定的に違うのは目がいつも眠そうに腫れていることだ。
 「ササ、あのなあ、コーヒーってなあ、コにアクセントおくと北海道弁になってなあ、田舎モン丸出しになるぞ。東京の人はコにもヒにもアクセントないのな?コーヒー。いい?言ってみな?」
 「コーヒー・・・・」
 「そう。いい。北海道弁のコーヒーもカワイクっていいけどなあ。それと、イチゴもおんなじな。イにアクセント置くと出身地がバレるぞ。」
 「了解。
  注意するよ。
  ところで、キクちゃんてまだ学生なんだって?」
 「そう、女子大の音楽科。横浜にある学校。
  フェリスというところ。ササ、田舎モンだから知らないよな?」 
「うん、知らない。」
 「横浜来ることあったらその時は案内してあげるよ。
  ゆくゆくはアレンジャーになろうと思ってるんだ。」
 
 東京の友達第一号。
  




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