小学校の時は金管バンドに属していた。 トランペット担当である。
何故か知らないが、例えばピストン部にさすオイルや スライド部につけるグリスなどの、メンテナンス用品が慢性的に不足していた。 駅前の楽器屋に行けばあるのに、先生に頼んでもなかなか仕入れてきてくれない。 当時おれは楽器屋が身近にあることを知らなかった。 (というか駅前というのが、当時のおれの活動範囲外だったのだが。) 多分オイルとかは外国に注文しているのだと思っていた。
楽器もそうとう古いので、ピストンとかすぐに動かなくなる。 はっきりいって小学生は楽器の使い方が荒い。 ピストンを取り出して、ガンガンと机や壁にぶつける。 そういうおまじないのような方法で、ピストンが動かそうとしていた。
楽器というのは、いわば精密機械である。 そんなことをしていたら壊れてしまうのは当たり前だ。 実際おれも何度も楽器を壊してしまった。 ちなみにおれの友達のNくんはテューバのピストンをぼっきり折った上に そのまま卒業してしまった偉人である。
楽器を壊してしまうと修理にだすわけだが、それがメチャメチャ時間がかかる。 先生に修理を頼むと、二週間後まだ修理に出してさえおらず、 職員室に置いてあったりするのだ。
楽器は一人に一台割り当てられており、かなり不足していた。 つまり楽器を修理にだすと、その間代用の楽器はなく、友達の楽器を 借りて練習するとかしかなくなる。非常に不便だった。
そこで、なるべく修理にはださないように自分らでなおすことが多かった。 しかし、ピストンとか壁にガンガンぶつけたりすると、 なんとピストンが楽器の中に入らなくなったりするのだ! 無茶苦茶やりすぎである。 ここまで被害甚大になると、もう小学生の手には負えない。
・・・じゃあどうするか?
ここでようやく「ニコイチ」という言葉がでてくる。 要するに「二個で一個の楽器」ということだ。 まあ簡単にいうと、他の人の楽器から部品を盗んで自分の楽器に組み込むわけだ。
他の人の楽器といっても、すでに辞めてしまった幽霊部員の楽器なんだけど。 幽霊部員の楽器というのは、辞めてしまうだけあって、そうとう古い楽器が 割り当てられている。そのままはとても使えない。
しかし!部品は使用可能なのである。
こっそり楽器庫にしのびこみ、使ってない楽器ケースを開け部品をパクる。 そして音楽室で自分の楽器の部品と交換する。これで万事解決である。 たまには、現存する部員からオイルとかもパクったりしていた。 でもしょうがないのである、小学生らしくていいよね。
幽霊部員の楽器は、結局いくつもの部品に細分化されていた。 主にピストン付近の部品を失敬することが多かったように思う。
当時、ズームイン朝のニュースでこんなのがあった。
「二台の事故車の壊れてない部分から一台の車をつくる、 二個一車(ニコイチシャ)を売る悪徳業者が逮捕された」
そのニュースを見て以来、おれらも影響されてパクった部品を 組み込んだ楽器を、ニコイチと呼ぶようになったのである。
今となってはとても良き思い出である。
そして中学校に行って、惰性で吹奏楽部に入部したのだが、 異常に楽器を大切に扱う先輩たちを見てカルチャーショックをうけたのである。
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