英語通訳の極道
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2003年04月23日(水) 留学しても英語ができない


アメリカに留学中、多くの日本人に会った。

大抵は1年か2年の短期留学者だ。大学の交換留学生。企業からの派遣。アメリカ文化に触れたいという夢を追ってきた人。専門分野の勉強・研究に来た人など、さまざま。

留学の目的は異なっても、多くの人に共通しているのは、留学中に英語を上手くなりたいということ。そして、留学当初は誰しも希望に燃え勉強にいそしむ。

ところが、留学も終わりになると、みんな表情が冴えない。日本に帰るのが憂鬱になる。英語が怖くなるのだ。

アメリカに来て3ヶ月もすれば、誰でも英語でそれほど苦労なく生活できるようになる。ショッピングもできれば、授業もわかるようになるし、テレビも楽しめる。

しかし、それは「英語ができる」というレベルとは程遠いものだ。限られた状況で用事を足すための決まり表現とパターンに慣れ、日常生活に困らないというだけ。知的な会話を楽しんだり、説得力のあるビジネス文書をまとめたり、即興でプレゼンをすることとは程遠い。

ところが、そういう留学・海外滞在者が日本に戻ると、彼らを見る日本人の目が違う。日本にいる人たちは、アメリカに一年、いや数ヶ月でもいれば、誰もが「英語ペラペラ」になると無邪気に思い込んでいる。だから海外帰国組は、期待と羨望が入り混じったプレッシャーを感じることになる。それを考えると頭が痛いのだ。

外国からの客人があれば通訳を頼まれ、外国とのやりとりの翻訳を頼まれ、あるいは、何かにつけて、「これは英語ではなんていうんだ?」と質問を受ける。これらが全部プレッシャーになる。

こうした期待と現実のギャップに直面し、留学・海外滞在経験者の多くが、日本に戻ってから落ち込んでしまう。そして、その苦悩を他の人たちは分かってくれない。こうした悩みを何人もの留学経験者から聞いた。

これは、事実だ。アメリカに一年やそこら留学しても英語プロとして通用するレベルの語学力など到底身につかない。まったく足りない。アメリカで生活するに困らない程度の語学力はつく。ここを誤解してはならない。日本にいる多くの日本人は誤解しているし、留学する本人自身も期待が高すぎて、自己嫌悪に陥る。

私の知り合いで、アメリカに4年間留学して優秀な成績で大学を卒業した女性がいた。しかし、4年経ってからも、5〜6語の短文以外ほとんど文法的間違いのない正しい英語をしゃべれない。留学してきたばかりの彼女は、「せっかく留学したのに、英語だけ勉強するのはもったいから学位を取りたい」と言っていた。目標は素晴らしい。しかし、学位は取ったものの、英語はモノに出来ずに終わってしまった。

留学生だけではない。結婚してアメリカに10年以上住んでいても、とことんブロークン英語しかしゃべれない人も何人も知っている。彼らは全員、アメリカで生活するには困らないのだ。しかし、文法・語法的に不正確で、限られた表現範囲のコミュニケーションしかできない。特に、話す、書くといったアウトプットの質が悪い。

帰国を前にして落ち込んでいる日本人留学生に向かって、私はよく言ったものだ。



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と。

アメリカにいる間は、「英語で」生活し勉強していた。その体験は貴重だ。しかし、日本に帰ると、自分の英語はまだ足りないと実感する。そこで初めて、目的をもって「英語を」勉強できる。

優秀な通訳や語学のプロになった人で、このように日本でがむしゃらに勉強しなおして一流になった人は多い。反対に、「私はダメだ」と簡単に諦めてしまい、せっかく留学したのに、帰国後たちまち語学力が衰退し、数年すれば英語を話すのも怖くなってしまう人もいる。

さて、留学経験者のあなたはどっち?


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