カフェの住人...

 

 

第十九話 〜幼稚な僕が出来る事〜 - 2004年01月08日(木)



いつも自分の事を根暗だと言う人がいる。

なので、私も一緒になって 「根暗だね」 と言ってあげる。

でもそれは、言葉の上での話だと知っているから。

彼はちゃんと行動をしている。





繊細な音を創るミュージシャン。

よくいる、ひたすら黙々と自分の音楽性に向き合うアーティスト。

そんな感じなので

確かに明るくはないし、すぐいじけるので

年上なのに、つい苛めたくなってしまう。


それでも相変わらず

面白い根暗キャラクターを演じ続けてくれる。









乾いた冷たい風の吹く夜

スーツ姿で背中を丸めながら

ほのかな明かりのこの場所に一人で訪れた彼を見て

ミュージシャンの姿は仮の姿だったと

今日、改めて知った。

彼からしてみると、もしかしたらスーツでいるのが

仮の姿なのかもしれないけれど。




奥さんは家で待っているだろうに。

そう言うと

「そんな日があってもいいでしょう?」

と、いつものように気弱なことを言っている。



なんとなしにだが、元気がない。

「悩みだってあるんだよ」

そう言ったかと思えば

「自分は幸せなんだろうな・・・」

そんなことも言う。


こんな時私は、いたっていつも通りにお喋りをする。

そのうち住人達は決まって

勝手に話出す。




どんな思いを含めてかは知らないが

夢、構想があるんだと言い出した。

実は知り合いから吹き込まれた案ではあるらしいのだけれど

それが出来るような会社にいるので

なんとなく社内でも言い出してしまったという。




それは

ほんの少しでも、毎日の生活の中で

‘あったらいいな’

そんな事。



‘この人素敵だな’ とか

‘この人に会えて楽しかった’ とか

‘感謝’ だとか

どんなにくだらない事でも

出会った喜びってあるだろう。

それを

とあるツールを使って

好きな人にでも、知らない人にでも、誰にでも

伝える方法があったら?

言葉の無いメッセージ。

ただ、あなたに会えてよかったというサインだけが伝わる。


そんな魔法のメッセージが

すぐ隣の人からも、どこの誰かも知らない人からも

知らない間に

自分に届いたら?


私は話を聞くや否や、大賛成だと言った。

想像しただけでも、なんと素晴らしい事だろう。




けれど会社では皆笑い、鼻にも掛けてくれないそうだ。

「僕は幼稚だからね・・・」


「でも今さ、みんな怒ってるじゃん?

 いがみ合ってるじゃん?

 寂しいんだと思うんだ。

 もし、駅の階段で女子高生のスカートがめくれたら

 ほんのちょっと嬉しくって 

 隣にはそれを見て、顔を赤らめていた少年がいたら

 僕は彼女にも、そんな少年にも

 サインを送りたいよ。


 自分は一人じゃない。

 誰かが、自分との出会いに感謝をしていてくれて

 良かったと思っているなら

 きっともっと、平和になると思わない? 」
 






確かに今は ‘まだ’ なのかもしれない。

それでも、私は必ず

みんなが必要とする時が来ると思う。







ここは住人が住人である為の場所だ。

自分でいいんだと、確認する場所。



今は形にならなくても、いつかきっと

願いは叶う。

私はただ、信じるだけ。

今見ている道を信じて歩ければ、それでいいじゃないか。


回り道や、険しい道もある。

ほんの一息付いたら、また歩き出そう。









彼が教えてくれた、秘密のお話。


いつかあなたにも

そんなメッセージが届く日がくるかもしれません・・・







-




My追加

 

 

 

 

INDEX
past  will