目の前が真っ白になるくらいの雨にさらされていた路面が、 今はところどころ乾きはじめている。 濡れているところが海、乾いたところが陸地。 (あれは、スカンジナビア半島の形に似てるな) まるで路面が地図みたいだ。 実際に、アスファルトの凹凸が要因のひとつだろうから、 あながち間違いではないかもしれないが。
私は、海の上を選んであるいてみた。 海と陸の境界線はリアス式海岸みたいに複雑に入りくんで おもしろいなと思う。 道路工事の作業員も行政もそんなこと考えていないだろうが。 とんとん、とんとん、リズムよく飛び移っていく。 ああ、子供のころこんな風に無邪気に遊んでいたときが ちょっとうらやましくなる。 あのころは大人になればいろんなことができると夢を抱いていた。
そろそろ地球一周したかな。 また次の海に飛び移る。 シューーン 普段、往来する車より加速して通りかかる車が一台、 いつもよりタイヤの音が柔らかい音を響かせる。 インテグラ・タイプRの旧型だった。 カッコイイ車好きのあいだでは『タイプR』と呼ばれて、 密かに人気のある車種だ。 ボディの形だけでなくエンジンにもこだわりがあり、 エンジン音に惚れ込むひともいるという。 なんでも、低速回転から高速回転になったときにロッカーアームという 機構が切り替わるらしいが、くわしいことは知らない。 走る車に耳そばだてたが、ロッカーアームの切り替わる音は聞こえなかった。 それでも、カッコイイことはなんとなく伝わった。 ホワイトの車体の走りはレースに見えた。 インテグラは突き当たりまで行くと、わずかにスピードを緩めただけで、 右折して視界から消える。
のこされた私は、車の姿を思い浮かべたあと 海を思い出して路面を見やった。 すると、海陸地に関係なく二本のラインが真っ直ぐに引かれてしまっていた。 地球儀の線もこんな風にひかれているのだろうか。 私は凹凸を気にせずに歩き始めた。
走り去った白い車を今はうまく思い出せない。
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