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■ 【マフィアに脅される】 の巻
11時に印刷所に寄り、カレンダーの追加制作を頼む。来週にオープン・スタジオを行うので、その景品にも使うので。
それからRafiのオフィスで、【Tokyo Doll】作品の返送作業。日本のクロネコヤマトさんの協力で、税関の手続きやらフォームの記入が簡略化された。ありがたい。ただ、内容物の確認に思ったより時間が掛かり、次の予定がある俺は先に失礼。あとはRafiに任せることにした。
午後2時、高級ブティックが立ち並ぶYorkville地区にあるギャラリー【H】でミーティング。これは急に、昨日決まったもの。
バイヤーの友人Joanに数週間前に渡した、俺のポートフォリオ(作品集)がギャラリー【H】のオーナーの目に留まり、すぐに会いたいと連絡を受けたからだ。
Joanと待ち合わせて【H】に着くと、玄関先で黒ずくめのスーツを着た、3人組のイタリア人が待ち構えていた。手には葉巻、スーツはどう見てもオーダーメイドのもの。何だ?コイツらは!?
ここからの俺は、まるでイタリアのマフィアもの映画に巻き込まれた主人公である。
ギャラリーに入ると、オーナーらしき初老の女性が、ワイン片手に手招きしている。「始めまして」と手を差し出すと、「葉巻は吸わないの?」と極上のダビドフを渡された。これが挨拶代わりなのか?
後ろを振り返ると、さっきの3人組がニヤニヤ笑っている。「Sure(もちろん)」と答えて、マッチで葉巻に火を着ける俺。
オーナーが3人組の1人を横に呼び寄せ、「彼があなたに用があるってよ」とだけ言い残し、席を立った。「やばいよ、やばいよ〜、この展開!」と内心ひきつっている俺を見透かすように、男は「音楽でもかけてリラックスしようか」と、オーディオのスイッチを入れる。
流れてきたのは、聞き覚えのあるピアノのコンチェルト。すると、男の1人を指し「この曲は彼の演奏だ」と言い、CDを差し出してきた。俺はあんまり詳しくないが、イタリアでは相当有名なピアニストらしいことが、CDのジャケットに記された「全曲集」という表記で分かった。
「私は、イタリアのコルシカ財団のCEOです。是非あなたの展覧会をやりたい。」
・・・・ポツリとつぶやき、じっと俺の目を見た。その目は、明らかに俺の様子を伺い、次の反応があるまでは決して視線を外さないという意思が読み取れた。
「もう少し、詳しい話を聞かせてくれませんか?」と答え、葉巻をグッと灰皿に押し付けた。現実離れした唐突なオファーに、そう答えるのが精一杯。内心、「有り得ねぇ〜よ、絶対」と思いながら。
それから男は、俺の今までの作品(多分ウェブサイト)を見たこと、経歴を簡単に調べさせてもらったこと(”Lets Have a dream"の寄付金額を知っていたことには驚かされた)、それにバイヤーのJoanの人間関係も調べたと言っていた。
向こうのオファーは、航空券は実費であること以外は、一切の費用を持つとのこと。額装や展示、ホテルや滞在費、それにオープニング会場には、さっきのピアニストの別荘を提供するという。その代わり、3枚ほどの絵を無償で財団に寄付すること。以上が基本的な条件。
即座に頭の中で「Nooooo!」サインが出た。まずこの状況で話し合うのが嫌だ。イタリアの文化かもしれないが、昼間からワインで酔っ払い、ギャラリー内で葉巻をプカプカさせ(絵にヤニが付くっちゅーの!)、後ろではオーナーと男がダンスを踊っている、そんな現実離れした状況での交渉は誠意が感じられなかった。
「大きな話なので、慎重に考えたい。第一、僕はあなたたちの事をよく知らないし、一体どうやって信用していいのかも分からない」率直にそう答えると、「OK, トロントに来る機会は来年早々にもあるし、その時には君のスタジオに行ってもいいかな?」と、変化球を投げてきた。
連絡先や、今後のコンタクトについてはJoanに話してもらい、一足先にギャラリーを出た。今までの俺の舞台が【ハリウッド・コメディ映画】だとしたら、この数十分は【イタリア・マフィア映画】に足を踏み込んだようなもの。
「何だったの!?怖ぇ〜よ、マジで!【ゴッド・ファーザー】かと思ったよ」
出てきたJoanに泣きつく(笑)。確かに疑心暗鬼なところはあるが、こちらも下調べをして、次の交渉に臨みましょう、というJoanの助言に一応、同意。
帰り道、ジャケットに染み付いた葉巻の匂いがツンと鼻を突いた。
2003年12月19日(金)
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